模様替えがあって

 いきなりの模様替えだった。

 その年の祭神としてイキガミとなるよう仕向けられている。こうしたことには先達がいるもので、そのひとの導きで日々の糧ひびのかてからはじまるひとつひとつにより日常を過ごしていく。

 焦がれるどころか慈しんでもいけない身なのだ。


 日が暮れ夜が更けて、いつもの山のうえのやしろにいくと、いつもよりも多くの人が囲むように待ち構えている。

 いつものように見守ってる目をしているが、これだけ多いのはわたしが逃げないようにが本旨のようだ。すでにわたしをつつむ獣の毛皮が、腹の方から一枚、背中の方から一枚と敷き詰められ、そちらが先に鈴なりに囲まれてる。裸のわたしは腹の方をつつまれ背の方をつつまれていくのだが、ここまでの作法ははじめてのはずなのに昨夜も別ので同じことをされていたように想い出す。


 初めてにせよ何度でもにせよ、あつらえたようにぴったり肌に付いた。

 身が一部の隙もないししになると、四つ足で動くほか成す術なすすべをしらぬから、わたしはもう何処か遠くに行っていて、そこから先達のように俯瞰している。 

 毛も色も顔もししなのに、図体ずうたいばかりが黒毛和牛くろげわぎゅうのようだ。品評会でポイントとなる背中から尻にかけての四角形が良い長方形いいちょうほうけいしている。

 猪の鳴き声は分からないからモォーとでも鳴いてみようかと思ったら、刈り取ったあとキチンと叩いて柔らかくした干し草が与えられた。

 もぉー美味うまそうで舌なめずりしながらむことをやめられない。身が猪になったばかりか心まで牛に変わっていく。


 それも・・・・が持ってきてくれたんだ、よ。

 妻の声がする。若かった時分の妻の声だから、きっと・・・・はうえの子の名前だろう。頬に赤い引っ搔き傷をつけたばかりのうえの子しか、こんな猪や牛に変わった父親に孝行して呉れるはずはないから。

 それを思うと、泣けてくる。

 泣けてはくるが、干し草の仕上がりの美味さに勝てず、モォーと鳴いてしまうのだ。

 


 

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二階でひとり、深夜の目覚めとなった夢を記す 安部史郎 @abesirou

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