第九話 ライバルの挑戦

蒼志館サイド


 鳳栄高校を1-0で破った翌日。

 グラウンドに集まった蒼志館ナインの表情は明るかった。だが、浮かれた空気の中にわずかな緊張が混じっていた。


 「昨日の如月、マジでやべぇだろ」

 「一年で三者連続三振って……反則級だよな」

 「でも、やっぱり蒼志館のエースは高城だろ」


 あちこちで交わされる会話は、自然と「如月か高城か」へ傾いていった。

 チームの士気が上がる一方で、部員たちは意識してしまう。

 ——どちらが真のエースなのか。


 「くだらねえ」

 キャプテン篠原が声を荒げる。

 「二人がいるから勝てたんだ。エースがどうとか今決める必要はねぇ!」


 だが、その言葉も心の奥に芽生えたざわめきを完全には消せなかった。



 監督・藤堂は静かに告げた。

 「今日は紅白戦だ。投手は如月と高城、三イニングずつ交互に投げろ」


 ベンチがざわめく。昨日の勝利を見届けた直後、再び火花が散る。


 「負けねぇぞ、如月」

 高城が低く言った。

 「昨日のお前を見て、ますます本気出す気になった」

 「俺もだ」

 視線がぶつかり、互いの呼吸が熱を帯びる。



 紅白戦が始まる。

 先攻マウンドは高城。

 初球から全力のストレートを叩き込み、打者を詰まらせる。二打者連続三振。三人目はインコースのスライダーで空振り三振。

 ——完璧。


 「やっぱ高城はエースだな……」

 ベンチの誰かが呟いた。


 次は俺の番。

 外角直球で見せ、二球目は同じ軌道からスライダー。最後はシュートで詰まらせて三振。二人目もスライダーで仕留める。三人目はファウルで粘られたが、最後に外角低めの“キレ○”スライダーで空を切らせた。

 三者三振。


 「如月も……負けてねえ」

 部員たちが息を呑んだ。



 三イニング交代で互いに無失点を続け、試合は淡々と進む。

 高城のストレートはますます威力を増し、俺のスライダーも冴え渡る。

 ベンチで見ていた篠原が、思わず呟いた。

 「……正直、どっちがエースとか決めらんねえな」


 紅白戦を終えたあと、監督・藤堂は二人に向かって言った。

 「二人とも力は本物だ。ただし、エースはひとつしかない。その答えは夏までに出る」


 俺と高城は互いに黙って頷いた。

 心の奥で火花を散らしながらも、互いにライバルとして認め合っている。

 夏までの戦いが、いま始まったのだ。


鳳栄サイド


 一方その頃、鳳栄高校の部室。

 重苦しい空気が漂っていた。


 「信じられねぇ……蒼志館に負けるなんて」

 四番の天草がバットを壁に立てかけ、悔しそうに唇を噛む。


 「しかも一年の投手だぞ」

 キャプテンが低く言う。

 「左のサイドスロー……如月隼人、だっけな」


 監督が腕を組み、静かに口を開いた。

 「あの球は……まるで消えるようだったな。次の県大会、必ず当たるだろう。蒼志館を“中堅”だと思うな。奴らはもう強豪の仲間入りだ」


 部室に緊張が走る。

 「次は絶対打つ」

 天草が小さく呟く。その声には、悔しさと闘志が混じっていた。


謎の影


 練習を終えた蒼志館ナインが部室を出るころ、夕暮れのグラウンドには一つの影が残っていた。

 スーツ姿の男。

 フェンス越しにマウンドを見つめ、静かに腕を組んでいる。


 昨日も見た。今日もいる。

 如月隼人の投球を、じっと観察するその姿は、ただのOBには見えなかった。


 やがて男はポケットから手帳を取り出し、何かを書き込み、帽子を深くかぶり直して立ち去った。


 「……あいつは誰なんだ」

 胸の奥でざわめきが広がる。

 だが、まだ誰もその正体を知る者はいなかった。


現在の能力表(如月 隼人)


球速:135km/h


コントロール:B−


スタミナ:B−


変化球:スライダー5/シュート3


特殊能力:奪三振◎/対ピンチ○/キレ○/打たれ強さ○/逃げ球/クイック○


備考:紅白戦で高城と互角/鳳栄高校が如月を強く警戒/スーツ姿の男が観察を続けている

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