僕たちの未来、0second↻

ronboruto/乙川せつ

僕たちの未来、0second.

『時間は有限。昨日やっておけばってなるわよ!』


 学校で耳にタコができる程聞いたこのフレーズ。


 僕は一つ思った。


 時間は無限に続くじゃないか、と。


 だってそうだろう。僕たちが死んでも、未来に何かが起こり続ける。


 誰かが生まれたり、死んだり、戦争が起きたり、終わったり。


 そもそも、時間とは何だ?


 今? 明日? 昨日?


 いいや……時間とは〝人類ぼくたち〟だ。


 未来、過去、現在。それすらも自分が見る相対的な感覚に過ぎないのだから。


 人によっては自分は違う時の中で生きていると言うだろう。


 誰かが定めた時間の概念に従わない人種も少なからず存在するはずだ。


 そう、僕たちは自由だ。


 時間なんて知らない。考えてもどうにもならない。


 そもそも時間なんて不確定だ。


 特殊相対性理論しかり、この世界の時間概念は後付け。


 ただあると便利だから「ある」と断定した形なきもの。


 形容しがたきそれは、多くの心を蝕んだ。


 寿命、終わり、始まり、破壊、再生。


 物語の終わりと始まりが、時間という無形を肯定しているのだ。


 そうだ、誰かが時を認めるのだ。


「――――――なぁに一人で考え込んでるんですかぁ?」


「……なんだ、君か」


 僕に話しかけるのは友人の女の子。


 彼女とは長い付き合いだ。幼稚園から高校までずっと一緒――――――。


 この絆も、繋がりも、時間が生み出したものだ。


 時間は存在しない。


 だが人にとって、それは必要不可欠な存在だ。


 どんな傷も、時間が過ぎれば塞がっていく。心の病だとしても、いずれ少しずつ薄まっていく。


 時間は、真の意味でゼロには戻らない。


 それと同じで、大きな傷には跡が残る。社会の損害でも、人の傷害でも……何かがゼロになり忘れられることなどない。


 人は、様々な手段で過去げんざい未来いまへと繋げてきた。


 石板、文字、絵、建築物、物語……人には、時間を超える力があるのだから。


 自分達が生み出した概念に負けるほど、人間は弱くないはずだろう?


 だが、今の科学や魔術では過去を変えることはできない。


 僕たちにできるのは未来だれかに託すことだけだ。


 ……たとえ時計が一周しても、一度読み終わった本を最初から読んでも、同じように感じることはないはずだ。


 昨日とは違う今日。


 見方が変わった物語。


 たとえ同じ様に見えても、世界や人は前に進み、成長する。


 学習し、間違いを正そうとする。


 物語は、明日を見る。


「今日、星を見に行きましょう!」


 ……そうだ。


 もし、世界が滅んでしまったとしても。


 もし、新しい文明が始まったとしても。


 僕たちとは違う、《今日あした》が生まれるはずだ。


 そしてその日も、いつかは記憶の一日となるだろう。


「あのっ! 聞いてますかっ⁉」


「う、うん。もちろん……」


「じゃあ、私が何て言ったか教えて下さい」


「……」


「……ねぇ」


「ハイッッ!!」


「ごめんなさいは?」


「……ごめんなさい」


「よろしい!」


 このように、日常的に時間の巻き戻しは望まれる。


 こうすればよかった、こうしたくはなかった……といった具合に。


 ――――――と、ここまで話したが……これは僕の感覚であって、君たちの感覚ではないよ。


 そもそも、僕が君たちと同じ文明にいるかは分からないしね。


 もしかしたら、僕にとっての未来かもしれないし、過去かもしれない。


 まぁそんなの知ったことじゃないけど。


 僕にとっての大切は、今なんだ。


 君の大切な時間って、いつだい?


 もう過ぎたかい? それともまだ来ていないかい?


 ……いや、聞かないでおくよ。


 世界これは、僕たちみんなの物語だ。


 さぁ、これからも紡いでいこうじゃないか。


 惨めでも、滑稽でも、道化だろうが、愚者だろうが、勇者だろうが、聖者だろうが、人ならざる者であったとしても。


 明日を歩こうじゃないか。


 いや、今日かな?


 時計と世界は回るよ、どこまでも。


「さっ、行きましょう!」


「……うん!」


 僕たちは、きっと並べる。手を繋げる。話せる。分かり合える。時間がかかっても。


「行こう!」


 この現在は誰かにとっての未来であり、過去である。


 僕たちの物語はいつかは終わる。


 それでも、僕たちは0秒先を歩み続ける。


 さぁ、飛び出せ!


 キミだけの未来を掴み取れ!


 キミの未来は、君が描くもの!


「わぁ……!」


「綺麗だ……」


 星々の下で、僕たちは二人きり。


「ね? 今日来てよかったでしょ!」


「うん……今日で良かった」


「ふふっ、さっきまで一人で何か考え込んでたのに」


「あ、あれはその……」


 我ながら何とまあ……ありきたりで、滑稽で、つまらない話だ。


 大切で、大好きな女の子と一緒に居るこの現在じかんが、何よりも幸せなのだ。


 でも、こういう主人公だれかの外伝でも……名もなきモブキャラでも。


 僕は、僕の物語じんせいを。


 大切なこの人と一緒に。


 たとえどれだけ迷っても、僕は後悔だけはしたくない。


 だから、ここでやるんだ。


 人生の転換点は、きっとここだ。


 パラレルワールドすら超えていけ、主人公!


「……どうかしました?」


「…………――――――ふーっ……」


「……?」


 心臓がうるさい。


 呼吸が速い。


 顔が熱い。


 もしかしたら顔真っ赤かも……――――――それでも!


「―――……僕は、君のことが好きだ」


「――――――!」


 その日僕は、人生で一番の――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――……、



 ――――――笑顔になった。

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