第12話 隊長と裏切り者


「隊長、なんでこんなところに……」


暗い病室。

時々様子を見に来るじゅんかい以外は来ないと思っていた奈須は入ってきた人の顔を見て、驚いた。

静かに現れた奈須の上司は、寝台の横に立ち、いつもの無表情で奈須を見下ろしていた。


「様子を見にきた」

「いやいや、夜ですよ」


苦笑しながらも奈須は「ありがとうございます」とあまり動かない頭を下げた。


「僕にもう余裕はないみたいですが」

「……ああ」

「隊長」


意を決したように奈須から笑みが消え、しんけんな目で佳入を見据えた。


「お言葉ですが、奥様はやっぱり死神ですよ。僕はあの人に殺されるんだ」

「なぜ、そう思う?」

「明らかに僕の方が久寿里よりけがが軽いはずなのに、今死にそうになっている。あの医者は死神気取りで、人の生き死にを操作していると思うんです」

「なぜ、彼女がそんなことを?」

「それは……」


奈須は反論しようとしたところで、はっと気付いた。

佳入の顔をみて全てを察し、ああ、といきらした。


「…隊長は…知っていたんですね」

「何をだ」

「僕のことと、死神のことですよ」


奈須はちょうするように笑う。

それに、肯定も否定もせず、静かに奈須を見る佳入。


「それなら、この現状も仕方ないですね」


何を言っても表情が変わらない佳入をみて、奈須が諦めたように息を吐く。


「僕たちの中で、『死神先生』は暗殺者として恐れられていたんですよ。でも、隊長と結婚して、第一部隊の僕は大丈夫だと思ってたんだけどなぁ。隊長が死神に頼んだんですか?」

「俺の仕事と彼女の仕事は別だ」

「あれま。その予想も外れたかぁ」

「前に言っただろう、お前に潜入は向かないと」

「そうでしたね」


奈須はおのれにつながる管を、一つずつながめていく。


「隊長は、奥様の仕事を知っていたのですね」

「全ては知らない」

「確かに秘密主義な感じがします」


「でも」と、奈須はにやり、と意地悪な笑みを浮かべた。


「秘密主義同士でお似合いですよ」

「どうかな」

「冷やかしにもなりませんか」


それでも無表情を崩さない佳入をみて、奈須はさらに笑う。

目をみても、奈須には佳入の感情を読み取れなかった。


「向こうはそう思ってないからな」

「隊長は全く自分のことを話しませんからね。そりゃ、奥様がそうなるのもうなずける」


佳入の目がわずかに見開いた。

「そうか」と静かに呟くのが、奈須まで届く。


「彼女は…俺のことを知らないのか」

「そりゃそうでしょうよ。そのくせ俺を頼れとか、無理なこと言ってんじゃないですか?」

「…」


病人の彼は、こんな人が上司で敵だったのか、と呆れた顔をしている。


「なんだよ。僕はこんな人たちに殺されるのか」

「俺ならお前を殺さずにすむ方法を提案できる」

「『死神先生』と結婚したからですか。それとも俺への情けですか」

「両方、かもしれないな」

「なんですか、それ」


奈須は乾いた笑いを漏らした。


「知ってますか、隊長。入院中ってね、りょの事態が起きることがあるんですって」


奈須の言葉の意味を図りかねて、佳入は眉をひそめた。


「その多くは分かっていない病気、例えば心臓発作が起こるとか。心臓発作って、とても胸が痛くなるらしいですよ」

「おい」


佳入が止めるより早く、奈須は己の口の中にじょうざいを放り込んだ。


「隊長、久寿里の様子も見てきてください」

「…奈須…」

「早く、この部屋から出たほうがいいですよ。奥様を大切にしてください」

「…ああ」


あえて挨拶は言わない。

しぶい顔をした佳入は足早に病室を後にした。

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