第13話ふたたびブルーノさんの家へ

 海辺の街のオアハジでの、初の合同クエストではオオカミの手掛かりはなかった。


  地図の目印を目掛けて行って、帰って受付に連絡する。

 その繰り返しが基本のようで、一通り冒険者をまわらせたのだろう。


 1回目の報告時には、1時間様子を見て終了という雰囲気になっていた。

 それまでは基本に忠実に、狼の出没した場所で、痕跡を探すことになった。


 しかし痕跡は探しては見たものの、そもそも箱開け、罠を見つける目を持つシーフでもない僕らが、いくら注意深く雑木林の中を探しても無駄だったようだ。

 鳥の足音や、羽の羽ばたきの音を聞き、慌てることくらいしかできなかった。

 

 そしてついに、ニンフはマーストンに両手を差し出した。


 「足がつかれたのですか……」そう言って彼は、彼女をおんぶする事となる。


 けれどマーストンのパーティーで1人、ダークエルフさんだけは探しながらも剣術の腕を磨くという成果を着実に上げていく。


 長い森での暮らしだったせいか、アレックスに林を走らされても、木に木剣を叩き込む訓練を精力的にこなしていく。

 

 身軽に坂をかけ上がっては、マーストンから回復を受けて、彼の魔力が無くなれば、一緒に薬草を食べる。


 しかし……最初に音を上げたのは、彼女だった。

 

「葉っぱ、苦いと集中できません……」


 なるほど、その通りだった。やり慣れない修行に、苦い葉っぱ、ある意味、あの闇の妖精に勝る虐待行為だろう。


 ――だって僕も3回目で音を上げて、薬草ストップしたもの。


「むやみ、こんなに苦い薬草は食べたくないです。続けては食べられません……」


 マーストンが膝に手を当ててうなだれている中、ニンフは背中から降り、薬草を手に持ち、彼の頬へ押しあてているところで、アレックスからの戦士ストップが出た。

 

 それに怒ったニンフは、アレックスに薬草を差し出したら「サンキュ! 今、ちょっと疲れてたところだったからな!」と、器の違いを見せつけてくれたので、ニンフも満足してくれたようだ。


 そして訓練は終わった。


 ――本当に薬草というか、生の草だけを歩く合間に食べるのは、きつすぎました……。

 

 戦闘の合間だと、他に意識が集中してたり、高揚感で結構食べられるのですが……。


 そしてただ歩くだけで終了の時間を迎えた。マーストンたちはふたたび雑木林から道へと戻る。


 帰る道すがら、スレッグさんが、馬に乗ってやって来た。


 「お前たち、クエストは終了でいいぞ。お疲れ」


 そう言って彼は、手に持ったボードへ何か書きつけて、次の冒険者を探しに行ったようだ。

 

 こうして、オオカミ探しは何の成果もないまま終わった。せめて、巣ぽい場所が他の冒険者によって発見できていればいいけれど。


「次はブルーノさんの家へ行きましょうか」

 

「そうだな。薪などを持って行けば喜ばれるだろうが、ここら辺の土地の持ち主についてはまだ、詳しくないから今度でいいっか」

 

「新しい家で、お掃除します」

 

 そう言うダークエルフさんを、ニンフがナデナデしている。

 すっかり、ダークエルフさんのお姉さんのつもりなのだろう。


「ところで、ダークエルフさんの名前、何か考えましたか?」

 

「私、ダークエルフさんでいいです。本当の名前がみつかったら、その名前に戻すから、今はこのままダークエルフさんのでいますね」


「えっ? アレックス、どう思いますか?」

 

 彼が振り返って見ると、アレックスはもう一枚、薬草を貰っていたようで葉脈などを確認するように、クルクルと薬草を見ていた。

 

 その隣で、匠のようにニンフが腕を組み、うんうんとうなずいている。


「本人が、それでいいなら、ダークエルフって名前にしといてもいいんじゃないか? ただ、ダークエルフさんって名前じゃなくて、ダークエルフだからな。マーストンも一応もう、パーティーメンバーなんだからダークエルフって呼べばいいと思うぞ」


 ダークエルフ……、ヒューム、なんとなくダークエルフさんは呼び捨てしにくい。

 そんなところがある。種族名だからかと思ったけど、そんな事はないらしい。


 褐色の肌、黒く、艶のある髪の毛、そして水色の瞳、彼女をどちらかというと人なっこい笑顔、決して人を寄せ付けないってところはないのだけれど……。


「ダークエルフ?」

「はい、なんですか?」


 「うーん、すみません。やはりダークエルフさん呼びでいいですか? なんか素直ににっこり笑われることに、免疫がなくて……」

 

「えっと……いいですよ」


 そう、戸惑いながらも、ダークエルクさんがにっこり微笑んでくれた。

 

 しかしニンフには薔薇色の頬を膨らませ、グウで肩を叩くようにトントンとされてしまった。


「叩かないで、ニンフ、君は姉や妹のような者だから、空気みたいに気にならないと言うか。居て当たり前みたいなものだから」


 そう彼女にそう言ったのに、彼女は薬草をぴらぴらと見せてから、ダークエルフさんを連れて先に行ってしまった。


「もう、あーげないってところだな」

「アレックスは凄いですね。難解な彼女の心理を読むなんて」


「そうか? わかりやすいと思うけど、俺の言うことじゃないからな。教えてやることはできないが……、まあ、いいや、家を借りた場合の必要なものと、借りなかった場合の必要なものをあげていこう」

 

 そう人付き合いの良い、彼は話を切りあげた。


  ◇◇◇


 ブルーノさんの御宅へ寄ると幸運なことに彼は居て、オオカミが荒らし、マーストンが破壊した家を自分で片付け始めていた。修理も玄関の部分はさすがに修理されていた。バツ印で、木の板が打ち付けてある。

 

「やあ、君たち先ほどはありがとう」

 

「いえいえ、先ほどまでオオカミの捜索をしていたのですが、成果は0のようでした。総合的な結果はわかりませんが、今後も注意するに越したことはないかもしれません」


 そういうと、壊れ、外した床板などを見つつ、彼は深く考え込んでいる様だった。


「時には、振動の観測記録の予想の結果より、早く魔物が活発化する時があると聞きます。心配するのは正しい反応ですが、ギルドも今までの経験の蓄積がありますから。取り越し苦労だといいのですが……」

 

「でも、備えは大切だからね。それにはまず、君たちに祖父の家を見せるよ。君らが気に入ってくれれば、いいのだが……」


 そう彼は言って、マーストンたちを隣の家へと案内してくれた。


 玄関から入ると、先に掃除をしてくれていたのか? 雨戸は開けてあり、室内もきれいに掃除してある。


 やはり玄関から廊下がのび、右手側はキッチン、その奥に階段とダークエルフさんが入れられて居た、物置。


 その奥にリビングルーム、そして突き当りがトイレ。

 キッチンとリビングがつながっており、リビングルームの奥に浴槽がある。


 2階は5部屋に分けられていた。だいたいありふれたつくりの家のようだ。

 使う予定があったのか、そんなに古くもないし、床も鳴ることはない。


 これはここで決まりで、いいだろうって顔を見合わせた中にニンフがいない。


 1階を探しても同様だった。また、自由行動に切り替えたのかな?


 「マーストン、あそこ」

 

 ダークエルフさんが外を指さした場所をみると、ニンフが畑を歩きまわっていた。


「あぁ! すみません。ブルーノさん大事な畑を!?」

 

 マーストンは平謝りする。


「あー、そこ? あれも祖父の畑ですよ。貸してはいたのですが、こんな事があり、長期間安全が保障されてないのなら、畑を貸すことは困難かと考えて、相談してきたのですが、やはり……相手も様子を見させてくださいってことでした」


「それは……」

 

「相手とも長いですし、他に貸しにくいので、来年のこれくらいまでは自由に使っていいですよ」


「何から何まで、ありがとうごいます」

 って言ったとこで、アレックスが「あぁぁぁ!?」大きな声をあげた。


 見てみると、ニンフの前にこんもり、草が生えている。まさか!? まさか!? と、思って走って行くと、薬草が畑いっぱいに植わっていた!?


  続く

 


 


 


 

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