第22話 嘘のような本当の話
中島さんの話では、
「ワンちゃんみたいね~。ジョシュア君が帰ってくるのを待ってたのかな。」
なんて言って笑っていた。
そして今、来海ちゃん、ジョシュア、私の三人で食卓を囲み夕飯を食べている。
何か変な構図だな…
キッシュ、酢豚、春巻き、シュウマイ、マーボ豆腐、ポテトサラダと食べたいものを頼んでいたらこんなになった。どうやらどれも
「本当に食べられるの?お腹痛くない?」
「食べれる。お腹痛くない。」
完全に親子だな…
「そう言えば、
「今日は、学校帰りに友達と遊ぶって言ってあるので、終電の時間までならば大丈夫です。」
終電で帰ると十一時過ぎくらい、あと二時間はある。流石に、
そんなことを思いながら中島さんが作ったなめこ汁を飲んだ。美味しい。
ご飯を食べ終わると、
父親が迎えに来るまで待つしかないか。
「
ゲームに夢中の
今の二人の様子を見ていると、何も心配することない気がした。彼へのロリコン疑惑は消えていないが、どうやら、私は彼のことを危害を加えないロリコンと判定したようだ。
それよりも、この男に羽があるのかどうかを確かめられないってことか…ああ、今夜は考え過ぎて眠れなくなっちゃう。まあ、いいか…明日何か用事ある訳でもないし。そう思いながら、傍らにいるギンちゃんの頭を撫でた。
「じゃあ、私、そろそろ帰ります。今日は無理そうですもんね。」
「ああ、
通された部屋は二間がぶち抜きになっていて、多分二十畳くらいある。電気をつけなくても外の月明かりが入って来て薄っすらと明るい。
「なんか気恥しいね。」
閉まりかけた障子の間をすり抜け、部屋に入って来たギンちゃんにそう声を掛けている。
何を言ってるんだこの男は、裸を見せろと言ってる訳でもないのに…そんなこと言われたら、こっちまで気恥しくなる。
ギンちゃんは私の横に座って、私と同じくジョシュアを見上げている。
顔の左側を月明かりに照らされて、薄青く浮かび上がる彼の姿は既に神々しく見えた。そして彼は天井に届くほど大きな白い翼を広げた。
「ジョシュア、
廊下から
「
そう言っている彼の背中には既に翼は無くなっていた。畳の上に落ちた白い羽が、その時ふわりと消えてなくなった。
結局、家の近くまで車で送ってもらった。助手席に
「今日はご馳走様でした。」
他にもいろいろ言いたいこと、聞きたいことはあったが、言葉にならない。
「こちらこそ、楽しかったよ。じゃあ、また明日。」
「はい、また明日。」
走り去る車を見ながら、明日? 明日会う予定なんかないのにな。そう思った。
ああ、結局ダメだ。考えがまとまらない、思考が停止している。私は彼の背中に大きな白い翼を見た。彼の言っていることは嘘じゃなかった。どれもこれも嘘にしか聞こえない話ばかり…やっぱり、まだ彼の話も、銀ちゃんの話も信じることが出来ない。
結局、悶々と考え事をしながら眠ってしまったようだ。
ガクンと何かから落ちる感覚で目を覚ました、暑くもないのに汗をかいている。そりゃそうだよな…あれはトラウマ級の恐怖体験だった…
時計を見ると七時、モモ太の散歩に行かなくちゃ。そう思いながらベッドから出た。
寒空を仰ぎ見ると、塀の上にギンちゃんがいた。
「ギンちゃんおはよう。一人でお散歩?」
ギンちゃんはこちらを見つめて、しっぽをゆらゆらと振った。一緒に行こうと言ってるみたいだ。今日はギンちゃんについて行こう、モモ太もそのつもりらしい。
右に曲がって、左に曲がる、暫くまっすぐ歩くと葵町公園が見えて来て…角を曲がった。いつもの神社が視界に入る。
ああ、今日は行きたくない…何を話したらいいのか分からない…銀ちゃんに会うのが怖い。そう思って立ち止まると、ギンちゃんは塀から飛び降りて、こちらを見上げ、また一緒に行こうと言わんばかりにしっぽを振った。
「わかったよ、一緒に行くよ。」
神社に近づくと、いつものベンチが見えた。誰もいない。ちょっとだけホッとして、そしてすごく残念な気持ちになった。
ギンちゃんは私がついて来ているのを確認するかのように、何度も振り向きながら前に進んだ。
モモ太もついて行く。ギンちゃんは三段しかない石段を軽やかに登り、右前足を境内に入れた。次の瞬間、鳥居の下には白いジャージを着た銀髪の銀ちゃんが立っていた。
「銀ちゃん…」
銀ちゃんは振り返り、石段の下で呆然と立ち尽くす私に声を掛けた。
「明(あかり)、おはよう。」
二人でベンチに腰を掛けた。何て話し掛ければ良いのか分からず黙っていると銀ちゃんが、
「どうやら、僕はこの境内の中だけでしか自分の姿を維持できないようなんだ。ここを出ると猫のギンちゃんの体を借りて過ごしている。」
私の頭が拒否反応を起こしている、彼の言っていることを理解しようとしてくれない。
「僕の名前はユーリー、でも銀ちゃんも気に入ってるから、もしよかったらこのまま銀ちゃんって呼んで欲しいな。」
銀ちゃんの名前…ユーリー…やっと私の脳みそが動き出した気がした。
「銀ちゃんの本当の名前はユーリーなんだ。苗字とかはないの?」
「無いよ。僕の周りに苗字がある人はいなかった。」
「銀ちゃんは、本当に全然違う世界からやって来たんだね…」
モンゴルとかミャンマーって苗字がない人が多いって聞いたことがある…でも、そういう事では気がした。
苗字がなくて、翼を持った人間がいて、神様がいて、神様の使いの
「そうだね、全然違う世界だね。僕はエデン以外の世界を殆ど知らないから、地球がこんな所だなんて思ってもいなかった。まあ、猫になって、町を歩いたり、テレビを見たり、その程度の情報しかないから、本当は、地球がどんなところか未だに良く分かってないけど。」
そうだよね、猫の行動範囲で分かる世界なんてとても小さいもんね。それと、情報源がテレビだったとは、ちょっと笑っちゃう。
「エデンってどんなところなの?地球のことは私が分かることを教えるよ。」
もう、受け入れてしまおう。そう思ったら気持ちが楽になった。
ギンちゃんに体を借りている間は、一つの体に猫のギンちゃんと
猫のギンちゃんは穏やかで、とてものんびりした性格なので、銀ちゃんは一緒にいて心地いいけど、意志の疎通が完全に取れている訳ではないと言っていた。最近では、ギンちゃんは何も考えてないことが多いんじゃないかと、銀ちゃんは思ってるそうだ。
今まで、体調不良というものを
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