第32話「生徒が行方不明になりました」⑤

黒装束の人影から伸びるいくつもの腕が、蒼太の体を掴んでいく。


「ぐっ……」


その中の一本の腕が、蒼太の首へと伸びた――


「やめてください!!」


美月は震える声で叫びながら、ポケットからスマホを取り出した。


「……儀式中だ。それを使えば、天静様の怒りを買うことになる。苦しむのは彼だ」


久遠は、刺すような冷たい視線を美月に向けた。


「……もう遅いです。今までのこと全部、配信してます!!」


美月がスマホの画面を突き出すと、SNSアカウントからライブ配信の様子が映されていた。


―なにこれ

―やらせでしょ

―ガチ?

―やばくね

―通報した


配信画面に続々と流れるコメントに、久遠は一瞬言葉を失った。


「……くそっ!」


顔を引き攣らせた久遠は、黒装束の人影を押しのけ、出口へと走った。


こう!!」


ドアに手を掛けた久遠が、振り向きざまに叫んだ。


伊勢山は体をびくりと跳ねさせ、咄嗟に一歩踏み出した。

しかし、彼の足はそこで止まった。


「何をしてる!?早く来い!!」


体を震わせながら、伊勢山はその場に立ち尽くしていた。


その視線が、蒼太へと向けられる。


「……っ」


伊勢山はぎゅっと唇を嚙み締め、父親へ鋭い眼光を向けた。


「この……失敗作が!!」


そう吐き捨てると、久遠は出口へと走り去った。


勢いよく入り口のドアを開ける――




久遠は顔を歪めた。


サイレンの音が鳴り響き、

建物の前には、パトカーが何台も止まっていた。


「な、なぜだっ……」


久遠は崩れ落ちるようにガクンとその場に膝を付き、ただ呆然とその光景を見つめていた。



「……助かった。持田先生、実は仕事早いんだよね」


蒼太は荒い息を整えながら、そうつぶやいた。


学校を出る前、蒼太は持田の机にこの場所の住所と

「探偵部の課外活動に行ってきます」

そう書いたメモを残していた。


黒装束の人影がおろおろとその場に立ち尽くす中、美月は蒼太に駆け寄った。






警察により、続々と黒装束の信者たちが連行されていく。

行方不明になっていた生徒二人も保護され、パトカーへと連れられた。


そして、虚ろな表情の伊勢山が警官に連れられて行く。


「伊勢山くん……」


蒼太が思わず声を漏らすと、伊勢山はゆっくりと顔を上げた。


「……止めてくれて……ありがとうございました」


そう言った彼の顔は、少しだけ微笑んでいた。


そのまま、伊勢山はパトカーの中へと入っていく。


「終わり、ましたね……」


緊張の糸がようやくほぐれ、美月は大きく息を吐いた。


「……久遠一真。彼が生きていたことは完全に想定外だった。僕が迂闊だったせいで、美月ちゃんを危険な目に合わせてしまった」


蒼太が絞り出すような声でつぶやいた。


「本当にごめん……部長としても、探偵としても失格だ」


蒼太の握りしめた拳が、かすかに震えていた。


「……部長。私をいつまでも守られてばかりの後輩だと思わないでください」


美月がくるりと蒼太の前に立つと、俯く蒼太の顔をぐっと覗き込んだ。


「来月から、私は探偵部の部長です。それに、今回の件は二人で解決させようって約束したじゃないですか。だから……」


美月が、ぱっと両手を前に突き出す。

蒼太もつられて両手を前に出した。


パチンッ!


美月は蒼太の手のひらに、ハイタッチをした。


にこにこと満面の笑みを浮かべる美月を、蒼太はぽかんと見つめていた。


「二人で無事に、事件解決できましたね!」


美月の笑顔に、蒼太は胸の奥がじわりと温かくなるのを感じていた。


「……美月ちゃん、君がいてくれて本当に良かった」


蒼太は、そっと優しい微笑みを浮かべた。



「こらー!!!!お前らーーー!!!」


遠くから持田の怒鳴り声が聞こえてくる。

二人は顔を見合わせると、ふっと同時に笑みをこぼした。




張り詰めていた校内に、すっかり日常が戻った。


凍てつく空気に身を縮めていた日々はいつの間にか終わりを告げ、心地いい風を感じられる季節へと変わっていた。


春はもう、すぐそこに。




**「生徒が行方不明になりました」完**

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