賞味期限切れの食べ物に夢中

@2321umoyukaku_2319

第1話 残り物には福があるので捨てるのは勿体ない!

 健康には気を付けてきた。

 適度な運動を心掛ける。規則正しい生活を送る。健康に良い食べ物を、食べ過ぎに注意して摂取する……といった具合だ。

 賞味期限の切れた食べ物は絶対に口にしない。当然のことだ。そんなものを食べて体を壊したら元も子もないからだ。

 そんな風に過ごしてきた私は病気に無縁だった。健康のために、これだけ努力しているのだから、大丈夫だろう……と思ってきた。

 だが、それは私の驕り、傲慢さだった。

 私は大病を患ってしまったのだ。

 その悲運に見舞われたとき、私は無情な世界を呪った。神も仏もない残酷な世の中と、そこに存在する一切合切が無限の苦しみにのたうち回って絶望のうちに滅び去ることを、心の底から願った。毎朝の目覚めのたびに世界が消滅していないことに落胆した。そしてベランダから絶叫した。

「どうしてッ! どうしてなのッ! どうして世界は私と運命を共にしてくれないのッ! どうしてなの~ッ!」

 下を歩く通行人たちが速足で過ぎ去っていく光景を、今も私は忘れない。

 あの頃の自分は、言うなれば世界との心中を求めて止まなかったわけだ。

 それを一変させる出来事があった。

 気落ちして食欲不振だった私は何も食べられず、そのせいもあって衰弱していたのだが、ある日テーブルの上に置かれた食べ物を見て、久しぶりに空腹を感じた。これなら食べられるかも、と思った。ちょっと食べてみる。心が浮き上がった。

「美味い!」

 そう叫んだ私は、それをムシャムシャ食べた。食べ尽くした。

 しかし、それは、もしかすると食用の物体ではなかったのかもしれない。ずっと前から仏壇に置いてあった、お供えのお菓子だったのだ。お盆のお供えが新しくなったので、前の物がお役御免になり、捨てられるのを待っている状態だったのを私が見て、それを食べてしまったのである。

 それを食べてから、私の体調は回復した。何か知らんけど、食べれるようになったのが良かったらしい。あの賞味期限切れのお菓子のおかげだと、私は思った。偶然と言われたら、それまでだが……それでも、そんな気がして止まないのである。

 体調が良くなってから、私は賞味期限を気にしなくなった。賞味期限を越えた食べ物を摂らないからと言って、ずっと健康だとは限らないからだ。食べ物に気を遣い過ぎてストレスになっていた可能性もある。それよりは、大らかな気持ちで賞味期限切れの食べ物に接した方が良いと今は思っている。

 むしろ賞味期限を過ぎた食べ物を、夢中になって食べている感じはある。そういう食べ物のほうが、美味しく感じるからだ。買い物では賞味期限ギリギリの食べ物を選ぶようにしている。自分自身の健康と幸福とSDGsのために、あえて私はリスキーな食べ物を選んでいるのだ。今や私の体の大部分は、賞味期限切れの食べ物で構成されていると言っていい。体はすこぶる快調だ。ありがたいことである。

 まあ、あれだ、残り物には福があると言うし……とか書きつつ、今度は食あたりか食べ過ぎで死にかけるかも、という不安もよぎる。健康と賞味期限とのバランスを考えるのが今後の課題だ。

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