終焉そして

Nikkoro

第0話 プロローグ

 つい、この間まで肌寒い感じがしていたが昨日まで降っていた雨も上がり何処どこか夏の訪れが感じられる今日、朝焼けと同時に目を覚ました。そしてこれが世界が終わりを告げる最初の朝だった。


 「ふぁぁぁ、ねむぅ」

 「なんだ、お前、寝不足か?」

 「昨日、バイトでお遅くに帰って来たからろくに寝てないんだよ」

 「じゃあ、今からの授業はどうすんだよ?」

 「サボる……じゃな」

そんな会話を最後に彼らは分かれ、少年は一人その場を後にした。

 今までのこんな会話ですら、些細ささいな幸せの一つに過ぎず、この会話すら懐かしく愛おしく感じられてしまうとは思わずに……

 今まで当たり前だった平穏へいおん静寂せいじゃく、救い、安らぎ、退屈でどこか心地よかった仕事、それすら愛しく、いかに幸せな日々だったのか今ではよく分かる、そんな日常はもう無くなり、常に生きるか死ぬかの瀬戸際せとぎわに立ち続け、僅かな水、食料、医療物資そして……

命すらも奪い続ける


 時は流れ2年後のとある場所


 カサッ


 小さな物音が聴こえて来た、そこに居るのは食料を取りに来た5人の生存者、男が3人と女が2人、うち男は成人男性1人、男子高校生2人、女はどちらも大学生くらいだろうか、

ただ、5人のうち誰も何かにぶつかった様子は無い

「今の音は何?」

「分からない、ただ用心しろよ、あいつらが何処かに居るかもしれない。」

「分かりました。俺は後ろを警戒します」

 男子学生の一人がそう言うと他の皆は何も言わずに静かに頷いた。

 それからしばらくして彼らは何とか目的の物を確保し帰路きろに着こうとしていた

そして、先程入って来た扉を開けると奴はそこに居た  

 うめき声を上げ、扉を開けた男子学生の一人に嚙みついた、残された彼らの前に居るのはかつて人であったモノと先程まで共にいた仲間だ、それは鈍い音を立てながら彼を食べていた、その様子を間近で見てしまった女学生はその恐怖から失禁してしまい、もう1人はあまりの恐怖に声に鳴らない悲鳴を上げていたがその音に反応し彼女の目の前に居たそれは彼女に目標を変えてゆっくりと歩き出した。


パリンッ


 窓ガラスが割れる音がした瞬間、彼らの前に今までいた、それは頭部に一本の矢が刺さった状態で床に伏せていた、その瞬間を見逃さなかった男性が大声で

「今だ‼、俺はこっちの嬢ちゃんを抱えて行くから、ボウズはもう一人を頼むぞ」

叫び、また彼もかつての友を見つつ小声で

「ごめんな、楽しかったよ、じゃあな」

と唇を嚙みしめながら告げた、後に

「はい!」

 返事をし、彼らは二人の女学生を抱え出口まで走って行った、その間もガラスが割れる音がすると共に、彼らを追ってきているヤツらが倒れていく、また行く手を阻むヤツらも同じように、だがあと少しで出口と言うところでその音も聞こえなくなった、しかし出口の光があるところには誰かが立っていた、その人は光る何かを持っていた、その人が何かを投げて数秒すると、投げた何かから大きな音がし始めた

 その音に引かれ、彼らを追っていたヤツらはその音のする方に方向変え、建物の中に姿を消すのだった

 4人が外に出ると同時に外に居た男は事前に準備していたのであろう、棚を押して出口を完全に塞いだ、だが数体がわずかに出来た隙間から外に出て来てしまった、4人はまだ息を切らしていて、すぐには行動出来なかったが最初に出て来た男性と弓を持っているその男は外に出て来たヤツらを刃物で確実に頭部を刺していった

「はぁはぁ、すまない誰だか分からないが助かった」

 男性がそう言うと彼は4人を見てから、傍に会った廃材を折って一人の女子大生の傍に歩き出し

「別に・・・気にするな、ただの成り行きだ、その前にあんた、足折れてんじゃないか?」

 彼はそう言い彼女の足に添え木をした後に包帯で固定した

「ありがとう、でもどうして?」

「んっ?ああ、さっき見たときに引きずっていたから、もしかしてと思っただけだ、何ともないのなら包帯は使いまわしても良いし捨てても構わない……まっそれだけだ、じゃあな」

 そう言うと彼はその場を後にしようとしたが、

「待って」

 先程、治療した女性がそう言い彼の服を掴でいた、それを隣で見ていたもう一人の女性はまだ震えていたが、小さな声で

「少しで良いから一緒に居てもらう事は出来ないかな?」

 と言って来た、その会話を聞いていた男性も

「そうだな、こっちとしてもそうしてくれると助かる、怪我人もいるしその中で帰るのはちと厳しいからな、ここから少し歩いたところに俺達が拠点にしているところがあるんだ、そこまで一緒に来てもらう事は出来ないか?それに礼もさせて欲しい、どこまで出来るかは分からないが」

 嬉しそうに同意していた、今この場いるのは負傷者1名、放心状態の男子学生が1名、負傷こそしてないものの震えている女子大生が1名、武装している男が一人、そしてそんな彼らを救助した男が一人、確かに一人で戦意消失している状態の3人を抱えながら拠点に戻るのはかなりの危険を伴う、最悪の場合は死ぬこともあるだろう、そんな状態の彼らを見てから少し考える素振りを見せた後に男は

「はぁ…分かった、丁度、弾薬や食料が底を付きそうだったしな、弾は無理でも、刃物をいくつか貰えれば何とかなるし」

 そう言い、男は仕方なく彼らと共に行くことにした。


 しばらく歩いていると男性が口を開いた

「しかし、さっきは本当に助かった、ありがとな、俺は源哉げんやっつうんだ、よろしくな」

「私は、しおりって言います。」

 男性が自分の名前を言った後に怪我した女性に肩を貸している女性も自分の名前を言うと、担がれている方も

佳織かおりって言います。さっきは助けていただきありがとうございます、その上治療まで」

 彼女がそう言った後に男は一度男子学生の方を見た後に

黒白こはくだ……なぁあいつはどうしたんだ?さっきからなんか思いつめた様子だが、まさかと思うが今更、奴らを倒すのに後悔でもしているのか?それとも…」

 不思議そうに問いかけると、源哉は唾を呑み込み

「俺やあんたは見慣れているかもしれんが、さっきの建物であいつの友達がヤツらに噛まれちまってな……」

「なるほどな……まぁそう言う事なら仕方ないとも言えるか……こいつは聞き流してくれても構わないが、死者に囚われるな、せめて過去の思い出の中で眠らせてやれ、そしてそいつの分まで生き続けろ……少なくとも俺はそうしている、とらわれ続ければ次に命を落とすのは自分自身だ」

  そう言った後に彼は続けて

「そして、もし出来るのであれば、次にその友達とやらに会った時、真っ先に止めを刺してやれ……そうすりゃ、これ以上そいつもそいつの親や友達も苦しませることを少しでも減らしてやることも出来る、まぁ欲を言えばそいつの遺体だけでも埋葬してやる事も出来るかもだしな」

 それを聞いていた彼らは少し思い詰めた様子だった、それはそうだろう自分たちと対して変わらない黒白がそんな事を言っているのだ、ただ彼を除いて

「そうだな、せめてそうしてやった方が少しでも苦しめなくて済むかもな、こう言っちゃなんだがお前さん、達観してるなぁ……まったく幾つだよ」

  彼もまた今の拠点で生活をするようになるまで、苦しい思いをしてきた、それは今の時代を生きている者は皆同じだが、それでもそれなりの違いがある

幾ついくつって二十だよ」

「答えんのかよ、まぁ良いが、ちなみに俺は二十六だ」

 教えてくれると思っていなかったのだろう、源哉は驚いていたが、それでもどこか嬉しそうだった、それにいつの間にか自身らの年齢を言わなければならないに空気になっていたようで、彼女たちも自分の年齢を言っていた栞は二十、香織は十九、そして

祐樹ゆうき、十八」

 男子学生はそう告げて来た、そしてそんな会話をしていると周辺を掘りと幾つもの丸太で囲まれた建造物が見えて来た

「おーい開けてくれ、俺だ源哉だ」

 彼が上の方にそう言うと、静かに鉄で出来た、扉が開いた、そこにはナイフや猟銃を等で武装している大人たちが多く見られた、源哉たちと共に来たのは、黒白、彼自身も源哉に連れて来られた身とは言え、源哉の事も信じ切ること出来ずにいた、黒白もそうだが、世界中に、生きるしかばね、リビングデッド、ゾンビと言った存在は昔、テレビやゲームの中でしか存在しなかったはずだった、しかし、2年前のあの日、やつらは突如として現れ、平和だった世界を壊し、世界を恐怖におとしいれた、そこから全てが変わっていった、人々は生きるために、時には他者を殺し、自分の精神を壊し、他者を騙し、蹴落とし、そしてヤツらを倒す、自分や家族、友を護るために、かつての世界は変わってしまったのだ、時には誇りや尊厳そんげんを守るために人を殺さなくてはいけない、殺さなくては自身たちが殺される、そんな世界だ

 黒白は少し2年前の事を、思い出しながら警戒する人達の中を歩いて行き、ようやく開けた場所に出たかと思うと、どこか見覚えのある二人の女性が正面に居た

「あんた、もしかして黒白?」

「そうだけど、あんた等 誰だ?なんとなく見覚えはあるが」

「えっと、もしかして覚えてない感じ?」

「ここ2年あった奴らとは出会ったとしても、すぐに分かれるし、学生の時に会った連中なんて生きてるかどうかすら、分からないしな」

 黒白がそう言うと、二人も少し表情が曇っていた、黒白たちが軽く話していると、源哉が話しかけて来た

「すまない、待たせた、あいつらにお前の事を話してたら、物資を分けるついでに、数日なら居ても良いってさ……んっ?おまえら知り合いか?」

「らしいな、ただ申し訳ないが、俺は二人の事をよく覚えていなくてな……学生の頃の記憶なんざ、良いモノなんてまったくと言って良いほど無いからな」

 過去の事を思い返しながら告げるのだった、源哉もそうだが彼女達も何処か気まずそうにしていたが、黒白はそれを気にせずに

「それで、今日、明日に物資を分けてくれるのであれば、すぐにここから出て行くから安心しろ…ここに長居する理由もないからさ」

 割り切った様子でそう言うと、一瞬、源哉の顔が曇ったような気がしたが、それも気にせずにしていた、すると源哉が

「とりあえず、お前さんが今日泊る場所に案内するよ」

 黒白は返事をした後に彼の後を着いて行くと、一つの一軒屋に到着した

「ここは?」

 黒白はそう聞くと、源哉はだいぶ前に人が住んでいたが、この拠点から出て行った為、それ以降は使っていないとの事らしく、今日はここで休んで行って欲しいとの事だった、黒白はそう言われ了承し、源哉と別れた後に、その家の中に入ってすぐ、状態を確認してそれ以外にも以上が無いか確認して行った、確認が終わった後に次はこの家にある物資を使い、武器になりそうな物や、それ以外の用途にも使えそうな物を作って行き、万が一ここの拠点の人達が襲ってきた場合に備えて、いくつか罠を仕掛けた後に、一つの衣装ケースを見つけ、そこの中に入っていた物を全て出した、そしてそこの扉を開けた状態で軽く目を閉じた、短時間だけ眠るつもりでいたが、ちゃんと休めるのが久しぶりだった事もあってか、思っている以上に深い眠りに就いていた、そして黒白は本当に久しぶりに夢を見ていたのだった、二年前のあの日、世界が崩壊したあの日々の長い夢を見ていたのだった……











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