第15話 海の水くま

 そう、白いエルフのホワイトさんと話した後、ギルドの受付の列へと、マーストンたちは再び並んだ。


 そして、ギルドの受付側のフォーク並びの先はどんどん、受付へと誘導されていた。

 

 そもそも、多くならんでいるが、パーティーメンバーの複数人が一度に進むし、クエストは掲示板を見てほぼ選択済みで、あっさりと手続きの列は進んでいく。

 

 だから僕らの順番も、あっさり来た。


「おはようございます!」

「「おはようございます」」


 今日もチトセは水兵の着るような、白地のマリーンルックで元気よく挨拶してくれている。

 

「皆さん、先ほどホワイト様の歌声が聞こえたのですが、お聞きになりました? うちの家も代々、女性陣はホワイトさんのファンなんですよ! 行きたかったな~劇」


 そう彼女は夢みるように話した。


「ええ、聞きました。ホワイトさんは僕らの用に気が付いたみたいで、サービスなのか? 歌ってくださったようです。


それで彼女、ダークエルフさんの市民権を得る方法を、教えてくださいました。


それについては正式な書類が、1週間以内にギルドへ届くそうです


。内容はというと、彼女は低賃金という形で、ボランティアをすることになりました。よろしくお願いします」


 そう僕は言うとチトセの顔色が、明らかに曇る。


「あの……ホワイト様ってまだいらっしゃいますか?」


「えっ? ああ、俺が見て来る」

 

 そう、アレックスは人をかきわけて行き、すぐに「もう食べ終わった後のようで居なかった!」と、言って戻って来た。


「では、少々お待ちください」

 そう言って、彼女は奥の衝立の向こうへ行き、しばらくして帰って来た。


「すみません……。今、ホワイト様の専用の書類を探しています。


ここ50年ほどの記録は、几帳面な担当が掘り起こし、記録の修正が出来ております。しかし……それから以前は、まだ手付かずで……ホワイトさまの担当事務員は真面目な方は続かないというか、おおらかな方々が担当だったようで、記録も大らかなものになってしまっています。


なので、ホワイト様から送られてくる書類を待つか、取りに行く事を是非お勧めします。


ちなみに……他に、何かおっしゃってませんでしたか?」


 ダークエルクの判断を人間に丸投げしたい。らしいけれど、それを言ってしまっていいのかな?


「彼女、ダークエルフが住むのは人間の世界だから、人数の少ないエルフの立場からすると、決めきれないようでした。


彼女の生活する世界、人間の世界に、許容できる人材であるという判断を、ギルドに求めている様です。たぶんそれがエルフとして、人間界への譲歩なのかもれませんね。彼にしても、人間界がどれほどの人材なら許容するかはわかっていないかもしれません。人間界の事ですから」


「……そうですね。ホワイト様は、エルフの法律にも興味がなさそうですものね。すいません、たぶん今日は判断できませんが、早くわかったほうがいいですよね……。


クエストこなしてもボランティア活動に認められないと、後から言われてもこまりますよね。すみませんもう一度相談させてください」


 そう言って彼女はふたたび、衝立の後ろへと消える。

 

「アレックス、そこまで言っていた? ホワイトさん」


「いや、言ってない。けど、彼のような人はニュアンスで俺たちを丸め込もうとするから、過去の記録か、本人自身とギルド職員が話して貰った方が話がはやい」


「……そうですね」

  

 アレックスは間違っていないだろう。彼の記録があやふやなように、ホワイトさん自身も……まぁ、そんな感じであるだろう。なら、ものさしは人間界のものの方が僕らにもわかりやすいはずだ。


「おまたせしましたー。すみません、珍しい案件なので上の者もしばらく考えたいそうで……、ですので、おおまかな流れを説明しますね。


ギルドのクエストには様々なものがあります。一般的に有名なのは魔物退治ですが、・ベビーシッター・掃除・輸送・素材集めなど、さまざまです。


手数料、虚偽が過去の事例から見つからなければなんでもお受けします。その中でどの水準のクエストを何件こなせばいいのか、わかりやすいそうです」


「わかりました! ギルドからの答えはいつほどでるでしょうか? できたら3日以内がいいのですが」


「そうですね。ホワイト様がいらしたらお伝えできると思います」

「ありがとうございます」

 受付をいつまでも占有するわけにいかず、僕らはいったん受付を離れた。

 

 そしてダークエルフさんと、ニンフに、ギルドの朝ごはんの受け取りを頼み、僕らはギルドの外へ出た。


「たらい回し始まりましたね……」

「ホワイトが責任を取りたくないように、いちギルドも責任は取りたくないのかもしれない」


「とりあえず、仮で生活が出来て、幸運にも過去の例が少ないせいで、ペナルティーは言われていない。気楽にやればいいさ」

 そうアレックスは言う。


「待ったですか?」


 長い髪の毛をホワホワさせて、ダークエルフさんはやってくる。


 彼女はこの街へくる途中の村で、貰ったおさがりの洋服を着ている。どうやら他の村でもだが、物売りが村々を回っているそうで、着古しの洋服しか持ってない。


「いえ全然、お使いありがとうございます。この街の中心の公園でたべ、いや、海がいいですか? 右手が海です!」

 

 マーストンがそう言うと、みんな海側の右に並んだ。

 子どもの頃から、ふらふらしているニンフさんはいつの間にか、常時いるようになっていた。


 何でだ? と思うが、ダークエルフが加わったからとしか思えない。それからマーストンたちは工夫して意思疎通している。

 

 しかしダークエルクさんが、少しずつ覚えている文字の勉強の時間に、ニンフは『勉強を頑張るのよ』って感じで彼女を温かく見守っているのみだ。


 けれどニンフさんは……アレックスが「ニンフもやろうぜな?」って少しの間、言っていたら、アレックスの文字表をひったくって、迷いなく机の上の『や』って連打していたから……わかっているかもしれない。


 そんな僕らは海へ向かって行く。


「街の『北』側の、ヒの東は、漁港や倉庫街、二側の西側が高級ショップなどの高級街です。砂浜もこっちですね」

「じゃ―西に行こう!」


 砂浜は、ヤシの木が植えられ並ぶ道から、階段で降りる。

 左手は街の外までも続く白い砂浜で、遠く見える向こうに、水色のくまが歩いている。


「アレックス、あの熊は?」

 

「あーあれな、水くまだ。あのくまは全体の97パーセント水で出来ている。


 なので。あのくまの爪で死ぬことはない、噛まれても死なない。


 ただ、体の中に埋め込まれたら水没して死ぬ。


 だから節のない竹を持って行けば死ぬことはない。


 あのくまは……動物を埋め込むことを、唯一の攻撃手段にしてるんだ。だから水圧で死ぬことはないし、なんなら泳げば逃げられる。


 だが……ある冒険者が水面張力で、あの形を保っているのじゃないかと推測した……。

 そして食器用洗剤を、体に流し込むことをやってみた。


 そして海の漁師に見つかって、めっちゃ怒られたらしい。


 だが、結論として……食器洗剤色付きでやった方が良かったって結論に達したらしい」


「すみません。水面張力うんぬんはどこへ行ったのですか?」

 

「本人、水没させられたらしい。続けてたら死んでたらしい。3回目で洗剤の味がしたそうだ。だが、思うに水圧とか全然ないのだし、閉じ込められないのなら、水面張力が機能してないかもしれない……。だからあのくまにあったら平常心で泳ぐことが優先だろう」


「わかりました」

 僕はふたたび、水くまを見た。

 彼は僕らには非日常の、海の砂場を歩いている。


 その前にニンフが居て、何かを投げる。

 それは木の棒の用でもある。


 水くまが、ニンフに向かった時、くまの足元が拘束されるように、動けなくなったようだ。


 そしてそれはニョキニョキと緑の鎖が、水くま全体を覆い始める。

 

「ストープ!!」


 マーストンは慌てて、走って行きぶちぶとと音を上げて、ニンフが投げ入れた何かを回収した。


「ニンフ、食べるものだから、生の水くまに生の薬草を植えるのはやめよう。まず調べてから、あのくまでも、少しは毒を含有しているかもしれない」


「ここだと、体内は塩水が大部分だが、3パーセントが気になるな。だが溺れるのみ注意がきだから、死なないと思うが水が停滞しているから食中毒になるかもな? 前回と同じ成長の早さなら、いっきに水を吸い上げるだろう薄まらず、バイ菌が濃くなるかも……」


「そうだよ。もう朝ごはんを食べよう」


「俺が一番大きいの取ろう!」


 そいって太陽のような赤髪を揺らしアレックスが走って行くと、金色の髪のニンフが彼を追って行く。


 そしてブチブチという音をたてて、残りの薬草の木だったものを引き抜くと、慌てて水くまから逃げたのだった。


   続く 


 

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