第11話 転生の祭壇

 鼻につく埃っぽい匂いが、男の意識を覚醒させる。


 そこは四方を壁に囲まれた20帖程度の石室だった。質感のイメージは東南アジアの寺院やアステカのピラミッドのような感じ、もちろん高山超新星は現地に行ったことがない故、以前写真で見た外観から受ける印象だ。


 そんな部屋の中央、今現在彼がいる場所は四角錐台の祭壇のような場所で、足元には意味が分からない呪文と模様で描かれた魔方陣が、うっすらと青い光を放っていたが、その光はどんどん弱くなっていく。


 祭壇のそれぞれの角には、天井まで届かない程度の模様が刻まれた柱が立っており、部屋の1方にだけ戸口が見える。


「ここは……本当にオレは……転生したのか?」


 転生というからてっきり、誰かしらの赤ん坊として新たな命を授かるものと考えていた彼だったが、手を見ただけでも見慣れた太い指。さらにはとっぷりと飛び出た、はち切れんばかりの丸い腹が目に付いた。


「まさか50近い身体のまま転生させられるとはな。というよりこれは転生というより転移じゃないのか? まあ向こうで死んで、こうして甦ったのなら転生なのかもしれないけど、なんか納得いかねえ」


 日光が入ってきてないのに加えて火が焚かれてるわけでもない。それなのに部屋が明るいのは、異世界では何故か必ずと言っていいほど使える魔法的な何かのせいか。まぁジョブなんてものを設定させた訳だし、魔法使いも普通にいる世界なのだろう。


「……ってそうだ。結局ジョブとやらはどうなった?」


 体を確認してみると、見慣れない服を着ている以外は、何も変わっていないように見える。ただ、いつもなら立ち上がるのだけで苦しいのに、先ほどまでの死後の世界? にいた時同様に体が軽く、何らかの変化があったのは間違いない気がする。


 ただそれを確かめる術がない……。そう思った高山超新星の記憶から、1つ思い当たることがあった。


「これはアレか……?」


 小説やマンガじゃお決まりと言っていいものではあるが、誰にも見られてないとはいえ少し恥ずかしい。ずっと引きこもっていた彼の精神年齢は大学時代で止まっているのだが、さすがに実年齢は50に近いのだから、いい年してそれは……という想いが強かった。


 それでもまずは現状の把握が最優先と、高山超新星は腹をくくる。


 そもそもあれだけ異世界物が流行っていたことも、本物の天使に出会ったり、明らかな超常に巻き込まれた今となっては、ひとつの可能性を彼に与えた。


 それはつまり、1度異世界に行って戻ってきた人間が、その実体験をノンフィクション小説として書いてる可能性だ。


 何度か大きく呼吸して、メンタルを整えると、彼は右手をまっすぐに伸ばした。


「ステータスオープン!!」


 しん……と音が聞こえてくるような、心に痛みを伴う静寂の中、彼は頬が熱くなるのを感じた。本当に誰にも見られなくて良かったと安堵するが……それが通用しないのであれば、現地の人間に尋ねるしかないのかもしれない。


 唯一の出入り口に向かう前に、念のためもう1度辺りを見渡すと、段差のせいで気づけなかったのか、入り口の反対側に何か緑色に光るものがあるのに気が付いた。


 そこに行くには1mほどの段差があり、普通なら戸口に向かう方向にはある階段を下りるところだが、体の軽さに任せて段差を飛び降りると、着地で痛みを感じることもなかった。


「こいつは……何ていうか世界観とかどうなってんのかと問い質したくなるくらい、風情ってもんがないな」


 それは、SF作品などでよく見る、ホログラムのように宙に浮かびあがるタッチパネル。今いる歴史的建造物と思わせる建物とのミスマッチに、高山超新星は、なんとも微妙な気持ちでひとりごちた。


 とはいえ、世界観がどうの言っている場合ではない。手で触れてみると、それで起動したのか、『転生者の皆様へ』と英語で書かれたものが画面に浮かび上がった。


「全部英語かよ、面倒くせえな。……そういえばこの世界の言語ってどうなってんだ? メッセージ的にこれはこの世界の住人じゃなくて、転生させた天使が設置したもんだろうしなぁ。結局最強のジョブで無双して来いって言われただけで、この世界については何も教えられてないぞ」


 あまりに無責任な転生に、先ほどの天使に怒りを覚えるが、転生場所に説明用の端末があるからこそ、省いたのかもしれない。正直、英語でもリーディングなら何の問題もないと、面倒に思いながらも画面を上から見ていくと、すぐ右上端に言語設定の文字。


「お、あるのか。あの天使にしては、ずいぶんと親切じゃないか」


 そう言って日本語に切り替えるも、かなりの文章量にくじけそうになるが、この世界について何も知らない以上、一字一句読み逃すまいと、じっくり読み始めた。


「なになに? ここはブリトルンの転生の祭壇です。転生先はランダムで選ばれますが、ここは転生先の中では最も過酷な環境の――はぁ!? ざっけんなよ!! やっぱあの天使クソだわ。絶対ランダムじゃねえだろ!!」


 初めの文章を読んだだけで、前言撤回。あの性悪が選んで飛ばしただろうという疑念が生まれ、天使に対して暴言を吐く。


 しかし、何とか怒りを抑えて読み続けると、くどいくらいに「申し訳ありません」だの「幸運をお祈りしますだの」という言葉が挟まる。さすがにここまで下手に出る様子が天使の印象と重ならず、転生先は本当にランダムだったと結論付けた。


 やたらと冗長だった文章をなんとか読み終えた高山超新星、そこに書かれていた文章を要約すると次の通りだ。


 1.ここは言語系統が元の世界の地球と同じ世界である。

 2.魔法があり、魔物の蔓延はびこる世界である。

 3.村や町単位での魔物の防衛は戦える住人の義務である。

 4.適材適所に人員を配置して、戦闘での被害者を減らすため、戦闘に関わるステータスを数値化する技術がある。

 5.近隣の公用語はブリトルン語――元の世界でいうところの英語である。

 6.ここから1番近い街までは、40kmほどある。


 なるほど、元の地球と比べたら相当物騒な世界に思える。とはいえ、世界に目を向ければ戦争は続いているし、なんなら日本でやたら被害が騒がれる熊を魔物と考えれば、十分物騒だ。


 だからこそ、高山超新星にとって、もっともリアルに想像できた厄介ごとは別にあった。


「公用語が英語ってなんだよ!? 自慢じゃねえが日本語でもさっきの天使と話したのが数年ぶりなんだぞ!? リーディングには自信があるし、リスニングはまあどうにかなるかもしれねえけど、話すのは無理だっての!!」


 チート能力が無理でも、自動翻訳くらいは付けとけよと言いたいが、問題は他にもある。町まで40㎞というのは分かったが方角が分からない。


 さすがに「こんな場所に転生させてすいません感」満載の文章を書いておいて、町の場所を記してないのは不親切にもほどがある。そう考えた高山超新星は初めのメニュー画面に戻る。


「おっと、あるじゃん。ステータス測定」


 すぐに世界の説明を押して読み進めたから気づかなかったが、すぐ下には世界地図、そしてさらに下にはステータス測定のボタンがあった。

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