過保護が過ぎます!吸血鬼お姉さん!!

あじたに

プロローグ

 僕が中学に進学したばかりの頃、母が亡くなった。


 思い返せば母はいつも体調が悪かったと思う。


 そんな母を、父は懸命に支えていた。僕も当然、自分に出来ることをした。


 その時は小学生だったから大した事は出来なかったし、大変な日々ではあったけど、母はそれでも笑ってくれたしいつかは元気になると思っていた。


 しかし母の容体は突然悪化し、入院生活を余儀なくされた。父は凄く落ち込んでいたと思う。けれども、僕を不安にさせない為にいつも元気なふりをしていた。


「大丈夫、お母さんはすぐによくなるよ。きっと大丈夫。だから、いつ帰って来ても良いように家はきちんと掃除しておこうね。一緒に頑張ろう」


 父はそう言っていた。今思えばこれは父親自身にも言い聞かせていたのだろう。その日から「大丈夫」と口にする頻度が増えたような気がする。


 程なくして、母は天国へと旅立った。


 とても悲しかった。僕は一晩中赤子のように泣いた。父はそんな僕を抱きしめてくれたが、やっぱり泣いていた。


 母が旅立ってしばらくは辛かった。その顔を思い出しては涙腺に水分を貯め、思い出を振り返れば静かに溢れ落ちる。


 そんな毎日を過ごしていた。


 もし母が見ていたら、叱咤激励の言葉を叩きつけてきたかもしれない。母は病弱ではあったが、芯の通った強い人だった。


 ようやく涙が枯れたと思った時には、母の死から一年が経っていた。


 立ち直るのにこれだけの時間を使ったが、それは形だけで日々を惰性で過ごしているのが現実だった。


 そうして、悲しい過去から逃げるよう歩き出した頃。


「やぁ、こんにちは。湊音くん」


 時刻は夜九時。


 新円の形で月が空に鎮座し、普段の闇夜に比べると幾分か明るいそんな日、とある人物が僕の前に現れた。


 月光が照らしきめ細やかに反射する白髪。暗がりでも目が釘付けになるほど美しい真紅の双眸。

 満月の日だからこそ輝く異質な容姿。


____それは夜の帝王と名乗るに相応しい。


「あなたは……?」


「私はアリア、吸血鬼だよ。これからよろしくね?」


――この瞬間から、人生の歯車がもう一度動き出す。


 この物語は、僕と吸血鬼アリアが共に歩むお話。

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