ゲーマーはゲームのような異世界に転生して最高の人生を掴むようです
星海亘
第1章 昔日の記憶は導となる
第1話 空腹と自覚
人生はクソゲー。でも、自分次第で神ゲーにもなる。
出典不明
*
腹が減った。
兎に角、物凄い空腹感がある。
空腹を自覚した彼は、次に自分が地面に倒れていることを認識した。
力の入らない身体に気合を入れて、彼は何とか立ち上がった。
そこは見渡す限り広葉樹が立ち並ぶ森だった。彼は、木漏れ日が差し込む木の下にいた。
長閑な森を見て、自分は拉致されたのだろうか、と彼は思ったが、空腹感がそれを否定する。
自分の両手が細く小さい子供の手であることを認識した彼は激しい頭痛を感じた。
そして、今の自分がトアル村の農民の五男で、名をルクスということと、口減らしの為に売られそうになって逃げ出し、一週間彷徨っていたことを思い出した。
しかし、それとは別に、彼には日本という国でサラリーマンをしていた
最後にトラックに轢かれた記憶があるので、善治は死んだのだろうと、彼は思う。
本人の感覚としては、善治とルクスの人格はほぼ一緒で、記憶が二つある感じだ。
善治は死んでいるだろうし、この身体はルクスのものなので、ルクスが主体だろうと思った彼は、ルクスとして生きようと決めた。
善治として生きたいという拘りも特に無かったのだ。
ぐうう。
早く腹を満たしたい、とルクスは木を見あげた。
林檎らしい赤い果実を見付けたルクスは、木に登って果物を取った。
(鑑定できれば良いのに)
とルクスが思うと、半透明の板のようなもの──ホログラムウインドウが現れた。
あまりに唐突だったため、ルクスは果物を落としそうになった。
(っ、セーフ……危ない危ない)
果物を落とさなかったルクスは懐かしい日本語が書かれたホログラムウインドウを見た。
【アポー】
食用。
食べ頃は赤くなった頃。
食べると体力が10回復する。
通常買取価格︰15エン
ルクスは鑑定で安全と分かった林檎っぽいアポーを食べ始めた。
(ん、蜜が詰まってて甘い……美味しい)
腹が減っているが、一週間果物などで凌いできたため、ルクスはよく噛んで食べた。
よく噛みつつ、ルクスは自分を鑑定すべく、
【ルクス】
種族︰人族
性別︰男
年齢︰10歳
レベル︰0
ジョブ︰なし
スキル︰アイテムボックス マップ 鑑定 生活魔法
称号︰転生者
装備︰粗末な布の服 粗末な布の靴
状態︰痩せすぎ
転生者︰別の世界の記憶を持って転生した者に贈られる称号。特典として【アイテムボックス】【マップ】【鑑定】のスキルを得る。
ルクスは自身の能力について把握した。
(転生者ということは、やはり、前世の俺は死んだのか、まぁ、トラックに轢かれれば死ぬだろうな)
ルクスはステータスをじーっと眺める。パラメータがないので、出てこないか試すためだった。しかし、じーっと眺めてもパラメータは出てこなかった。
鑑定で詳細な能力が見れなかったのは前世ゲーマーであるルクスとしては残念極まりなかった。
(レベル零でジョブなしか……あのゲームだったら美味しい状況なのにな……まてよ?)
あのゲームというのは……MMORPG【
カバラの生命の樹をメインテーマとして掲げたこのゲーム──
ただし、異界からの旅人であるプレイヤーは例外で、全てのセフィラの要素を持っていて、全てのセフィラを強化することができる。
NPCも、特定のアイテムによって他のセフィラが解放される仕様だ。
閑話休題。
何故、ルクスがこのゲームを思い出したかといえば、ルクスが産まれた村はゲームの序盤に出てくる村の名前と一緒だったからだ。
現実と2Dではあまりにも違いがあるが、アポーというアイテムもあったし、ルクスが小さい頃、村にいた鶏に似たコッコと羊に似たメェル、牛に似たモウモもゲームには出てきた。
ルクスは可能性を試す為、ある言葉を紡いだ。
「【生命は数という神秘でできている】」
ルクスの前に光でできた樹木が現れた。
セフィロトだ。
ちなみに、この言葉は、プレイヤーがセフィロトを起動するときに表示される言葉なので、ルクスはセフィロトの起動に関わっていると思い、口にしたのだ。
プレイヤーであれば、セフィロトの実が全て光を帯びているのだが、ルクスはといえば、
(全部、光ってる)
全ての実つまりはセフィラが光を帯びていた。
ルクスはによによした。
(これで勝つる!)
何に勝つかは分からないが、ルクスは大層喜んでいた。
(いや、ちょっと待て)
ルクスは一つのセフィラをタッチして中を見た。
そして、他のセフィラの中も確認する。
(解放はされているが、一つも強化できてない)
つまり、能力にセフィロトによる補正がほぼないということだ。
ということは、ルクスは普通の子供とあまり変わらない状態だということ。
(そうだ、今、俺はレベル0でジョブなし。つまり、まっさらな状態……)
ルクスは今まで農業の手伝いばかりでレベルを上げたこともなかった。
十歳になると神官にジョブを与えてもらうのが普通だが、ルクスは昨日誕生日を迎えたばかりでジョブもない。
本当にまっさらな状態だ。
(始まりの街に行こう)
プレイヤーたちが最初に訪れる街──王都【アルヒ】。アルヒ王国の首都であり、プレイヤーたちが最もお世話になる街と言える。
この街でルクスはレベル0とジョブなしの利点を活かすつもりだった。というか、この街でしかできないだろう。
ルクスは街へと向かうべく、木から降りた。
まだ見ぬ街への期待と、未来への希望を抱き、ルクスは片手で拳を作って、太陽に向けて掲げた。
「折角、転生したんだ。異世界を満喫しまくるぞ!」
楽しみだ、とルクスは笑みを浮かべた。
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