第21話「今日は依頼がありませんでした」後編
「僕の両親は海外出張が多くてね、小さい頃はよく祖母に預けられていたんだ」
美月が納得したように頷くと、蒼太は眉をひそめた。
「あ、“だから年寄りくさい”のかとか思わなかった?」
蒼太の言葉に、美月からふと笑みがこぼれた。
「思ってませんっ! ただ……部長が大人びてる理由は分かった気がして」
「そう?なら良かった。よく言われるんだよ。話が説教くさいとかね」
蒼太が小さくため息をつく。
美月は内心共感していたが、決して口には出さなかった。
「話が脱線してしまったね」
蒼太は苦笑いを浮かべると、のどを鳴らしてから話を続けた。
「それでね、僕の祖母は……探偵だったんだ」
「おばあさんが……?」
美月は蒼太の顔をじっと見つめた。
「うん。女性の探偵って当時ではかなり珍しくてね。始めは中々相手にされなかったんだ……」
蒼太がゆっくりと視線を落とす。
「でも一人だけ、祖母の実力を見て協力してくれた警察官がいたんだ」
その言葉に、美月は目を見開いた。
「どんなに周りが差別しても、その人だけは祖母の実力を信じてくれて……
二人で多くの事件を解決したそうだよ」
夕日が差し込む縁側で、祖母と二人並んで座っていた景色が脳裏に浮かぶ。
『不器用だけど、人一倍正義感の強い人だったよ』
少し遠くを見つめながら彼のことを話す祖母の顔がとても優しくて、心がじんわりと温かくなったのを今でも覚えている。
「僕が寂しがっていると、よく事件の話を聞かせてくれたんだ。
『蒼太は誰が犯人かわかるかい?』って僕にも推理させてくれてね。
いつの間にか、僕も探偵に憧れるようになってたよ」
「そんなすごい方が身近にいたなんて……初めて聞きました」
「祖母に『誰にも話しちゃいけない』って言われてたんだ。
逆恨みされる可能性があるからってね」
美月は聞いてはいけないことだったのではと、慌てて口に手を当てた。
「美月ちゃんなら大丈夫だよ」
蒼太が穏やかに微笑む。
大切な秘密をさらりと話してくれるほどに、自分を信頼してくれている――
美月の頬は、自然と緩んでいた。
「美月ちゃんは、どうして探偵に憧れたの?」
蒼太の問いかけに、美月の顔が一瞬こわばった。
「……聞いちゃまずかったかな?」
「い、いえっ」
美月が慌てて首を振り、小さく俯いた。
「……実は、私の祖父も警察官だったんです。
少し頑固なところもあったけど……すごく誠実で、優しい人でした」
大好きだった祖父のことを思い出し、自然と笑みがこぼれる。
「美月ちゃんのまっすぐなところは、おじいさん譲りだったんだね」
ふと、幼い頃によく言われていた言葉を思い出した。
『美月はおじいちゃん似だね――』
美月は、その言葉がとても誇らしかった。
「……その祖父は、ある女性探偵の方と仕事をしていた時期があったそうで、その方の話をよく聞かせてもらいました」
蒼太の眉がぴくりと動いた。
「周りからどんなに冷たい視線向けられても、いつでも凛としていて、颯爽と事件を解決していく……祖父が感心するように話してくれました」
『言わせておきなさい。真相がわかれば、彼らも口を閉じますよ』
何を言われても、彼女は涼しい顔でそう微笑むんだ――
誇らしそうに話す祖父を見て、美月は胸の奥から羨望の思いが溢れ出ていた。
「その姿に憧れて……私もその人のような格好良い探偵になりたいって思ったんです」
「……」
美月がゆっくりと顔をあげて蒼太の方を見ると、蒼太は目を見開きながらこちらを見つめていた。
「……まさか、ですよね」
「……まさか、ね」
二人は顔を見合わせたまま、しばらく固まっていたが、ふっと力が抜けたように同時に笑みがこぼれた。
「こんな偶然あるんですね」
「本当だね」
二人はそのまま、温かい紅茶をゆっくりと味わった。
すっかり肌寒くなっていた部室が、その日だけはどこか温かく感じられた。
**「今日は依頼がありませんでした」完**
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