『魔王の息子に生まれた俺、勇者に討たれる未来しかない』
きさらぎ
第1話
俺は魔王の息子として生まれた。
魔族の血を引く者として、父の後継として、人々に恐れられる存在として。
けれど、俺は知っていた。
未来を垣間見る力を持つ俺には、ただ一つの結末が幾度となく突きつけられていたのだ。
――勇者の剣に倒れ、無惨に地に伏す自分の姿。
抗ったこともあった。
だが、運命は必ず同じ場所へと収束していく。
ならば、せめて父のために、仲間のために、この命を差し出そう。
それだけが、俺に残された誇りだった。
戦場。炎と絶叫が渦巻く中、勇者は立っていた。
白銀の鎧に輝く剣。その存在は、まるで“世界そのもの”が形を取ったかのように揺るぎなかった。
俺は黒炎をまとい、咆哮と共に突撃した。
魔力が渓谷を焼き尽くす。
だが――その一瞬で、光はすべてを貫いた。
熱と痛み。
視界が白に塗り潰され、気づけば大地に膝をついていた。
未来で何度も見た通りの光景だった。
胸を穿つ剣。流れ出る血。
何も変わらなかった。
俺は笑おうとした。だが、声にならなかった。
思っていたような安らぎも、救いもない。
ただ冷たく、虚しいだけだった。
勇者の瞳がわずかに揺れたが、その顔に慈悲はなかった。
彼もまた筋書きに従う操り人形にすぎないのだから。
暗闇が迫る。
最後に胸をよぎったのは、「結局、俺の死は何の意味も持たないのだ」という確かな実感だった。
誰かを救ったわけでもない。
未来を変えたわけでもない。
ただ筋書き通りに死んだだけの、取るに足らぬ存在。
そうして俺は、深い闇に沈んでいった。
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