第11話  Which one is the thief?

 それから数日後、俺たちの情報提供により騎士団は難なく犯人の運送業者を見つけ確保した。

 捕まったのは50代の男性。過去にも窃盗の前科があったらしく身分を偽って働いていたらしい。貴重品を取り扱う為、前科者は雇ってもらえないからな。


「それにしても、この顔ウケるな。めっちゃ整ってない不細工な顔」


 地方新聞に載っている犯人の写真を指差し、声高に言う東瀬。

 

「人の容姿を悪く言うのはあまり感心できない。それにそういうところが嫌われる要因じゃないのか?」


 生まれながらに恵まれない容姿の人、事故や怪我などで体に傷を負ったもの、そう言った人への侮辱になる。

 そして侮辱をしてしまうのは、毎回それ以外の当事者ではない人たちだ。


  「いやでも、睨めっこしたら絶対に素の顔のままで負けるぞ?」


「いやでもじゃない。幸い今は俺とお前しかいない。女子に嫌われたくないだろ?」


  「あぁ、もちろん嫌われたくねぇ・・・悪かった。つられちゃんとの仲がもっと悪くなっちまうのは最悪だしな」


 頭を掻いて謝罪をする東瀬。


  「つられ・・・新入部員か。そういえばお前、この前宝石店で緑色の魔法石を見てなかったか?」


 東瀬は1回目の調査の時、緑色の魔法石を凝視しておりその際に宝石が消えてしまったのだ。なぜ緑色の魔法石を見ていたかは、新入部員との仲を修繕するためのプレゼントと予想できる。男子向けの宝石じゃなかったしな。


「いや、見てたけどよ。何でお前が知ってんだよ」


「それは今の話に関係ない。見ていたなら丁度いい。あれに似た宝石が『嫌井屋(いやいや)』で安く売ってたぞ」


「ん?おお、そうなんだな」


 察しが悪いな。東瀬にはちゃんと言わないと伝わらないか。


「新入部員にプレゼントしてみたらどうだ?少しは今の関係がマシになるかもしれない」


  「プレゼント、あぁ!そうか!確かにあの時は高くて買えなかったし、嫌井屋(いやいや)あそこなら安いしな」

 

「確か残り一個だったぞ」


 そう言った瞬間、東瀬は足早に部室から去っていった。


 走り出して行った東瀬を見届けた俺はバッグに入っている緑色の宝石を取り出し、置いていったままの東瀬のバッグの中に入れておいた。


 準備は整った。


 俺は魔力感知を開始した。薄い膜のような魔力の波が周囲に広がり始め、その膜はここら一帯を呑み込み、この国を呑み込み、地球を呑み込み、


 そして、異世界にまで浸透し始める。


 ***********************


 人に住まわれなくなって、もう何年も経った廃村。

 今でもかつての人が住んでいたと思われる家々は形を保っており、住める状態ではある。


 目を凝らせば奥の方には古竜城が建っているのが見える。


 この廃村はその古竜城へ行くための検問的役割をかつて果たしていた。


 だがそれも昔の話である。この村の住人は「叛逆者の村」として粛清され、今も過去の過ちを犯すものが出ないように戒めとして状態を保って残されている。



 この村に入れば、叛逆者とみなされるため自ら入るものは少ない。また、逃亡者などがよく住処として使うため、年に2回不定期に巡回が行われる。


 年に2回、たったの年に2回だ。私はそれほど長いする気はない。余程運が悪くない限り休息の地として最も安全な場所として使えるだろう。


 私は右手に持っていた地方新聞を投げ捨てた。私のダミーが捕まったのは確認できた。この新聞はもう用済みだ。


 だいたい、宝石が偽物と入れ替えられていると見破れたのなら、実行役もダミーである可能性を疑うべきだ。これだから、まだあの事件の犯人を捕まえられない無能集団なんだ騎士団は。


「それにしても私のダミーやっぱり下手くそだな。あまり魔力操作が得意じゃないから顔がぐっちゃぐちゃ、ウケる」


  ダミーは何回か捕まっているため、魔力による作り物だと気づくことはないだろう。過去の犯罪の失敗が今に役立つ。


 また、ダミーは所詮ダミーなので魔法石の在処は吐かない。そろそろ犯罪背負わせすぎて殺されそうな気がする。


 まぁそうしたらまた別のダミーを作ればいっか。


 ***********************


 異世界にまで普及した魔力感知の膜はどんどんと侵食を始める。


 やがてそれは波打ちをし始め、その振動は徐々に早くなる。


 波打っていた魔力感知の膜は嫌井屋を焦点に一気に収束。否、東瀬に向かって収束を始める。


「見つけた」


 俺は、東瀬の体を一時的に奪い取った。

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我々は今ここで異世界で ウミガラス空 @Sorakarasu

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