第九話 ライバルの挑戦
蒼志館サイド
鳳栄高校を1-0で破った翌日。
グラウンドに集まった蒼志館ナインの表情は明るかった。だが、浮かれた空気の中にわずかな緊張が混じっていた。
「昨日の如月、マジでやべぇだろ」
「一年で三者連続三振って……反則級だよな」
「でも、やっぱり蒼志館のエースは高城だろ」
あちこちで交わされる会話は、自然と「如月か高城か」へ傾いていった。
チームの士気が上がる一方で、部員たちは意識してしまう。
——どちらが真のエースなのか。
「くだらねえ」
キャプテン篠原が声を荒げる。
「二人がいるから勝てたんだ。エースがどうとか今決める必要はねぇ!」
だが、その言葉も心の奥に芽生えたざわめきを完全には消せなかった。
◆
監督・藤堂は静かに告げた。
「今日は紅白戦だ。投手は如月と高城、三イニングずつ交互に投げろ」
ベンチがざわめく。昨日の勝利を見届けた直後、再び火花が散る。
「負けねぇぞ、如月」
高城が低く言った。
「昨日のお前を見て、ますます本気出す気になった」
「俺もだ」
視線がぶつかり、互いの呼吸が熱を帯びる。
◆
紅白戦が始まる。
先攻マウンドは高城。
初球から全力のストレートを叩き込み、打者を詰まらせる。二打者連続三振。三人目はインコースのスライダーで空振り三振。
——完璧。
「やっぱ高城はエースだな……」
ベンチの誰かが呟いた。
次は俺の番。
外角直球で見せ、二球目は同じ軌道からスライダー。最後はシュートで詰まらせて三振。二人目もスライダーで仕留める。三人目はファウルで粘られたが、最後に外角低めの“キレ○”スライダーで空を切らせた。
三者三振。
「如月も……負けてねえ」
部員たちが息を呑んだ。
◆
三イニング交代で互いに無失点を続け、試合は淡々と進む。
高城のストレートはますます威力を増し、俺のスライダーも冴え渡る。
ベンチで見ていた篠原が、思わず呟いた。
「……正直、どっちがエースとか決めらんねえな」
紅白戦を終えたあと、監督・藤堂は二人に向かって言った。
「二人とも力は本物だ。ただし、エースはひとつしかない。その答えは夏までに出る」
俺と高城は互いに黙って頷いた。
心の奥で火花を散らしながらも、互いにライバルとして認め合っている。
夏までの戦いが、いま始まったのだ。
鳳栄サイド
一方その頃、鳳栄高校の部室。
重苦しい空気が漂っていた。
「信じられねぇ……蒼志館に負けるなんて」
四番の天草がバットを壁に立てかけ、悔しそうに唇を噛む。
「しかも一年の投手だぞ」
キャプテンが低く言う。
「左のサイドスロー……如月隼人、だっけな」
監督が腕を組み、静かに口を開いた。
「あの球は……まるで消えるようだったな。次の県大会、必ず当たるだろう。蒼志館を“中堅”だと思うな。奴らはもう強豪の仲間入りだ」
部室に緊張が走る。
「次は絶対打つ」
天草が小さく呟く。その声には、悔しさと闘志が混じっていた。
謎の影
練習を終えた蒼志館ナインが部室を出るころ、夕暮れのグラウンドには一つの影が残っていた。
スーツ姿の男。
フェンス越しにマウンドを見つめ、静かに腕を組んでいる。
昨日も見た。今日もいる。
如月隼人の投球を、じっと観察するその姿は、ただのOBには見えなかった。
やがて男はポケットから手帳を取り出し、何かを書き込み、帽子を深くかぶり直して立ち去った。
「……あいつは誰なんだ」
胸の奥でざわめきが広がる。
だが、まだ誰もその正体を知る者はいなかった。
現在の能力表(如月 隼人)
球速:135km/h
コントロール:B−
スタミナ:B−
変化球:スライダー5/シュート3
特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○
備考:紅白戦で高城と互角/鳳栄高校が如月を強く警戒/スーツ姿の男が観察を続けている
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