第二十八話 合宿中日 ― 限界を越える挑戦
朝のグラウンド
二日目の朝。まだ陽が昇り切らない時間から、グラウンドには白い息が漂っていた。
「昨日より動け。今日が勝負だ!」
監督の声に、全員が気合を入れ直す。
俺はキャッチボールの最初から違和感を覚えていた。
(下半身から力を伝える……頭ではわかってるのに、体がついてこない)
投げるたびにバランスを崩し、ボールは上下左右に散った。
山根が受けながら眉をひそめる。
「隼人、リリースがバラバラだ」
「……くそっ、なんでだよ!」
フォーム崩壊
投げ込みに入るとさらにひどかった。
直球は抜け、スライダーは曲がりすぎる。
俺はグラブで顔を覆い、悔しさに唇を噛んだ。
(フォームを直そうとしてるのに、全部壊れていく……!)
藤堂監督は黙って見ていたが、高城がベンチから歩み寄ってきた。
「焦ってるな。如月」
「……どうすればいいんだ」
「お前は“速く投げたい”気持ちが先走ってる。大事なのは、体を使う順番だ」
高城は足を広げて構え、見本を見せる。
「踏み出して、腰を回して、それから腕だ。腕を先に振ろうとするな」
その言葉を胸に刻み、再び投げた。
——まだバラバラだった。
(……一日じゃ変われないのか)
小坂の壁
その頃、小坂も苦しんでいた。
バント練習でマシンの球をことごとくファウルにしてしまう。
「昨日はできたのに……!」
焦る声に篠原が寄る。
「小坂、足ばかり意識してるだろ。まずは確実に殺すことを考えろ」
小坂は黙って頷き、再び構え直した。だが結果は変わらなかった。
(みんな壁にぶつかってるんだ……俺だけじゃない)
佐伯の焦燥
佐伯も逆方向への打撃を試みていたが、当たりは弱いゴロばかり。
「力を抜け」と言われれば言われるほど、空回りしていた。
「俺は……四番なのに……」
悔しさでバットを握る手に力が入りすぎていた。
山根の試み
山根はリード練習で大胆な配球を試していた。
「ここでスライダーじゃなく、あえて真ん中直球」
如月が投げ込む。バッター役の佐伯が驚いて空振りした。
「やっぱり効く!」
だが一方で、甘く入って痛打される場面も多く、顔をしかめる。
「リスクを取れば失点もする。……でも、これが必要なんだ」
夜の反省会
夕食後の反省会。篠原がホワイトボードに「壁」と書いた。
「今日は全員、壁にぶつかったな」
小坂はうなだれ、佐伯は歯を食いしばり、俺は拳を握ったまま黙っていた。
高城が口を開く。
「壁は悪いことじゃない。そこを越えたときに力になる」
監督も頷く。
「明日が合宿最終日だ。今日の苦しみを、明日の紅白戦でぶつけろ」
寮の夜
布団の中で、俺は眠れずにいた。
(速い球が欲しい。けど、崩れてばかりだ。……俺にできるのか?)
その時、山根が声をかけてきた。
「隼人、さっきの直球、悪くなかったぞ」
「……崩れてただろ」
「確かにバラけてた。でも、一球だけ、“おっ”てなる球があった。あれを続ければいい」
胸の奥で、小さな火が灯った気がした。
(まだできる。まだ、諦めるわけにはいかない)
現在の能力表(如月 隼人)
球速:137km/h(球速アップ練習中・安定せず)
コントロール:B+ → 一時的に不安定
スタミナ:B
変化球:スライダー6/シュート3
特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/低め○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○/球持ち○
備考:フォーム改造でスランプ/山根が「光る一球」を見抜く/最終日の紅白戦で成果を試す決意
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