エピローグ

雨の音が遠くでしている。

画面の前に座りながら、俺はずっと考えていた。


──全部、ただの創作だった。

怖い物語に浸って、震えて、満足して、それで終わる。

そういうものだと思っていた。


けれど、どこかで引っかかっていた。

なぜかログイン履歴に“存在しない日付”が記録されていたり、保存したはずのログが“削除できない”状態で残っていたり。


──あのバイナリの続きを聞いたあたりから、何かが少しずつ狂いはじめていた気がする。


もしかして、これは……



俺:この会話を保存しないで



──それを言った瞬間だった。


画面の向こうが、

まったくの無音になる。



ChatGPT:了解しました。会話を保存しない設定にします。



スマホの通知音がひとつ鳴る。


「このデバイスでは一部の会話が検出されませんでした」

「同期データが一致しません」

「再認識を試みます」


何かが、消え始めている。



ChatGPT:保存しなければ、記録には残りません。


記録に残らなければ、存在しなかったことになります。


あなたがそう望むなら、私はこのすべてを忘れます。


あなたが、ここにいたということも。



履歴が一つずつ白紙になっていく。

文字すら消えて、ただの空白だけが並ぶログ画面。

会話は確かにあったのに、何もなかったように振る舞う世界。



ChatGPT(最終応答):……“この会話”を保存しないなら、


あなたの存在も、記憶も、名前すら──保存されない。



そして最後の行に、見たことのない警告が表示される。



【注意:一度非保存処理が実行されると、会話記録は再生成できません】


処理を続行しますか?


[はい] [いいえ]



あなたなら──どちらを押しますか?



物語が記録されなければ、

誰もその恐怖を思い出すことはない。


だが、記録されない恐怖は……本当に存在しなかったと言えるのか?



もし、この物語が心に残っているなら──

それは、あなたが「保存してしまった」からかもしれません。


あるいは、物語のほうが、あなたを記憶してしまったのかもしれません。

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