最高の剣士の物語はハッピーエンドを紡ぐ。

ronboruto/乙川せつ

プロローグ・大陸代表者決定戦

第1話 剣士到来 前編

 ――――――――少年は、剣を振るう。


「……せいっ!」


 宿の庭で行う剣技の型合わせ。数年の日課となったそれは、剣の街に来ても変わらなかった。


 ここはエクシア。男の夢と、万人の夢が揃う場所。


 少年、シン・アリエルもその夢を抱いてここまで来た。


 剣の祭典、剣士の頂を決める場所、《ソード・コロシアム》に出場するために。


 そのために、徒歩で一か月もかかる道のりを超えたのだ。これで出場出来なければ笑いものだ。


 自身の一族と、流派に報いるためにも。


「……今日こそ」


 そう思っていた少年は、無惨にも打ちのめされた。


 ◇◇◇


「今日も……全滅……」


 僕がエクシアに到着して一週間が経過していた。

 だが、僕はどこにも支援してもらえていない。つまり、スポンサーがいないのだ。


《コロシアム》には一つだけ参加条件がある。


 それが、個人もしくは商会(企業)の支援を受けること。管理委員会が規定したこのルールには商会等の宣伝目的以外に代理戦争という面があるようだ。


 商会や個人に認められる程度の実力が無ければ勝ち上がることなど到底不可能ということみたいだけど……コネクションとか繋がりとかない僕にはハードルが高い。


 うん、とんでもなく高い。


 家で待っている家族に大丈夫と言ってきた手前、不参加で帰るなど出来ようか。


 無理だ。恥ずかしさで引きこもりになってしまうだろう。


「……どうしよぉ~……」


 開催一か月前の今、募集中の所に片っ端から応募しているのだが、面接の時点で落とされる。


(どうして実技・面接じゃなくて面接、実技なんだよ……)


 落とされた理由は、華奢な体と弱そうな顔。


 ――――――――……コンプレックスなんだよほっといてくれよ!


 街中を歩き、途方に暮れる自分はあまりにも惨めだ。

 修行を終え、奥義を習得し、家族にも認められた実力に少しは自信がある。


 でも、それ以前の話なんだよなぁ。


 これ以上に自分の容姿を恨んだことはない。お母さんに文句を言いたいわけじゃないけど、もう少し……ほんのちょっぴりカッコよく産んでもらえたら。


(……無いものねだりは見っともないか……)


 腰に提げる刀の柄を撫で、心を落ち着かせる。

 父さんから選別にもらった刀だけど、性能はかなり凄い。全力で振れば鉄板だって切断で来た。……でも、この刀が晴れ舞台に立つ可能性は低い。


(いやいやいやっ、諦めるな僕! 最後まで探すんだ!)


 そうは言っても、アテはない。残る商会も明日に試験がある一つだけ。


 それも容姿で落とされる可能性が高い。


「……僕も……英雄みたいに……かっこいい英雄に……」


 そう、英雄譚や伝承に出てくる勇猛果敢、一騎当千の大男。彼のようになりたいと何度願ったことか。


 それでも。


 神は平等ではない。


 白い髪に蒼い瞳。珍しい風貌ということで男娼へと何度もスカウトされた。それが物凄く屈辱的だ。


「坊主、大丈夫か?」


「えっ?」


 知らない声。またスカウトかと考えたがそうではないらしい。心配してくれている?


 声の張本人は青い髪を束ねる男性……かなりの身長で180はあるだろうか。


「何だか随分打ちのめされてるみたいだがよ……絶望だけはすんな。見たところかなり若いだろ、なら希望を見失うんじゃねぇ」


「あ、貴方は……?」


「俺か? 俺は――――――」


「きゃぁあああーーーーっ‼」


 男性の答えを聞く前に、一つの悲鳴が周囲へと響いた。


「えっ⁉」


 悲鳴の方向には、マスクを着けて子供を縛る謎の男。その右手に握られた剣は、女児へと向けられていた。


「オレは騎士団を追放され賞金首に堕とされた! たった一つの失敗でだ! なら、この道を歩いたという失敗で命を失うのも理に適ってるよなぁッ⁉」


(む、むちゃくちゃだ……!)


「さぁ、殺される準備はできたかぁ? 逃げようとした奴から殺すぜぇ……」


「待ちなさい!」


 現場へと駆け付けた数人の少女たち。自警団だろうか、それともどこぞの商会の部隊だろうか?


 いずれにせよ、助けが来たならもう安心――――――。


「おっと動くんじゃねぇぞ! 動いたらこのガキが死ぬことになるぜ!」


「た、たすけておねぇちゃん!」


 そうか……このためにあの子を攫い、拘束したのか。


「……随分物騒なことだな」


 声をかけてきた男性は他人事のように呟く。いや、他人事か。


 このまま動かなければ、嵐が通り過ぎるのを耐えていれば助かるのだ。


 ……そう、じっとしていれば。


(そんなこと……できない……!)


 あの子のことは知らない。名前すら知らない。でも、それでも……見知らぬ誰かのために戦える人が、英雄だと思うから!


「まぁ! 全員殺すんだがなぁッ!」


「だっ、ダメッ――――――!」


 マスク男の剣が女の子へと迫る。それを見て、少女たちが走りだそうと――――。


 しかし、最も速く動いた僕の身体が……女の子を抱えていた。

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