可愛い顔のつくりかた
ゆいつ
【1】
スマホには似たような顔が果てしなく並ぶ。
少し上目遣いで、口元は笑っているようで口角を上げきらない。過剰な加工はしないけれど、物憂げな雰囲気が出ると嬉しいから、寒色系のフィルターを軽くかけてみる。
投稿は今日で200日目になる。
同じ顔を重ねているうちに、僕のタイムラインの奥へ奥へと、永遠に続いていくような列ができあがる。昨日と今日の違いは撮影者の僕にもわからない。わからないけれども、繰り返し、僕の姿を残すこと自体に価値があるのだとわかる。
キャプションは「#今日もおなじ」
送信すれば通知のバッジが光る。軽やかな音も矢継ぎ早に響く。僕は数字が増えるのを眺める。表情が変わるほど嬉しくもならないけれど、何もしないよりはずっといい。
誰かが僕を褒めている。
「今日も綺麗だね」「好きです」「肌が白くて羨ましい」「会いたい」「何歳くらい?」「可愛すぎる」「笑ってほしい」「付き合いたい」「天使」――知らない人の言葉をスクロールして眺めている。中には、熱烈な長文でリプライを飛ばす恥ずかしい大人もいる。僕は皆を見ない。皆は僕だけを見ている。
人々は僕を知らないまま僕を消費してくれる。
充足はないのに安堵がある。大量の通知が僕を世界と結びつけ、容姿を称える言葉がようやく僕の輪郭を撫でる。
僕は愛されている。
事実を確かめながらスマホを胸の上に置いた。
僕は愛されることに慣れていた。物心ついたころから可愛いと評判で、調子に乗った家族が見せびらかそうとするたびに、少し怖がりながらも皆に笑顔を向けていた。そうすれば、誰もが僕に優しくしてくれた。幼稚園児の頃はこれで多少のわがままを通して、小学生になれば先生からの贔屓を獲得して、中学生になった今もスクールカーストの頂点に立っている。
僕の生き方は赤子の頃から変わっていない。
同じことを幾度も繰り返して、僕は自らの居場所を保つ。――SNSのメディア欄に自撮りを重ねるのも、誰かに愛される子であった証拠と、以降も愛され続ける確信を、僕の中に刻みつけたいだけだ。
僕はいつまでも僕でなければならない。
桐原 慈音は可愛らしい男の子である。
眠るときも通知は付けたままにしていた。
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