Day1-3 Side尾根 龍弥

地下へと続く階段を降りるにつれて、冷たい空気の中に混じる、生臭い鉄の匂いが強くなってきた。

階段をすべて降り、懐中電灯を向けると、そこには映画や本で見たような、悪夢のような光景が広がっていた。

広大な地下室には、壁一面に無数の拷問器具が並んでいる。

鋭い棘が内側に並んだ鉄の棺桶【アイアン・メイデン】

血の付いた鎖が垂れ下がる【引き裂き台】

そして錆びついた手枷や足枷が無造作に転がっていた。

床には乾いた血痕がこびりつき、部屋全体が深い闇と恐怖に満ちている。

大のホラー嫌いである尾根は、全身の毛が逆立つ感覚を覚えた。

おいね「……最悪だ」

思わず声が漏れる。

このゲームの残酷さは、想像をはるかに超えていた。

吐き気を催しそうになりながらも、ここから引き返すという選択肢はない。

このまま外に出ても、凍死するだけだ。

震える足を引きずりながら、血の匂いが充満する地下室の奥へと進んでいく。


​奥に進むほど、拷問器具の数が増え、不気味な雰囲気が強くなる。

一歩進むたびに床板が軋み、その音がやけに大きく響く。

​懐中電灯の光を向けると、部屋の突き当たりに厳重に閉ざされた鉄の扉が見えた。

扉には小さな覗き窓があり、音を立てないようにゆっくりと近づき、その窓から中を覗き込む。

​薄暗い部屋の真ん中に、一人の女が座っていた。厚手のコートを着て、長い髪が顔を隠している。両手と体は頑丈な器具で椅子に縛りつけられ、力なく項垂れている。その姿を見た瞬間、安堵と、このゲームの仕掛け人への怒りが同時に込み上げてきた。


おいね​「……っ」

しかし、その感情は、次の瞬間、恐怖へと変わる。

漏らしたわずかな声に反応した女が、ゆっくりと顔を上げたのだ。

​その顔は、女の姿をしていたが、その下には廃材を無理やり繋ぎ合わせた、異様な人型のAIが見え隠れしていた。

顔の正面には、蜘蛛のように6つの赤いランプの目が、不気味に光を放っている。

そして、椅子の下からは、まるで巨大な蜘蛛の足のように、6本の鉄骨が地面に突き刺さっていた。

​思わず後ずさり、その姿から目を逸らしたくなった。

このまま引き返すか?そう考えたが、すぐに頭を振ってその考えを打ち消す。

もはや、後ろへ戻る道はない。

​意を決して、扉のドアノブに手をかける。

しかし、扉は固くロックされており、全く動かない。

よく見ると、ドアノブの横に小さなパネルがあり、4桁のパスワードが必要だと表示されていた。

​再び部屋の中を注意深く見回す。

すると、部屋の隅にある拷問器具の中に、何か数字らしきものが刻まれていることに気がついた。

部屋の隅、薄暗がりに鎮座する【アイアン・メイデン】の冷たい鉄扉には、不気味に歪んだ数字が彫り込まれていた。

【……2】

鋭利な刃物で深くえぐられたようなその痕跡は、まるで悲鳴をあげているかのようだった。

視線を動かすと、血の付いた鎖が絡みつく【引き裂き台】に、古びた木片が巻き付いている。

鎖の錆と血痕にまみれた木片に目を凝らすと、かすかに【……5】の数字が読み取れた。

それは、この場所の恐ろしい歴史を物語っているかのようだった。

壁に吊るされた【拷問椅子】の座面には、新しい傷跡が刻まれていた。

鋭い刃物で何度も引っ掻かれたようなその傷は、乾いた血の色で染まっており、ぞっとするような【2】の数字を形作っていた。

最後に、錆びついた手枷の裏側を覗き込むと、時間と共に薄れたインクで書かれたような【5】の文字が、かすかに浮かび上がっていた。

それは、まるで誰かの最後のメッセージのように、静かに存在を主張していた。

尾根は顔をしかめながら、四つの数字をなんとか探し出した。

数字が揃った時、その組み合わせに言葉を失う。

【2525】

おいね「……ニコニコ……か」

その皮肉な組み合わせに、胸に言いようのない怒りがこみ上げてきた。

この悪意に満ちたゲームを仕掛けたマエストロに、そしてこの憎悪を具現化したかのようなAIに、このやり場のない怒りを叩き込んでやる。

パスワードをパネルに入力すると、電子的な音が鳴り響き、扉のロックが解除された。

そして同時に、蜘蛛女を拘束していた器具も、音を立てて解き放たれたのだった。

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