第3話 山間部の病院

 それでも、十分に、

「他の影響を受けることに抵抗がなくなってきた」

 というのは、

「若者が都会に憧れてきた」

 ということが原因であり、元々は、

「都会になんか出ていくのは許さない」

 という、完全に、

「鎖国政策」

 というものを行っていたのだ。

 ちょうどその時、

「伝染病が流行っていた」

 というのも、一つの原因だった。

「全国で流行っている」

 というわけではなく、このあたりだけのことで、特に、近隣の数個の村でだけ発生したおのだった。

 県から、衛生局の人がやってきて、

「隔離政策」

 というものを行った。

 相手が、

「伝染病」

 ということなので、逆らうこともできない。

 それを考えると、

「自治体には逆らえない」

 ということで、政策に従うしかなかったのだ。

 そんなこともあって、このあたりの麓に、

「病院」

 というものができることになった。

 実は、その基礎になる建物というのは残っていた。

 それは、実は、

「大日本帝国時代に、細菌の研究をしている研究所だった」

 ということだったのだ。

 その研究室は、明治の途中くらいからあり、結構大きかったわりには、そんなに人の出入りはなかったという。

 今でも言われていることとして、

「国家の秘密研究所だった」

 ということから、

「あの時代の歴史を勉強している人であれば、思い浮かぶものがあるはずだ」

 それが、

「731部隊」

 と呼ばれるもので、戦争中の、細菌兵器や、化学兵器開発を専門に行っていたといわれるものが、

「日本にも存在した」

 ということであろう。

「731部隊」

 というのは、実際には、その存在に関しては、

「証明されていない」

 ということである。

 それは、

「大東亜戦争が敗色濃厚になると、軍は、証拠隠滅のために、徹底的に破壊した」

 ということからである。

 元々、その部隊は、日本国内にあったわけではなく、日本が占領した、

「満州国」

 にあった。

 そもそも、満州国は、日本が統治していたところであるが、中国やソ連に対しての、

「安全保障」

 の観点と、

「日本人の食糧問題」

 という重要な観点から、

「満州事変」

 というものを起こし、そこで、一気に、満州を占領してしまったのだ。

 しかし、占領したからといって、欧米列強のような、

「植民地」

 ということにしたわけではなく、

「傀儡国家」

 と言われる曖昧な形で、基本的に、

「独立国」

 ということで承認した。

 それが、いずれ、

「大日本帝国を致命的な戦争に巻き込む引き金になった」

 といってもいいかも知れないが、その満州国の、大都市である

「ハルビン」

 という土地に建設されたものであった。

「とても口で言い表せない」

 といってもいいところだったようだが、結局、その研究所では、

「戦争のための研究」

 というものが行われていたので、

「兵器研究」

 が行われていたのである。

 もちろん、似たような研究所は、日本国内にもあったことだろう。

 さすがに、ハルビンほどの広大な領地があるわけでもないし、

「日本人に見つかる」

 というのも、まずかっただろうから、日本にあったとしても、

「かなり、世俗から離れたところだったはずだ」

 ということで、それを考えると、

「この土地は、願ってもないところだった」

 といってもいいだろう。

 そんな土地を考えてみると、

「そもそも、まわりの土地とは違う」

 と考えているところの近くで、しかも、

「森に囲まれて、その奥には何があるか分からない」

 といわれているところであれば、これほど都合のいいことはない。

 実際に、この村の人も、

「この森の奥には、立ち入ってはいけない」

 という伝説があり、しかも、

「伝説というものには、敏感な民族」

 ということで、誰も入ろうとしなかった場所を国家が開発に使ったのである。

 この国家では、伝説の村ということで、

「村の長とは密約があった」

 ということである。

「この村の独立性は国家が保障するから、奥の山林には立ち入らない」

 ということを契約していたのだ。

 村は村で、

「厳しい掟」

 というものがあった。

 それさえ守っていれば、

「村人にとって、かなり自由なところ」

 ということだったので、村の掟に逆らうことを誰もしなかったのだ。

 だから、

「秘密の研究所は、見つからずに大々的に研究ができた」

 しかし、実際に、

「戦争に負けそうだ」

 ということで、

「731部隊」

 のように、証拠隠滅が必要になると、今度は、まわりの木を一気に伐採し、オープンな形にした。

 そこで、研究していたものを他の場所にもっていき、そこには、医療器具などを速やかに運び込み、

「まるでそこが最初から病院だった」

 ということにしたのだった。

 入院患者も捏造され、さらに、

「精神疾患患者」

 という人たちも収容しているということにすることで、

「いきなり森の中に現れた奇妙な病院」

 というものを、もとから、

「奇妙な病院だった」

 ということを不審がることのないようにしたのであった。

 それを思えば、それこそ、

「木を隠すには森の中」

 と言われるが、結論としては、

「逆の効果だったのだ」

 といえるのではないだろうか?

 木を伐採したことで、現れた真実を、今度は、そのあざとさと大胆さで、ごまかそうということになるのであった。

 うまくその作戦は功を奏し、占領軍から怪しまれることはなかった。

 しかし、考えてみれば、

「本当にそうだったのだろうか?」

 とも考えられる、

 というのは、

「占領軍たちとの間で、取引があったのではないか?」

 ということであった、

「占領軍というのは、国家を統治する」

 ということで、

「利用できるものは何でも使う」

 と考えていた。

「自国の利益になりそうなことであれば、秘密の協定を結ぶ」

 ということもありではないか。

 実際に、

「731部隊」

 も、証拠がないということで、誰も戦犯に問われることはなかったではないか。

 それを思えば、

「研究結果を取引に」

 ということも考えられることであった。

 だから、この建物は、破壊されることもなく、軍内部では、

「細菌兵器や、化学兵器を秘密裏に作っている」

 ということが暗黙の了解になっていたが、戦局が怪しくなると、

「証拠隠滅ということも視野に入れなければ」

 ということも言われだしたという。

 実際に、ここの所長は、かなり頭が切れる人で、かなり初めの頃から、

「証拠隠滅」

 というものを図っていたということであった。

 だから、実際に、政府が隠滅に図ろうとした時、研究所では、すでに、隠滅を考えていたのであった。

 だから、戦争が終わってからすぐに、森林を伐採することで、

「ここは、普通の病院だった」

 ということにし、さらには、

「精神疾患者」

 と収容することで、

「特殊な病院」

 ということで、少しでも、怪しまれないようにするということに長けていたといってもいいだろう。

 そんな国家というものは、

「国破れて山河あり」

 ということで、

「都心部は、焦土と化したが、山間部は、それほど被害に遭ったわけではない」

 だから、山間部に人の目は注がれたので、よほど気を付けないと、

「発覚してしまう」

 ということになるだろう。

 しかし、彼らは、それを何とか隠蔽した。

 そして、そのまま、この土地に病院を残すということに成功したのだ。

 実際に、占領軍が撤退していっても、この病院は存続することになり、

「基本的には、精神病患者の受け入れ」

 ということが行われた。

 だから、全国にある精神病の病院というのは、山間部にある場合が多いが、

「そういう病院の元々は、この病院のように、軍部の秘密開発のための研究所だったのではないだろうか?」

 と言われているのであった。

 そのことは、

「街の七不思議」

 のように言われていて、それこそ、

「都市伝説だ」

 ということになっている。

 実際に、病院の壁には、

「蔦が絡んでいる」

 ということであったり、

「窓には鉄格子が嵌っている」

 ということだったりして、臭いもかなりきついといってもいいだろう。

 ここに病院があるのは、皆知っていた。そして、この病院は、

「精神病院だ」

 という話も、公然の秘密のようになっていた。

 その話を聞いた時、当時の子供は、そんなにビックリはしなかったという。

 当時、精神病というと、

「一定数はいるのだろうが、そんなにたくさんはいないだろう」

 というのが、子供の一般的な考えだったという。分からない部分も今に比べれば結構だっただろうし、今でこそ、いろいろな病名がついているが、昔はそれが一つになり、というか、

「分類ができなかった」

 といってもいいのかも知れない。

 今では、種類によって、幾層にも分けられていることから、一人の人間が、いくつもの症状を合併しているかのように見えている。だから、

「根底には一つの病気が合って、他にもいくつもの併合がある」

 ということから、薬の種類が、それぞれに出ることで、かなりたくさんのものが出されることになるのだ。

 陰謀論の人からすれば、

「薬の種類を増やして、医療費を高くする」

 という人もいるかも知れないが、それだけのことなのか、ハッキリとは言えないだろう。

 今だったら、精神疾患の人の病院ということで、

「心療内科」

 という病院もあり、普通の病院と変わらないくらいにきれいで、いわゆる、

「クリニック」

 と言われているので、知らない人は、

「普通の内科」

 であったり、

「歯科医」

 などとあまり変わらない。

 ただ、中に入ればその違いを判る人は分かるというもので、それが、臭いであった。

 独特な臭いを感じるのは、薬だけの臭いだといえるだろうか。

 ただ、昔のサナトリウムのようなところは、そもそもが、臭いに関しては、どうしようもなく、どの病院でも、臭いを隠すということができるわけもなく、とにかく、

「これは病院の臭いだ」

 ということで、一緒くたにしていただろう。

 それでも、

「歯医者」

 と、

「外科」

 だけは、特殊な臭いがしていた。

 精神科も同じことで、精神科の場合は他の病院と違い、

「湿気まで感じられる」

 といっていた人がいたようだったのだ。

 このサナトリウムも、昔の精神科病院だった頃は、湿気にあふれていた。それでも、

「自然の中に建っていることで、その湿気を含んだ臭いというのも、若干、緩和されている」

 といってもよかった。

 今では、精神病院というのはなくなった。患者は、他の土地に作られた大学病院に、それぞれ転移したが、それでも、若干名は残っている。それよりも、この病院は、患者数は、病院の大きさに比べれば、だいぶ少なくなっているようで、実際には、

「何かの研究所」

 という側面があるようだ。

 医療研究所といってもいいのだが、実際には、

「もっときれいなところに経てればいいのに」

 というほど、昔のたたずまいをそのまま残していて、実際に研究している人たちは、

「以前、このサナトリウムで勤務していた人たち」

 ということであった。

 すでに、教授から博士になっている人もいて、ここにいた時は、まだまだ研修医といってもいいくらいだったが、中には、ここから離れて、他の病院で勤務していたが、ここに戻ってきた人もいれば、

「前のまま、ずっとここで勤務している」

 という人もいた。

 それは、比較的、

「個人の意見」

 が尊重され、それでも、結局はここに今勤務している、昔ここにいたという人は結構いるのは、

「他に行っても、やりがいがなかった」

 という人なのか、

「ここでの研究が一番やりやすい」

 と思っている人なのか、どちらにしても、ここでの勤務は、彼らにとっては、最高だといってもいいだろう。

 実際に、

「何を研究しているのか?」

 というのは、その人さまざまである。

「人類の未来への研究」

 という漠然とした言い方をする人もいれば、

「精神疾患でも一番の問題としての、合併症を少しでも緩和できるような研究」

 という、具体的な目標を上げている人もいる。

 しかし、どちらにしても、彼らがいうには、

「若い頃にここにいた時の自分とは違うんだ」

 ということであった。

「成長した」

 ということではなく、それよりも、

「まるで、まわりから見ると、別人のようだと言われるが、昔の自分が死んで、今新しく生まれ変わったという感じがするといった方が正解かも知れない。だけど、俺は、全然変わっていないという感覚しかないんだ。何しろ、あっという間に時間が過ぎた気がするからね」

 というのだ。

「どういうことなんだい?」

 と聞くと、

「例えば、中学生の頃のことは、まるで昨日のことのように思い出せるんだけど、大学生の頃というと、かなり昔のように思うんだ。もちろん、昔のことを思い出そうとした場合なんだけどね」

 という。

「それは、時系列での感覚がマヒしているような感じなのかな?」

 と聞くと、

「うーん、確かにその言い方が、一番しっくりとくるのかも知れないけど、時系列というものを、それぞれ一人一人感じ方が違うからではないかと思うんだよね」

 というので、さらに聞いている方は分からなくなってきた。

 それを悟ってか、相手はさらに続ける。

「私は、時系列という考え方が、理屈で成り立っているような気がするんだ。いわゆる、結果といっていいのかな? だから、時系列は、直列していて並列しないものということになるんだけど、人間は、瞬時にしてピンポイントで思い出すことができるだろう? きっと、何か、頭の中に、思い出すための地図のようなものがあるんじゃないかな?」

 ということをいうのだった。


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