9月4日、木曜日

 昼休み、トイレから出たところで一ノ瀬に捕まった。


「そんな嫌そうな顔しなくても」


「しつこいんだもん」


「あと96日は声かけ続けるよ」


 ウザ……。

 友達いっぱいいるんだから、私に構う必要ないじゃん。

 サッカー部のマネージャーだっているし……。

 あれ?


「マネのメイサちゃんと付き合ってるんじゃなかったっけ?」


「柊に告るっつってんのに、それはねえよ。付き合ってない。それに……」


 一ノ瀬が屈んで耳元に口を寄せた。息がかかってゾワッとした。


「それ、メイサに言わないでね、地雷だから」


「は?」


 意味わかんない。

 顔を上げたら、思ったより一ノ瀬の顔が近くて、全力で後ずさった。


「あいつね、サッカー部の合宿で、三年の西先輩に『一ノ瀬と付き合ってんだろ?』って言われて振られてさ。めっちゃ荒れてたんだよ」


「あらー……」


「そもそも西先輩、彼女いるしね。……俺の姉貴なんだけど」


「う、うわ……」


 なにそのドロドロ人間関係。

 陽キャ怖い。マジで近づかないでほしい。


「ま、そういうわけで、俺とメイサは付き合ってない。あ、妬いてくれた?」


「ううん。鬱陶しいなって思った」


「柊って辛辣だなー。でもそれもかわいい」


「ウザ……」


 一ノ瀬は笑って、先に教室に戻って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る