第41話 Scene:颯「プロポーズはしたのか?」
光のことはずっと好きだった。高校に入ってすぐ一度告白をしたが、その時は断られた。
男女として付き合うのは無理だけど、友達として仲良くしたいと言われて、そうすることにした。
「颯のことが嫌いってわけじゃないんだけど……」
「嫌いじゃないけど、好きでもないってこと?」
「えっと、好きとか嫌いとかじゃなくて、付き合えない。雰囲気おかしくしたくない」
望と翼と、いつも4人でいたいから、2人はダメだってことだと理解した。
大学に入って、さすがにいいだろうって思った。早く彼女にしたかった。知らない奴に横から光を持って行かれたら最悪だ。
「内緒で」という条件付きではあったけど、晴れてカップルになった俺たちは楽しい3年間を過ごしたよな?仲良くやれてたよな?
望が俺の事を好きだったらしくて、これまでの光の言動が腑に落ちた。
だけど俺の知る限り、望が好きなのは翼だったし、俺と光の関係がおかしくなる意味が分からない。
「望の言った通りなの」
昨日の帰り道、歩きながら光が言った。
「私、颯の事が好き過ぎるんだと思う」
「俺も、光が好き過ぎるけどな」
嬉しい告白に、正直、心が踊った。
「だから、少し距離を置いてくれない?」
頭が真っ白になった。理解が追い付かない。
「言ってる意味が……」
「なにをやってても、集中できないの。颯の言動に一喜一憂してしまう自分に困ってる」
喜んでいいように思うが、さっぱり嬉しくない。
「距離を置いてどうするんだよ」
「頭、冷やす」
「一緒にいたら出来ないってことだよな……?」
「うん」
涙ぐんでる光を見て、決心が固まっているのが分かってしまった。
「俺が他の人に取られちゃうかもよ?」
すがるような気持ちで脅してみる。
「その時は、私にそれ程の魅力が無かったってことだよね」
「どうしてそんな……俺のこと試すようなことするんだよ」
「試されているのは私なの」
いつの間にか到着していた家の電気のスイッチを押す。
「仕事とか、プライベートとか、考えなきゃならないことが沢山あって、一人で決めたいのに、決めなきゃならないのに……颯がなんて言うかなとか、どう思うかなとか、気になって仕方なくて……颯に気に入ってもらえるように行動をすると、自分が最初に思ってたのと違くなってしまう気がするの」
何を言っても駄目だろうな。もう、光は決めたって顔をしているから。
「分かったよ。俺のこと嫌いになったわけじゃない……んだよな」
「うん」
「また、やり直すきっかけはくれるんだよな」
「うん」
「明日の朝になったら別れよう。今夜までは光の彼氏でいさせてくれるよな」
「うん」
忘れらない夜になった。
一緒に寝て、起きて、支度して、大学に行く。
いつもと変わらないことをしているのに、なにもかもが違う。
「翼たちに言うだろ?」
「うん、早い方がいいと思う。今日、言おう」
一刻も早く、既成事実にしたいみたいだな。
「分かったよ。早く行くか」
同じ家から通学するのはこれが最後になるだろう。残り少ない大学生活を光と過ごせないのはやりきれないがな……どうか、光が俺の家に泊まるのは、これが最後にならないことを願う。
「ひーかーりー!」
たぶん俺はあまりにも辛いんだろう。心がなにも感じないように奥深くに潜ってしまったみたいだ。だから望ののん気な声が聞けたとき、俺がどれだけホッとしたことか。
光と2人きりの時間に、これ以上、耐えられそうになかった。
「俺たち別れることにしたんだ」
言葉にした瞬間、後悔が渦巻いたが、俺が抵抗しても結果は変わらない。
望のやつ「もう一回言って」だと?こんな事、何度も言わせんじゃねぇよ。
「私たち、別れることにした」
光に言われて、頭を殴られた気になる。
望が泣き出して、「望のせいじゃないって」光と翼が慰めてたけど、じゃあ誰のせいなんだよ、俺のせいでもないだろ?そんな事がぐるぐる頭ん中駆け巡って、気持ちが悪くなった。
「大丈夫か?」
「ああ」
大丈夫なわけないだろ。他に何て言えばいいんだか。
翼に悪気がないのは分かっているが、俺の心はささくれ立って、もう何を言われても皮肉なことしか言い返せる気がしない。できる事なら放っといて欲しい。
「プロポーズはしたのか?」
「そんな暇ねぇ」
「そうか」
してたら変わってたのか?ノーだな。だけど、光はたぶんその気配を感じ取ったんじゃないかな。俺が、自分のものにって焦ったから、勘付かれたんだ。光の自由を奪うつもりは無かったはずだけど、そういう風に見えても仕方が無かったかも知れない。身から出た錆。後悔先に立たず。ああ、やり直してぇ。
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