海馬の檻
熊鼠
新人さんいらっしゃい
時は2xxx年、それは突如として現れた。すりガラスのような膜に覆われたドーム、通称『檻』
この中では電気やガスといったライフラインが途絶され混乱を招いた。しかし1番の混乱の理由はそれではない。最大の混乱理由、それは既に死んだはずの人間、俗称『ゴースト』の出現だ。『ゴースト』と接触した人間は『檻』から出ることを拒否。強引にドーム外に連れ出すと廃人とかして死亡した。 それから数日後『檻』が突如としてその範囲を拡大し始めた。後の研究によるとドーム内で人間が死亡するとその範囲が拡大する性質があると判明。ことを受けた政府は『檻』から5km以内の接近を禁止、原則立入禁止を命じた。人間は生存エリアの30%を失ったのだ。
15年後、『檻』の性質を解明するべく研究チームが編成されていた。今日はチームに新人が加わる日だ。
「本日からお世話になります!◯◯大学出身の麦屋真央と言います!精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
「ようこそ研究チーム第6班へ。歓迎するよ。私はこのチームのリーダーをしている神守新一だ。よろしく頼む。」
「よろしくお願いします!」
「こっちが副リーダーの白谷裕子。チーム全体のスケジュールと各方面との調整を行ってくれている。何か申請することがあれば彼女に相談するように。チーム内での唯一の女性だから、女性ならではの相談も彼女にするといい。」
「よろしくね麦屋さん。」
「はい!よろしくお願いします!」
「次に持ち帰ったデータを整理・解析している今村拓人だ。フィールドに出ている間は外部から檻の中を案内してくれるオペレーターもしている。
「今村です。新人さん、よろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくお願いいたします!!」
「次に機材搬入等の細かい作業を担当している常田彰人だ。君の教育係をしてもらう。仕事上相談がある時は彼にするように。」
「新人ちゃんよろしく〜」
「常田先輩!よろしくお願いします!」
「チームメンバーの紹介は以上だ。ここまでで不明な点は?」
「問題ないです」
「よし。ではこれから先は常田に業務についての説明をしてもらってくれ。頼んだぞ常田。」
「承知しました〜。じゃ新人ちゃんついて来てね〜」
「改めて君の教育係になりました常田彰人です。よろしくね~。」
「麦屋真央です!よろしくお願いします!」
美しい45度のお辞儀。この子、なかなか面白い子かもしれない。
「うん。これから諸々の説明をしていくんだけど、聞くか迷うようだったら遠慮なく質問してね。」
『檻』内では不測の事態が十分起こりうる。不要なリスクを避けるためにも遠慮なく発言できるようにしとかないとね
「ここが君のデスクね。引き出しの中とかは自由に使っちゃって〜。パソコンについては特殊なやつじゃないしわかるよね?ちなみにリーダーにモニターされてるから、業務中にゲームとかしてるとすんごい怒られるから気をつけて。ちなみにこの仕事についてどんぐらい知ってる?」
「檻に実際に侵入してデータを持ち帰り『檻』の性質を解明する....ですよね?」
「上々だね〜。これからの新人ちゃんのとりあえずの仕事は基本的な調査の流れを覚えてもらうことなんだけど、まずは事前準備からだね。」
「準備っていうと機材とかのですか?」
「そうそう。基本的に準備する物品は5つ。何かわかるかな?」
「え〜と。バイザーとお水、あとは測定機材ですかね?」
「惜しいね。基本的にはバイザーと無線機、それと緊急用のサバイバルセット。そして認識用のマーカーと測定機材だね。」
『精神汚染対策用特殊バイザー』視覚による『檻』内での精神汚染を防ぐ目的で装着する。充電式で最大48時間効果が持続する。
「それぞれの道具がどういった理由で持っていくかわかるかな?」
「バイザーは『檻』内での精神汚染を防ぐため。無線はオペレーターとの通信用。サバイバルセットはもしもの時のための備え。ここまではわかるのですが、マーカーは一体?」
「マーカーは目の前にいる人間が『ゴースト』がどうかを見極めるために使われる。いくらバイザーがあっても『ゴースト』を消せるわけじゃない。だから目の前の人間が本物かどうかを見極める目印になるんだよね。」
「勉強になります!」
『個体識別認識用マーカー』主に頸部に装着する。チョーカーのような見た目をしており側面から前に向かって一定間隔で赤外線を照射している。『ゴースト』と生身の人間の区別に使われる。バイザーを通すことで装着者の情報を読み取ることが可能。
「無理にそんな敬語使わなくても大丈夫だよ。ここまででわからないところは?」
「大丈夫です!」
「よし次だね。機材以外に準備しなきゃいけないものがあるんだけど、それが何かわかる?」
「えーと。あ!檻調査申請書!ですね!!!」
「だいせいかーい!やるね新人ちゃん。他にも持ち込む機材、無線の周波数、目的としているデータも申請しないといけないんだ。」
「そういえば目的ってどうやって決めているんですか?」
「神守さんと白谷さんが話し合ってまずは目的地を決める。その次に今村さんの3人で足りないデータを確認して、それを目的にルートを組み立てる。って感じかな。」
「なるほど。」
「日程調整とか諸々の申請は白谷さんがしてくれるから、俺たちの仕事は決められた期日に求められた情報を記入して白谷さんに提出すること。簡単でしょ?」
「はい!真面目にすることだけは得意です!」
「ははっ!いいねぇ。ちなみに期日をはみ出すと色々面倒なことになるからこっちからリマインドもするから出来る限り自分で確認してね。」
「そしてこれが調査前に提出しないといけない情報一覧になりまーす。」
「お、多いですね....」
「多いよねー。けどまぁこんだけガチガチにしとかないと危ないところってことだよ。この〔申請書類.金型〕っていうファイルに諸々入ってるからこの後確認してみて。ここまでで聞きそびれたことは?」
「おそらく大丈夫だと思います!」
「おっけー。とりあえず午前中のお仕事は申請書類とはファイルとかをざっと目を通すことで。午後からはこの施設の案内するから。」
「わかりました!」
「はーい。よろしく〜」
とりあえずの説明はひと段落かな。最初の印象通り真面目ちゃんって感じだね。しばらくの間はチームの雰囲気に慣れてもらうことと『檻』についてのお勉強かな。
〈12時30分となりました。昼休憩を取ってください〉
「じゃあ12時半になったし昼休憩入ろっか。今日お昼は持ってきた?」
「事前の説明会で給食があると聞いたのでそれを使おうかと。」
「いいね。じゃあ食堂に行こっか。あ。パソコンは一応スリープにしといてね~」
「はい!」
「よし、そんじゃ食堂に向けてしゅっぱーつ。」
2F食堂にて
「ここが食堂ね。研究員は福利厚生の一環で給食無料だから好きなの頼みな~」
「いろいろメニューがあるんですね。ちなみにおすすめってありますか?」
「僕のおすすめは日替わり定食かな~。飽きないし。」
「じゃあそれにします!!!」
「じゃあ注文してくるからテキトーに席確保よろしく~」
「了解です!」
注文後
「そういえば今週金曜の夜って空いてる?」
「空いてますけど....なにかあるんですか?」
「君の歓迎会をしようかなって。主役がいないと開いても意味ないでしょ?ちなみに 神守さんのおごりだから」
「いいんですか!?嬉しいです!」
「楽しい歓迎会に向けてお仕事頑張るぞー」
「おー!」
1Fロビー
「よし。じゃあ施設案内していきます。ガイドを務めます常田彰人でーす。よろしくお願いしまーす。」
「よろしくお願いします!」
「元気があってよろしい。まず正面に見えますが受付になりまーす。出勤してきたら左右のゲートでカードを通せば通れるからね。自動で出勤処理されるからなんと楽ちんなのでしょう。はい、ここまでで何か質問は?」
「最初カードもらった時に常に持ち歩くよう言われたんですがそれは何故なんですか?」
「いい質問ですね~。そのカード身分証にもなる優れ物って言いうのもあるんだけどそれだけじゃないんだよね。実は各部屋,施設に入るとき出るときにカードが必須なんだよね。持ち出されるとしゃれにならないものもあるからね~。面倒に感じるかもだけどここはよろしくね。」
「了解です!」
「よし。じゃあ次ねゲートを通り抜けると正面にエレベーター左右に道がございまーす。左に進むと社用車だったり檻に入るとき用のバンがある駐車場、右に進むと事務室がございまーす。車の鍵だったり金庫の鍵が管理されてます。なにかしら福利厚生で使いたい制度があるときは相談してみてくださーい 。質問は?」
「ありません!」
2F
「到着でーす。2階には手前から食堂,休憩室,仮眠室がございまーす。必要があれば躊躇なく使いましょう。では3階に参りますよ~」
3F
「3階は機材置き場となっておりまーす。機材ごとに部屋が分かれているので部屋の名前見ればだいたい何があるかわかります。なんとわかりやすい!!一番奥の部屋には紙媒体での資料が保管されてまーす。まぁパソコンで閲覧できるし行くのは新しく作った資料を置きに行くときぐかな。ここまでで不明な点はございますか~?」
「機材を借りる際のルールとかってありますか?」
「基本的には事前に持ち出す機材名,数,期間,使用者を申請するのがマストかな。部屋の中に貸出簿があるからそこに記入するのも忘れないようにね。」
「はい!」
「よし。お次は4階~。」
4F
「ここはいつも仕事をするオフィスがありまーす。僕たちのオフィスは手前から三つ目の左手側ね。まぁここは説明しなくてもいいでしょ!」
「お次は屋上ねー。基本的には車移動なんだけどたまにヘリ移動することもあるからヘリポートになってるよ。4階から屋上までは専用のエレベーターで移動するようになってまーす。高さが必要だったってのと近隣への騒音対策らしい。入るにはリーダークラスの許可が必要だから無断で入らないようにね。ここで最後だけど質問は?」
「ヘリ移動が必要な時ってどんな時なんですか?」
「まぁ一番は緊急時に車よりヘリのほうは早いときかな。例えば高い山の上とか。他にも理由があるんだけど.....まぁそこは明日かな」
「明日ですか?」
「そ。明日は一日かけて檻に関する講義と調査の基本について教えるから。」
「わかりました!」
「よし。じゃあオフィスに戻って業務に戻ろっか。分からないことがあれば躊躇なく聞いてね。」
「はい」
〈17時になりました。本日の業務は以上になります。お疲れさまでした。残業を行う場合は上席者への申請をお願いします。〉
「新人ちゃんそこまでにしよっか~。お疲れ~。初日はどうだったかな?」
「緊張で死にそうでしたがなんとかなりました!」
「ははっ!じゃあ今日はさっさと帰ってゆっくりしな~。明日は座学をするからノートと筆記用具を忘れずにね~。質問は?」
「大丈夫です!」
「よし。じゃあお疲れ様~。また明日ね~」
「お疲れさまでした!」
「よし。ちゃんと帰ったね」
まだ初日ってこともあるけど適応が早いね。僕以外のチームメンバーともコミュニケーションも取れてたし、大きな問題はないかな~早く緊張を取ってもらうようにしないとね。
「常田。麦屋はどうだった?」
「神守さんお疲れさまです。いや~呑み込みも早いし、ちゃんと分からないトコも聞いてくれる。なかなか優秀そうですよ。最近の若者はすごいですね~」
「そうか。お前は初日から寝坊する問題児だったからな。それに比べれば誰でも優秀だろう。それはそうと歓迎会の件は大丈夫だったか?」
「はい。話を聞いてすんごい喜んでましたよ~。あ。今日残業でお願いします。」
「承知した。あまり遅くならんようにな。明日も頼むぞ。」
「お疲れ様です。」
さて自分の残った仕事をしつつ情報を集めなきゃね。
あの日行方不明になった弟の情報を
海馬の檻 熊鼠 @kumanezumi06
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