第9話 再会の微笑み
翌週末。
「ねえ、お母さん。今日、翔太に会ってくるね」
彩花の言葉に、私は息を呑んだ。
「……いつの間に約束を?」
「この前LINEしたの。元気かなって。
せっかくだから顔くらい見たいじゃない」
屈託のない笑顔に、返す言葉が見つからない。
胸の奥で、冷たいものと熱いものが同時に渦巻いた。
──彩花にとっては“昔の友達”だ。
けれど私にとっては、“抱いてしまった男”。
約束の時間。
駅前のカフェで、私は同行を名目に二人の待ち合わせに付き添った。
すぐに現れた翔太の姿を見た瞬間、心臓が激しく打ち始める。
「おー、翔太!」
彩花が駆け寄り、無邪気に笑う。
翔太も笑みを返しながら「久しぶり」と声をかけたが、その視線が一瞬だけ私に向けられた。
……あの夜の熱を思い出させる、沈んだ瞳。
三人でテーブルにつく。
彩花は学生生活の話を弾ませ、翔太は相槌を打つ。
私はただ笑顔を装いながら、二人の距離の近さに胸をざわめかせていた。
「やっぱり翔太、少し大人っぽくなったね」
「そう? 浪人してるだけで何も変わってないよ」
ふたりの笑い声が重なる。
その光景が、胸を鋭く突いた。
──私は、娘の笑顔と同じ場所で、この青年を抱いたのだった。
罪悪感と嫉妬がないまぜになり、喉が焼けるように渇いた。
帰り道。
彩花が「やっぱり翔太、いい友達だな」と言ったとき、私は思わず言葉を失った。
横を歩く翔太は、わずかに俯き、無言で歩き続けていた。
──再会の微笑みの裏で、私たちの秘密はさらに深く絡まり始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます