第38話:カレー食べ放題
「では、僭越ながらこの私、師走川クイナが乾杯の音頭を取らせていただきまカンパーイ」
「乾杯が早い」
「喉乾いていたので。くーっ、やっぱり一杯目は生ですねー」
「オレンジジュースだろ」
「生搾りですよ。あっバイキング形式なので各々適当に取って焼いていっちゃいましょうか。ヤクさん、お肉取りに行きましょう、お肉」
置いていくのか? 総理とラスボスを置いて……! まぁいいか……話したがってるわけだしな……そう考えながら子供たちを連れて肉や野菜の置いてあるコーナーまで来る。
カチカチ。
……なんか総理がついてきてる……! 深見はついて来てないけど総理がトングをカチカチ鳴らしてる……!
クソ、他の人ならツッコミやすいのに総理はなんかツッコミにくい……!
「……俺取っておくんで、今のうちに深見と話したらどうですか?」
「もう知るべきことは知れたよ。彼は直接の指導者じゃない」
俺は肉を選びながら話半分で聞く。
「ある種のカリスマはあるのだろうし、本人の能力もあるのだろうが複雑な計画を好む人間ではない。強い思想を持ち、他者への関心が深く、演じることに戸惑いがない。分かりやすく扇動者であるのと同時に象徴的な存在。……実務は別の人間が担当しているのだろう」
「まぁそりゃそうでしょうね。けど、説得出来たらあっちの組織を深見派とそれ以外で分裂させられますよ。あっちからしても、深見が邪魔になっても暗殺は出来ない程度には強いので、万が一説得出来たら勝てます」
俺の言葉を聞いた総理はポツリとこぼす。
「……核兵器は用いられない。全世界で起きている争いだが、全世界での戦争ではなく全世界での内乱だ。ガス兵器も、生物兵器も。破壊はあって血も流れ、全てめちゃくちゃになるが……けれども」
「何か思うところがあるんですか」
「混沌の先に何があるのかと考えた。……全てをぐちゃぐちゃにかき混ぜて、最後に残ったその塊は……ある意味で調和とも言えるだろう。人種や国境がない世界の唯一の可能性ではないかと考えてしまった」
「……そりゃ、国が全部なくなったら一回は国境がなくなるでしょうし、長く続けば人種も混ざるでしょうが」
「これから数世代は苦しむことになるだろうが、けれどもある意味で本来ならば実現不可能な理想を叶えるチャンスなのではとも思ったのだ」
……真面目な顔をしているけど、小中学生と合コンしてるんだよな、この総理。何を言われてもこう……その事実のせいで説得力がない。
クイナ達は肉ばかり皿に乗せているので俺は野菜を中心に選んでいく。
「……素人考えですけど、普通に国境も人種も差別も色々、再発明されるだけですよ。この街、警察とかもういなくなってますけど店は普通に営業してますし、落書きだらけの商店街はそれでもみんなゴミは持ち帰ってますしね。あの一番小さい柳って子も、強制されてるわけでもないのに色々頑張ってますし。……人間は線を引く生き物ですよ。総理も深見も、そこんところ分かってませんね」
偉そうにそう語ってから席に戻る。
総理はカレーをよそって戻ってきた。肉を食えよ。
「ではお肉を焼きながら自己紹介をしていきましょうか。職業を言っていきましょう。合コンでは職業が大切と聞きました。私は中学生です」
「中学生だよ」
「ご、五天一刃です」
女性陣の自己紹介が終わって、総理に目を向ける。
「総理大臣です」
「革命家をやっている」
「……無職」
俺の自己紹介を聞いたクイナはぷーくすくすと笑う。
「無職……ふふふ」
「こ、こいつ……今日も俺に払ってもらってるのに笑いやがった……!」
「落ち着くんだ厄神くん」
「そ、総理、でもこいつ……」
「気持ちは分かるよ。議員なんて落選したら無職だからね。でも、今はみんなで楽しむ場だから……」
「くっ、総理大臣に止められたら止まらざるを得ない」
「あ、ヤクさん、ソフトクリーム焼いていいですか?」
「絶対にやめろ。まずいから」
「不味かったらヤクさんにあげますね。手作り料理ですよー」
「こ、こいつ……!」
「落ち着くんだ、厄神くん」
「くっ、総理大臣に止められたら止まらざるを得ない」
クイナは焦げた肉を俺の皿に盛っていく。
クイナめ、帰ったら虐めてやろうか……。いやでもクイナのイタズラっぽい表情を見る限り、それを狙っている感じがするな。
「あ、ヘドロ、ちょっとドリンクバーでコーラ入れてきて」
「あっ、私もオレンジジュースを」
「こ、このガキ共……!」
「落ち着くんだ、厄神くん。私も一緒にいくから」
「あっ、お肉の追加もお願いします。野菜はいらないですからね」
「こいつ……。後で覚えてろよ……。というか手も足りないから深見も来い。さっきからずっと座りっぱなしだろ、お前」
「……俺ばかりが女の子と話してるから……嫉妬か?」
俺は深見を殴った。
三人でドリンクバーと肉があるところにきて、深見が俺達を見て立ち止まり、それから軽い調子で尋ねる。
「で、結局何の用だ? まさか、女の子との出会いを求めていたわけではないだろう。……いや、それもゼロではないか」
「ゼロだろ」
「……可愛いぞ?」
「それはそうだけども……」
俺が総理に目を向けると彼はゆっくりと息を吐く。
「……この場で話したら何でもギャグみたいにならないか?」
「それはなるけど話が進まないから」
「だが私はカレーの二杯目を持っているぞ?」
「それは総理の匙加減だろ……。いいから進めろ」
「あ、俺もカレー食べたい」
「やめろ。カレーを持ったおっさんが向かい合ったらそれはもうギャグにしかならないだろ。カレーをよそうな」
「あ、女の子達もカレー食べたいかな。持っていってやろう」
「おっさんのそういう気遣いはいらないんだよ。食いたかったら自分達でよそうんだよ」
「いや、でも、女の子にカレーをよそわせたら炎上しそうだし」
「テロリストと一緒にロリ合コンを楽しんでいる総理大臣よりも炎上する存在はこの世にないよ。ガソリンのプールよりも可燃性が高いからな」
「ロリ合コンの黒幕が言うなよ……!」
総理大臣と深見は両手にカレーを持ちながら向かい合う。
「深見くん。君のことが知りたかった。何を思い、何を願うのか。……この世界は、力を持つ者にとって居心地が良かったはずだ。瓦礫の山の上に踏ん反り返るよりも、力を使って金を集めた方がよほど心地よく生きられただろう」
「案外俗なことを言うんだな」
「一般論だろう。世界を動かす力がある者が幸福に生きれているから安定している。……そして深見くんはその筆頭だろう。革命なんて苦しいばかりだろうに」
カレーを両手に持った総理は深見に言った。
カレーを両手に持った深見は総理の言葉に返す。
「……ロクな護衛もつけずに俺と直接会って、殺されないと思っていたのか? そこのヘドロを当てにしているのかもしれないが、お前の命なんて大して気にしてもいないさ。俺からすれば、軽く手を捻れば目的に近づく」
「……」
「覚悟の上……か。そうだな。その勇気に免じて答えるとするか。……味方がいない人間は多いだろ。いい奴とか賢い奴ら強い奴や美しい奴や可愛い奴。そんな奴らに味方はたくさんいて……そうじゃない奴は味方がいない。性格悪い馬鹿でブスなんてな。だから、俺がその味方をしてやる。……混沌だ。誰にでも可能性があり、味方がいて敵がいる」
カレーを持った男達は睨み合う。
「……やり方があるだろうに」
「ないさ。あるはずがない。……だって、選挙で「犯罪者の味方です」なんて言えないだろ。お前も」
一瞬の沈黙。
深見は総理に目を向けて、ため息を吐く。
「テレビニュース、最近は結構面白く見てるよ。フィクションは好きなんだ。……よくやるよ、尊敬する」
深見はそう言って背を向ける。
「いや、カレー持ちながら言ってもカッコはつかないだろ」
カレーは女の子がいらないと言ったので二皿俺が食べることになった。
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