第22話

一人、また一人と、それぞれの心に渦巻く葛藤と決意を胸に、彼らはテーブルの前に進み出た。

真虎は怒りを抑えきれないまま、若月は真相を突き止めるため、雨宮はゲームの真の目的を暴くため、そして他の者たちも、それぞれの想いを抱えて、黒い封筒に手を伸ばした。

マエストロ「素晴らしい、皆様のご参加、誠にありがとうございます」

ピエロの甲高い声が響くと同時に、明るかった会議室の照明が消え、室内に深い闇が降りた。

一瞬の静寂の後、通気口から白い霧のようなものが噴き出す。

ゼノ「な、なにが起こってるの?」


​混乱する中、霧はみるみるうちに部屋を満たしていく。


​おいね「くっ、みんな、吸い込むな!」


​尾根がとっさに注意を促すが、その声は霧に吸い込まれるようにかき消されていく。


​マエストロ「ご安心ください、毒などではございませんので」


​マエストロの言葉が聞こえたかと思うと、音羽が顔を覆い、苦しそうに叫んだ。


​メロディー「なんなんよ!これ!」

その叫びを最後に、彼女の身体は糸が切れた人形のように、床に倒れこんだ。

浜崎と是津が慌てて駆け寄るが、二人の足もとがふらつき、メロディーに重なるように倒れてしまう。

​白い霧は笑気ガスで、あっという間に室内を完全に覆い尽くした。

次々に意識を失っていく仲間たちを見て、若月はこれが始まりなのだと直感する。

真虎は怒りに震えながらも、重くなる瞼に抗うことができない。

夜久は最後まで警戒を緩めず、雨宮は冷静な表情を保とうとしながらも、その思考は途絶えていく。

そして、最後に残された吉良は、これで全てから解放されるのだと安堵し、静かに目を閉じた。

​全員が深い眠りについたのを確認すると、マエストロの声が再び響いた。


​マエストロ「あまり長くは効きません。さあ、大切なゲストです、傷つけぬよう迅速かつ丁寧に始めてください」


​その言葉とともに、会議室の扉が静かに開き、防護マスクをつけ、完全武装した集団が現れた。

彼らは救助用担架に一人ずつ乗せ、まるで精巧な荷物を運ぶかのように、丁寧に、そして素早く、どこかへと運び出していく。

数分後、誰もいなくなった会議室は元の静寂に包まれ、古びた蛍光灯だけが虚しく瞬いていた。


数時間後…

​ワカ「…潮の匂いがしますね」


​まだ覚醒しきれていない朦朧とした意識の中で、若月の鼻腔は、確かに今いる場所が海であるのを感じ取っていた。

身体は浮遊しているようで、上下左右の感覚が定まらない。

微かに聞こえる波の音が、それが夢ではないことを教えていた。

​若月はゆっくりと瞼を開けようとするが、その重さに抗えない。

しかし、意識だけは徐々に覚醒していく。

遠くから誰かの話し声が聞こえる。

「こっちの準備はできた」

​「よし、コードブルーだ」

​「マスクを装着、意識が戻る前に、急げ」

はっきりと聞き取ることはできなかったが、まるで何かの作戦が進行しているかのような言葉が聞こえてくる。

その声と同時に、顔に冷たいものが押し当てられ、若月の意識は再び深い闇の中へと落ちていった。

真虎の意識が戻ると、彼は自分がどこかのカプセルの中にいることに気づいた。

身体には何本ものチューブが繋がれ、目の前にはガラス越しの自分の姿が映っている。


マコ​「なんだ、これは……」


​雨宮は、自分が拘束されていることに気づく。

全身が特殊なスーツで覆われ、手足が動かない。しかし、彼の思考はすでにフル回転していた。


​パト「これは、一種のシミュレーションか?いや、それにしては…」


​尾根は、全身を縛り付けられている状況に、恐怖と怒りが同時にこみ上げてくる。

彼は必死に抵抗を試みるが、拘束具はびくともしなかった。

おいね「くそっ!一体、何なんだ!」

それぞれが目覚めた場所は異なっていた。

古びたホテルの一室、森の奥深く、雪に覆われた山の麓、そして廃墟と化した研究施設。

このゲームは、彼らが想像していたものとは全く違う、常軌を逸したスケールで始まろうとしていた。

​マエストロの声が、カプセルの中に設置されたスピーカーから響く。


​マエストロ「ようこそ、選ばれし皆様。これより、皆様方の人生を賭けた、最高のゲームが始まります。これからこのゲームのルールを説明致します。説明が終わりますと拘束は解除されますのでご安心下さい。それでは……」

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