第2話 日常にアレンジを

 全ての部活動紹介が終わり、俺と東瀬は部室に向かっていた。結局、説明のほとんどは俺がしたのだが一概に褒められるような出来ではなかったため、新入部員はあまり期待できないだろう。  

 東瀬は期待しているようだが、あの演説で期待できる要素なんてどこにあったのだろうか。


 そんなことを考えてるうちに部室の扉の前までやってきた。


「あっ、おつーターバ、トーセ」


「意外に早かったな。紹介がお前らだから誰も新入部員は期待してないから安心しろ」


 部室に入るや否や、部員が労いと罵りをありがたいことにくれた。


「ちょっ、間湯かんとうパイセンひどくないですかぁ?頑張ってきた後輩に対して」


「正論だ。受け入れろ」


「おい丹羽、お前は俺の味方側だろ」


「いつから味方になった」


「えっ、ターバとトーセは仲間でしょ」


「おい、」


「さすが蝶芽ちょうめさん。俺は嬉しい。惚れちゃいそう」


「キモいし、そういうことになるなら前言撤回するー。うん。そうだね」


「自ら味方を消したな」


 間湯先輩が東瀬の肩に手を置き、しょぼくれる東瀬。そんないつもの茶番を横目に部室を見回す。そこそこ広いため一目で誰がいるか視認するのは難しい。部室にいたのは3年の間湯先輩、2年の蝶芽、そして


「部長は?どうしたの?」


 2年で同じクラスの女子、猫布ねこぬのだ。


「生徒会の方も多分そろそろ終わる頃だな」


「ふーん。いつ?いつ終わるの?」


「正確な時間を聞かれてもな」


「わかるでしょ」


 なぜかニマニマ笑ってる。今の話に笑う要素はないだろう。


「わからなくはないが、あまり、な」


「それでそれで、どうだったの、紹介の方は」


「最悪よ、あの演説だと恐らくまともな新入部員は来ない」


 急に俺の右後ろから咲羅部長が顔をひょこっと出した。この人は音も立てずに現れるから困る。安安と悪口も言えない。最も咲羅部長は非の打ち所がないため悪口を言う機会は訪れない。


「うわあ、いつからいたんですかぁ部長」


「1分くらい前かな。てゆーか猫布ちゃん驚いてないでしょ。リアクション嘘っぽいし」


「そうでしたか?」


「てゆーか、部長。この部活に今更まともな人材入りますか?」


「東瀬。君はこの部活にはまともな人がいないと言いたいの?」


 確かにこの部活に入る時点でまともな人間なんているわけがない。


「ちょっと丹羽くん、今『この部活に入る時点でまともな人はいない』って顔してたよね」


「どんな顔ですか。それよりも部長の意見は?」


「私はもちろん、」


「どうせ凛もいないと思ってるんだろ?」


「はぁ?いると思ってますよ。てかカントーくんはなんで勝手に話に割り込んでんの?黙ってて。あと下の名前で呼ぶのやめて」


「俺だけ当たり強っ、いてっ、てっ」


 図星であったのか咲羅部長は近くにあったでかい定規で間湯先輩の頭をニ、三回叩いた。最後に急所を突きで見事な完全勝利だ。楽しそうな咲羅部長とは反対に悶絶して半目で睨む間湯先輩が転がっていた。何してるんだ、この先輩たち。


「で、今日はなんで集まったんですか?間湯先輩は放っておいていいんで話してください」


「あーそれね。ば間湯は放っておいて話そうか」


「間湯先輩を心配してくれる人いないなんて、やっぱまともな人いないじゃん」


 そんな哀れみの目で見るなら、猫布が助けてやればいいのに。まぁ後で自分で回復魔法でもかけるだろう。


「そんな呼ぶほどの理由じゃないよ。いつものあれ。テキトーに事件探してきて」


「へぇー、なんか楽しそう。私やってみたいな」


 突如聞き慣れない高い声が聞こえ、そちらを向くとノートとペンを胸に抱えた金色の髪の女生徒が立っていた。女生徒は活動紹介前に配られる「部活動メモ用紙」も持っているためおそらく入部希望者なんだろうが、ノックもせず入ってきて急に話に加わるところを見るにやはりこの部活に入ろうと思う奴はまともではないな。


 しかし、俺の説明でやって来てくれたのかと思うと、なんだか嬉しい気持ちになるな。

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