幼馴染みの恋愛模様
あおあん
双子の思惑
第1話 Scene:翼「金払って、時間作って、俺、あいつの何?」
「よぉーし、またゲリラライブやるぞー!」
「はぁ?懲りないな、ってかなんで俺に言うんだよ」
たまたま一緒になった就職説明会の会場で、こいつに絡まれた。
「だってぇ、光も颯も、もう懲り懲りって言うんだもん……」
一カ月前、こいつらは大学のキャンパスでやらかした。
「そうとう怒られたって聞いたぞ」
ドラムスの俺は不参加で、目を付けられずに済んでいる。
「一回でめげてたら、売れるわけなんてないよー」
「次は一人で歌うってか?」
「あのさ、タンバリンでいいから、一緒にいてくれないかなー?」
「断る」
「はぁ……」
QRコードをかざして、いろんなブースの受付を回る。
「もうさ、売れるとか諦めろよ。趣味でいいじゃん」
「嫌だよ!いいとこまで来てるかもしんないしー。デビューするの夢だしー!」
「頑固」
「むっ」
望は口を尖がらせて、先を歩く。
望とは小学校の頃から一緒で、俺はもう自分でも覚えてないくらい昔から、こいつが好きだ。
同じく同級生で幼馴染の颯、俺の双子の妹の光と、高校生の時にバンドを結成して今に至る。大学4年生の春、もう、夢に見切りを付けなきゃならない時期だ。
「ゲリラじゃなくて、ちゃんと申請してからにしろよ」
「申請が通らないのー!だから、ゲリラしかないんじゃんかー!」
「でも、就活に響いたら問題だろ?」
「もうっ!一人でやるからいーよ。意地悪ー!」
「意地悪って……」
タンバリンを持って、望とキャンパスに立つなんて……絶対ないだろ。
「また、ライブハウス借りようぜ」
「だってぇ。最近、みんな集まり悪いし……就活であんまりバイト入れられないからお金足らなぁーい」
こいつの言ってることも分かる。
だから、ほんの少し、助けてやりたい気もしなくもない。
「音だけ録るか」
「えっ?!」
「楽器音だけ録ってやるから、それバックで流して、お前ひとりで歌え」
「いーねー!そんでもって、タンバリン持った翼が……」
「立たない」
目を細めて、口を片方吊り上げて『この薄情者』って顔してこっち見んな。
「ケチ」
「なんとでも言え」
家に帰ると、光が既に戻っていた。
「お前も就活会場に行ったんだろ?」
「うん、会わなかったね」
麦茶を出してくれた。
「サンキュ。望に会った」
「そっか。元気してた?」
「まーな。ゲリラやるって息巻いてた」
「えっ、私はもうパスだわ」
「そう言ったんだけど、ちっとも聞かねぇ」
二人で笑う。
望の猪突猛進っぷりは子どもの頃から変わらない。
あいつは芸能界に興味があって、何とかしてデビューしたいとずっと頑張っている。
「楽器だけ録音してやろうかと思うんだけど、どう?」
「それならいいよ。ベースの準備しとく」
「それ流せば、望が一人で歌えるだろ」
「隣に立っててあげなよ。タンバリン持って」
「お前まで……」
そうと決まれば、スタジオを予約しなければならない。
ギターの颯に連絡した。
「望がキャンパスでカラオケできるよう、録音の演奏会すっぞ」
「おう!」
幼馴染は話が早くていい。
俺たち三人はバイトと授業のない日を合わせて、集合することにした。
「翼が借りたの?」
「ああ」
たまに来るレンタルスタジオ。
「言っとくけど、一時間しかねーから、チューニング急いでな」
「あいよ」
「おっけ」
自分たちで作ったオリジナル曲と、望の得意なカバー曲の録音を2曲やったところで時間いっぱいになった。
「ふぅー、怒涛の一時間だったね」
「ああ、望がいなくて正解だったな。あいつがいたら、たぶん半分も録れてないよな」
俺たちが集まれば、自然とファミレスに足が向く。
「颯、就職決まった?」
「いんや、まだ」
「音楽続けるの?」
「分かんねえけど、お前ら以外と演奏したことないし。ここが無くなったら、たぶんやんねえじゃねえかな」
「私も。やらないと思う」
たぶん、みんな考えてることは同じだ。
望は続けるんだろうな、んでもって、それはそれは楽しそうにやってるあいつを見て、羨ましいと思いつつ、自分はやらない。どうして自分は『ああ』は、なれないんだろうってな。
「今日はありがとう」
「翼が礼言うなんておかしくね?」
「確かに。金払って、時間作って、俺、あいつの何?」
「「「ははは」」」
早速、あいつにデータを転送する。
「喜ぶ顔が目に浮かぶよねぇ!」
「そぉだなぁ!」
スマホを片手に、望のリアクションを待つ。
「あ、来た!」
「もう?」
「ホントだ」
ハイテンションのお礼と共に、『動かないでね』というメッセージが届く。
「動かないでね?」
光が首を傾げて、ドリンクバーのお代わりに行った。
「お前さ、望に告白しないの?」
颯に聞かれる。
「なんだよ、それ」
「残り少ない大学生活なんだからさ、楽しいキャンパスライフの思い出ってやつ?作っとかないのかって、思ってさ」
「別に好きじゃねえよ」
「あっそ」
キャァキャァ聞こえてきたと思ったら、光と望が一緒になってやって来た。
「つーばーさー!はーやーてー!ありがとー!!」
そう言って抱き付いてくる。
「はいはい」と言って、避ける俺。
「はーい」と言って、抱きとめる颯。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます