箱庭の鍛冶師
梢 葉月
箱庭の鍛冶師
「……で、なんでこんなことしたか、ですか。まあ一言で言うなら金儲けですが……え?詳しい経緯を話せ?はあ、分かりましたよ、じゃあ手短に――」
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「ふわぁ……」
日の出の気配と共に僕はいつものように目を覚ます。
「……やばい、寝坊したかも」
ベッドから起き上がると、直ぐに作業着に着替え、階段を降り、居間のテーブルの上に置かれたパンを一切れ口に頬張りながら急いで家を出た。
鍛冶師の朝は早い。特に僕のような見習い鍛冶師は、見習いを終了した
特に、炉を高温に保つために使う石炭の補充を欠かすことはできない。良い剣を作るには、良い火と良い職人を使え、というのがウチの師匠の口癖だった。
まだ人通りが少ない石レンガの街並みを貫く大通りを駆け抜け、町の外れにある工房に到着する。師匠の家でもあるそこには、まだ誰も来ておらず、火の粉一つ舞っていない。
「よし……」
いつものように僕は壁に立てかけられた手押し車を押して、工房の裏手にある石炭の山から今日使う分を運び出す。
工房内に複数ある炉のそれぞれの決められた場所に石炭を補充し、また手押し車をもとの場所に戻した。
さあ、ここからが大変だ。工房の外にある干し草と薪の束を引っ掴んで炉に入れて火を起こす。
ある程度まで火が大きくなったら、石炭を放り込んで適切な温度まで炉を温めないといけない。
「うーっす、お、バーン、いつも早いな」
工房のジャーニーマンの一人であるモルドさんが工房にやってきた。
「おはようございますモルドさん!すみませんまだ炉が温まって無くて」
「いや、俺の炉は自分でやっとくよ。何なら手伝う」
「あ、ありがとうございます!」
そう言ってモルドさんも藁束に火をつけだした。
二人でせっせと炉を準備して一息つく。
「おう!なんだまだ二人しかいねぇのか?」
「おはようございます師匠!」
「おはようございます!そうですね。まだミッチェルもジョンも来てません!」
師匠であるマスターのグレゴロフさんが、丸太のような太い腕を回しながらどしどしと工房に現れた。
この人はこの町で右に出る者はいないほどの名工で、訪れる冒険者のほとんどはグレゴロフさんの剣を買いに来ているといっても過言ではない。
そんなグレゴロフさんが僕の方に歩いてきた。
「おうバーン、今日はいっちょ、お前にも仕事をしてもらうからな」
「ほ、本当ですか!?」
この工房に弟子入りして10年、何度か仕事を任されることはあったが、久しぶりだ。
「ちょっと待ってろ。依頼書持ってくるから」
そう言って親方が工房の奥の方にある個室に入っていった。
僕の横にいたモルドさんが誇らしげにつぶやく。
「よかったなあバーン。今年初めての仕事だ。気合い入れろよ」
「はい!」
返事と共に鉄を打つ前にまず自分の頬を叩いて気合を入れた。
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「……」
仕事をもらってから1時間後、朝の内に来ていなかったジャーニーマンの二人も、せっせと鎚を振るっている。
カンカンと調子のいいリズムが工房に木霊する中、僕はせっせと木材を加工して型を作っていた。
「いやあ……はは、まさかまた箱作りとはなぁ」
モルドさんがかわいそうなものを見るような目でそう言った。
「うう……いやまあ、依頼をくれるのはありがたいんですけど……」
僕の元に届いた依頼、それは剣の制作ではなく、箱庭用の金属の箱の制作依頼だった。
「またこの人……なんで俺にこんなのばっか依頼するんだ」
依頼者はこの町を時折訪れる商人。ある時ふとこの工房に立ち寄った時、僕と二言三言言葉を交わすと、「箱庭の箱を作ってほしい」と頼まれて、それから定期的に依頼が舞い込んでくるのだ。
「僕が作りたいのはこんな箱じゃなくて、剣なのに……」
鍛冶師が作る剣の中で、超が付くほどの一級品は神器と呼ばれ、名声のある冒険者や、王家に納品する。
僕の夢は一生かかってでも神器と呼べる逸品を作り出すこと。
もちろん依頼が来たからには作らせてもらうが、こんなものに構わずに早く剣を打ちたいというのが正直なところだ。
さっさと要望通りの箱の型を完成させて、それを砂で埋めて鋳型を形成し、溶けた金属を流し込んでさっさと終わらせる。
というか依頼内容も少し変だ。普通、箱庭の箱は木材を使うのに、わざわざ鋳型を使って金属で作ってほしいとある。
「まあその依頼主にもいろいろ考えがあるんだろうさ。深く考えない方がいいぞ。それに今ここでコネを作っておけば、後々助けられることもあるだろうしな」
とは師匠の言である。
「失礼。そろそろできましたか?」
「っと!?びっくりした。来てたんですか」
噂をすればなんとやらだ。工房にひょっこりと顔を出したのは、件の商人だった。
「そろそろ終わる頃かと思いまして」
「ま、まあ終わりますけど……まだ冷え切ってませんよ」
「いえいえ、冷え切っていなくて結構です。いただけますか?」
「わ、分かりました」
工房に入ってきた商人は鋳型を崩すと塊はしたもののまだ熱を持っているであろう箱を掴んだ。
「え、熱くないんですか?」
「ん?あぁ……結構熱いの平気なので。……これで5個目か。そろそろだな」
「え?」
「いえ、こちらの事情です。代金を支払っても?」
「あ、はい……」
よくわからないことを口に出しながらお代を支払って商人は去っていった。
「バーン。終わったか、なら剣を打っておけ」
「縺ッ縺?シ」
僕は師匠の指示に従って鉄塊を熱する作業を始める。
この段々と逋ス縺染まっていく鉄を見るのも楽しい。
「温度は……縺セ縺ゅ?√%縺ョ縺らいでいいかな」
十分に熱したら、莉雁コヲ縺ッ縺昴l繧貞娼いて伸ばし、蜑」縺ョ蠖「縺ク縺ィ謌仙ス「縺励※縺?¥。縺昴l縺檎オゅo縺」縺溘i莉雁コヲ縺ッ辟シ縺榊?繧後□縲ゆス募コヲ繧ら?縺吶k縺薙→縺ァ蜑」縺ョ閠蝉ケ??ァ繧剃ク翫£縺ヲいく。そして研磨を経てようやく剣が完成する。
「バーン、邨ゅo縺」縺溘°。莉頑律縺ッ繧ゅ≧繧?▲縺上j縺励↑」
蟶ォ蛹?縺ォ縺昴≧險?繧上l縺ヲ蟾・謌ソ縺ョ螟悶r隕九k縺ィ縲∵里縺ォ螟ェ髯ス縺ッ豐医∩縲∫ゥコ繧るサ偵′逶ョ遶九■縺?縺励※縺?◆縲
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「というわけで、MMORPG『ソードフロンティア』のサーバーは連鎖的なバグを引き起こし、クラッシュしました」
「いやあ、気づいたときは身震いがしましたね。鍛冶師見習いのNPCにアイテム番号が割り振られていない、存在しないはずの『金属の砂箱』というアイテムをドロップさせるプログラムがあったのは」
「初めは出来心だったんですよ。たまたまそのNPCが町の子供に金属の砂箱を上げているのを見つけて、プレイヤーももらうことができるか気になったんです」
「で、やってみたら案の定手に入りました。そこからコンフィグを調べてみると、そのアイテムに番号が割り振られてなかったんですよね。で、割り振られてないなら他の番号を上書きできんじゃね?って思っていろいろ試したら、ついに好きなアイテムを複製することに成功したわけです」
「で、そのバグを使って神器っていうめっちゃ強い武器を複製して高値で売りつけてたんですよ。多分これ系の案件やってる弁護士さんなら知ってると思うんですけど、その売買はリアルマネーで取引してまして。ざっと100万儲けられました」
「味を占めた俺は砂箱をためて一気に複製しようとしたんです。そしたら……ゲームがクラッシュしました。多分間違えて砂箱で砂箱を複製して……それで致命的なバグが発生したんじゃないですかね?」
「その日はゲームを閉じてたんですけど、調べてみたらサーバーに深刻な被害が出ててびっくりでした。まあでも、たまたまバグを見つけただけでそれを直さない運営が悪いですから、俺自身に過失はないですよね?」
「え?そもそもサーバー側に損害が出てるからアウト?被害総額は数十億?えっちょっと待ってくださいよそんな額払えませんって待ってください見捨てないで」
箱庭の鍛冶師 梢 葉月 @harubiyori
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