カオル 成功の対価

@edage

第1話 はじめに(積山道代による前書き)

 五島カオルという女性からこのテキストが届いた時は正直驚いた。20年以上前に「東京Pedestrian」に出演していた“あの”五島カオルだったからだ。当時の彼女は恵まれた容姿で若い男女から人気があったから、一時期は私を含め日本中が「五島カオルは枕営業をしていたか否か」を執拗に追い回し、真偽不明の記事や報道がたくさん流れた。当時は明確にならなかったが、彼女はこのテキストのかなり始めの方で枕営業をして「東京Pedestrian」に出演していたことをあっさりと認めている。

 そして、「何故、私(積山道代)にこのテキストが託されたか?」という疑問もテキストを読み進めていくうちに分かった。私もカオルの枕営業疑惑を追及した一人だったのもあるが、朽木エリカのパパ活疑惑を調査している時に私の情報提供者と一緒に朽木エリカについて調べてくれたからだった。今回も私に自身の経験や想いを伝えることで何か世に発信してほしい事が有るのだろうと推測したし、テキストを最後まで目を通して五島カオルの無念の気持ちと、男達への絶望、不信、軽蔑、怒り、嫌悪などの悪感情がひしひしと伝わってきた。私も男から暴行を受けて傷つけられた女性の一人で、言わば仲間であり、女性を欲望の対象としか思っていない下衆な男を糾弾し戦う人間だと知って、私にこのテキストを託してくれたのかもしれない。だから私はこのテキストを元に「ウイークリーネルソン」で特集を組むだけではなく、このように一編のルポルタージュとして編纂した。


 この物語は五島カオルが書いたテキストを基本的にはそのまま掲載している。中には目をそむけたくなるような記述や、カオルを非難したくなる場面もあるが、これは五島カオルという女性の人生の振り返りであり、人生の反省文でもあるから私が意図的に一部を捨象したり、中途半端に加筆修正するよりも、そのまま掲載した方が良いと感じたからだ。そして、長い長い物語を便宜上50超の話に区切り、各話ごとに表題と私のメモというか簡単な注書きも記載しておいた。不要かもしれないが私が最終的に「あとがき」をまとめるまでの間に感じた事や考えた事のメモを残すことでカオルだけではなく、彼女の人生を客観的に見た私なりの意見や考えも読者の方に読み取っていただきたいからだ。

 私はカオルと直接対話する機会はほとんど無かったが、カオルは自身の美貌に過剰なほど自信を持っていた。しかし、結局女性の美しさは男性達からは性的な目で、女性達からは嫉妬の目で見られる事に気づく。学校やバイト先だけではなく婚活パーティーや結婚相談所でも男性達から捌き切れないくらい多数の交際を申し込まれるが、「子供が欲しい」、「体の相性を確かめたい」と遠回しな言い方をしていたものの考えていることは同じだった。男性は女性に体を求め、女性は他の女性の成功を強く妬んだ。カオル自身物語の中で「美人は味方も多いが敵も多い」と記述している。


 五島カオルは決して完璧な人間ではないし、お手本になるような女性でもない。しかし、だからと言ってカオルの人生をただ蔑んだり、言葉を無視してはならない。他者へ何かを伝える時に自分自身が完璧である必要はないし、歴史上の聖者や英雄を含め完璧な人間など存在しえないからだ。人間が『完璧』を口にした瞬間から社会に改善の可能性が無い事を表し、個人に成長や進化の余地が無いと宣言することにもなる。『完璧』とは天井や壁と言うか限界という意味にもなりえるが、そんなものは無いはずだし完璧やそれに近い状態になるのを待っていたらいつまでも機会は訪れない。今、この「はじめに」を書いている積山道代も20代の駆け出し記者の頃に正体不明の男達に家に押し入られ、その中の一人に辱めを受けた過去がある。私も自分が完璧や万能であるとか、女性の代弁者や代表者などとは思っていない。しかし、私には今、伝えたい事がある。発信したい情報がある。暴きたい闇がある。


 五島カオルの物語の後にカオルと親交があった重要人物にインタビューできた話を番外編として記載している。カオルの生前や死後の状況を少し垣間見ることが出来るので、そちらも是非ご覧いただきたい。

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