II. 第1話 The Sound of Silence
静かだね
と誰かに振り返り、私は言った。
誰かは自転車を停め、その静けさに耳を傾けた。
私も自転車を停め、同じように耳を澄ませた。
静寂
私たちは黒く湿ったアスファルト道に二人きりで
木の葉一枚もない白樺の木々の枝は
風に揺れることもなく
灰色の空に
奇妙な模様を描いていた。
人体から必要なものをすべて抜き去り
残された余分なものだけを描いたような、奇妙な模様を。
道の両側に除けられた雪は、陽が沈み
残照だけの気温では、溶け出して
渠に注ぐこともなかった。
もう三月の半ばだったが、本格的な雪解けにはまだ早い。
音までも凍ったままで
最初の一音を発するのを
じっと待っている管弦楽団のようだった。
自転車の音さえなくなると
その空間は完全な静寂に支配され
私はその崇高さを伝えようと
空を見上げる誰かを見た。
誰かは白い息を吐きながら
片足を凍ったアスファルトの上に置き
静寂に聴き入っていた。
凄いね
そう言って私は
誰かの顔を見て微笑み
再び自転車を漕ぎ始めた。
私は、この静寂を、誰かと共有したかった。
音のない世界は
対
象を見る目の働きさえ狂わせるようで
足を交互に動かして
ペダルを回転させ
どんどん遠退いていくはずの
私の背中は
いつまでも、誰かの目の前にあった。
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