第24話 恋愛志願者

 銀ちゃんことユーリー君はどうやら、独身で恋人もいないみたいだ。

 良かったじゃないか、ライバルがいないに越したことはない。

 でもなんだろうこのモヤモヤ感は…


「環境が変われば人は変わるし、正直、彼らが何を考えているかなんて僕には理解できてないから、銀ちゃんとは、今まで通り変な先入観を持たずに接するのが良いんじゃない。」

 とか言われたけど、何の進展もないまま、朝の茶飲み友達を続けるなんて…


 恋愛ってどうやって始めるんだろう…


 夏子も彼氏がいたことはないと思う。

 大河(たいが)は、私の知る限りでは二人と付き合ったことがある。大河(たいが)に聞いてみよう。




「え?どうやって付き合い始めるのか?」


 丁度、大河(たいが)も私に用事があったようで、スーパーのフードコートで落ち合うことになった。平日の昼下がりのフードコートは良い感じに空いている。


「そう、切っ掛けってなんだったの?」


「僕から告白した。男でも問題なければ付き合ってください、好きですって。」


「もし、断られたらって不安にならないの?」


「その時はその時、仕方ないよ。でも、思い詰めるほど好きになる前に告白するようにしてる。そうすれば、断られたときも諦められるし。」


「思い詰めちゃったら?」


「思い詰めちゃったときは、告白できなかったな…だから、結局付き合えなかった。」

 そう言って、コーラフロートのアイスをつついた。


「じゃあ、思い詰めちゃったら、どうしたらいいの?」


「え?思い詰めてるの?」


「いや、例えばの話よ。例えば…」


「例えばねぇ…、持久戦に持ち込むのが良いんじゃない。自分からは告白しないで、相手に告白させるように仕向けるの。まあ、かなりの忍耐と工夫が必要だと思うから、僕には向いてない方法だな。」


 そんなスーパー上級テクニック、私に使える訳がない…




 大河(たいが)の用事は、新生活に必要な家電を一緒に見て欲しいってことだった。

 家電量販店で実物をみて、実際にはネット買うつもりらしいが、母親と一緒に行くと、やたらでかい冷蔵庫や多機能のオーブンレンジを勧めて来て現実的じゃないらしく、でも誰かのアドバイスが欲しいということで私に声を掛けようと思ったらしい。

 親がお金出してくれるんだから、バカでかい冷蔵庫買えば良いのにと思ったが、部屋が狭いからそれは嫌なんだそうだ。


「え、家電なんて買った事ないよ。」


「大きな買い物するときに、相談相手がいると安心するんだよ。」


 そんなものかな?なんて思いながら、電気量販店で一人暮らし用の家電を見て回った。


「家電見てると、ひとり暮らししてみたくなるなあ。」


「一人暮らしの方が彼氏できやすいかもよ。」


「え?何で?」


「親の目を気にせずに頻繁に会えるし、ずっと一緒にいられるんだもん。」


 なんだか、艶っぽいこと言ってるな…


「じゃあ、大河(たいが)は東京で一人暮らししたら、直ぐに彼氏とか作るの?」


「直ぐにでも彼氏欲しい。一緒に暮らしてもいいし。」


 一緒に暮らす…大河(たいが)が大人に感じた。私の何歩も先を進んでいる気がした。


「大河(たいが)はキスしたことあるの?」


「え?こんな所で聞く、それは、したことあるけど。」


 そうだよね、あるよね…ああ、私の百歩先を行っている気がする。心の中でこれから大河(たいが)のことを師匠と呼ぶことに決めた。


「どういうタイミングでするの?最初のキスって。」


「どうしたの?今日、頭やられてる?」


 そう思うよね、でも聞きたい、こんなこと聞けるのは師匠しかいないの。


「だって、こんなこと聞けるのは大河(たいが)しかいないし…私だって恋愛してみたいんだもん。」


「そうかあ…明(あかり)的には真面目に聞いてるんだね…タイミングって言われてもなあ、だって、意識し合っている同志が同じ部屋にいるんだよ、自然にそうなるよね。」


「自然とですか…やっぱり、部屋の中じゃなきゃそうならないのかな?外じゃ駄目なの?」


「え?外?そこがこだわりポイントなの?」


「ああ、なかなか家に誘うとかって気が引けるし、相手の家にいくのもちょっとまだ早いかな~って時に、外でデートしてて、どうやったらキスする流れになるのかな~って。」


「え、したくなったらすれば良いんじゃないの…」


 それはごもっとも。


「相手もしたいと思ってるってどうやったらわかるの?」


「今日は、えぐるねぇ…体とか触って来るよ、そしたら、そう言う感じなのかなって分かると思うよ。」


 体を触って来る…キスよりもハードルが高い気がした。


「…恋愛出来るのかな、私。」


「する前から落ち込まないでよ、考え過ぎだよ。明(あかり)は面白いから大丈夫、きっといつかそのままの明(あかり)を受け入れてくれる奇特(きとく)な人が現れるかもしれないし、現れないかもしれないし…ってね。」


 あれ?馬鹿にされた?




 必要な家電の目星が付けられたと大河(たいが)はホクホクしていた。


「そういえば、ジョシュアさんのバイオリン、いつ聴かせてもらえるのかな。」


「え、いつでも良いんじゃない?あの人、ほぼ毎日家にいるんじゃないかな。」


「日程調整してよ、僕がぐいぐい頼むのも申し訳ない気がして、明(あかり)仲いいんでしょう?」


「仲良くないよ。でも、聴いてみたいから頼んでみようかな。」


「ありがとう! じゃあ、お礼にどうしてもキスしたくなったらいつでも練習台になってあげるよ。」


 え、それは要らないなあ…ファーストキスが大河(たいが)、多分、夏子に火あぶりか水攻めにされる…


「明(あかり)は、ジョシュアさんのことロリコンじゃないかって疑ってるけど、僕は違うと思うよ。」


「憧れの人を庇(かば)いたい気持ちはわかるよ、師匠。」


「師匠? 確か、ジョシュアさん十八歳の時に倍以上年上の人と付き合ってるって公言してたんだよね。」


「倍以上?三十六歳以上ってこと?」


「うん。どんな人かは言ってなかったみたいだけど、日本人で日本に住んでる人じゃないかって噂があった。一度のツアーで三回日本に来たことあったらしくて、彼女に会いに来てるって噂もあったらしいよ。」


「ふーん、年が離れていれば上でも下でも、どっちでもいいのかもしれないね。」


「頑(かたく)なだね、ロリコン疑惑」




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