第7話

 老人が畑を耕している。

 ざく、ざく、とくわが地に突き刺さる。

 陽は落ちて――からすがカアカアと鳴きながら飛び去って行く。

 斜めに夕暮れた光は、老人の他は誰もいない畑を、赤く染めていた。

 夕焼けが畑を焦がす。老人に刻まれた深い皺の、その一つ一つまでを浮き上がらせるように影が落ちていた。年月と老いを湛えた顔面には深い皺と濁った眼がある。

 老人は口をつぐみ、ただ、鍬を持ち上げて地面に突き刺し、手前に引いては引き抜く、それを繰り返していた。

 土を、森を、老人を、夕日は赤く染めて行く。

 不意に鍬で刺した地面のその下から、じわりと液体が漏れ出したが、老人はそれにも構わずに鍬を刺し続けた。ざく、ざく、という乾いた音はいつしか、ぐしゃり、ぐちゃりと湿った音に変化する。漏れ出た液体がしみ込んだ土は泥のように粘りつき、更なるぬめりを湧き起こした。

 夕日のせいか、それはまるで濁った血液に見える。泥濘はさながら臓物のよう。

 老人は無言でただひたすらに、湿ったそれに鍬を下ろし続けた。

 やがて夜が来る。

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