無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
第1話 旦那様は恥ずかしがり屋
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
「ソフィア、いってくる」
旦那様は私にそう告げると、公爵家の紋章が入ったコートを身にまといます。
今日は公務の一環である領地の視察に向かわれるようです。
「はい、旦那様」
そう言って、そっと目を瞑ります。
旦那様はそんな私を見て、こほん、と咳払いを一つします。
私よりも頭ひとつ背が高い旦那様は、私の方に手を置いてかがみ込みながら近づいてきます。
チュッ
「...いってくる」
おでこにキス。私がそっと目を開けると顔を赤くして帽子で顔を隠す可愛らしい旦那様の姿がありました。
周囲にいるメイドや執事からの生温かい微笑みを浴びながら、旦那様は決まり悪そうに出かけていきました。
ふふっ。毎日の事なのに、あんなに顔を赤くされるなんて可愛らしいわ。
旦那様と結婚して半年。
私はとても幸せです。
政略結婚ではありますが、私は旦那様が大好きです。没落寸前の私の家を救ってくださった事には勿論感謝しておりますが、それよりも前から私は旦那様を慕っていたのです。
無口で近寄り難いお方。それが旦那様でした。
あまりにも何も話されないので、他の御令嬢からは距離を置かれておりました。
けれど私はそんな姿すらミステリアスで惹かれていたのです。
旦那様との結婚が決まった時は本当に嬉しくて飛び上がってしまうほどに浮かれておりました。
あのアクリウス様が私の旦那様になるなんて、夢を見ているようでした。
結婚して分かったことは、旦那様はとても恥ずかしがり屋だということ。
初夜ですら私に何も手を出してこないので、泣きながら訴えたあの日を忘れもしません。
「旦那様、政略結婚ですし、あなた様にとって私が何の利益も愛情も持てない女だということはわかっております。でも、形でも夫婦となったのです。せめて、手を繋ぐくらいのことはしてくださってもいいのではないですか?」
涙を流しながら伝えると、旦那様はギョッとしたように寝ていた体を起こし、オロオロとし始めました。
そんな旦那様の姿は初めてで、私は泣いていたのも忘れて驚きました。
「す、すまない。どうも...私は女性が昔から苦手なんだ。ソフィア、君のことが決して嫌いなわけではない。そうでなければ結婚などしない」
そう言いながら困ったような顔になりました。そんなに悩ませていたとは思わなかっと、焦ったように私の様子をうかがっています。
その姿を見て、なんだか今まで悩んでいたのが嘘のようにすっと気持ちが軽くなりました。
「旦那様、すぐにとは言いません。少しずつでいいので、夫婦らしくなりませんか?せっかく、結婚したのですから」
「...あぁ」
ふわりと旦那様が微笑むのが見えて、私の胸はとくんと音を立てました。
こんな風に、笑うのね。
そして、この日から約束をしたのです。
「では、ひとつだけお願いがあります。私、毎日あなたのお見送りをしたいのです。いくら朝が早くても構いません。私を起こしてください。朝食は必ず一緒に食べましょう」
「わかった」
「それと、出かける前は私のどこにでもいいのでキスをしてください」
「わかった........は?」
「約束、ですよ?」
にこりと微笑む私に、たじたじになる旦那様。
こうして、私と旦那様の夫婦生活がスタートしたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。