青春のために陰キャを脱した私、それを証明するべくナンパ待ちをします!〜駅前にある噴水のそばのベンチに座っていたら、ダウナー系金髪ギャルにナンパされました。あと、彼女と付き合うことになりました〜
しゃけ_サン
前編
『陰キャ女子ってどんな人?』
そう尋ねられたとき、あなたは何を想像するだろうか。
まず初めに思いつくのは、目元まで隠れた前髪や野暮ったいメガネとかだろう。
それから、膝下スカートに無駄に伸び切った髪、あとは『医療関係者?』って聞きたくなるくらいずっと身につけている白マスク。
性格の面で言えば、気味の悪い笑い方やまともに動かさない口。
他にも小さすぎる声に、急に早口になったりすること……
外見はともかく、性格の方、お喋りに関することが多くない?
ひとまず、陰キャと呼ばれる人たちは、こういった人たちである。
そして、少し前までの私は、陰キャと呼ばれる女子だった。
そう、過去形である。
「これなら、陰キャには見えない!」
私は目の前に置いてある鏡を見ながら、そう言い放った。
今、鏡に写っているのは、どこからどう見ても美少女である。
もっと正確に言えば、街中を歩いていて10人とすれ違ったとき、6、7人くらいは振り返るほどの美少女だ。
肩の上らへんでカットされた黒髪には、光沢というか、艶がちゃんとある。
美容師さんが教えてくれたが、ボブカットってやつだそうだ。
そして、お肌にはニキビもそばかすも一切なく、ぷるぷるのツルツルである。
今までは意識すら行ってなかった指先も、キチンと整えられた爪がピカッと輝いている。
しかし、どう頑張ってもメイクの細かいところまでは覚えられなかった。
だから私は、ネットで『メイク 初心者 簡単』で調べて出てきたナチュラルメイクっていうのをしている。
ナチュラルメイクをするためのセットが予想以上に高く、買った瞬間小遣いが吹き飛んでしまうほどの額だったが、『これも脱陰キャのため!』と血涙を流しながら買った。
そのおかげで、普段であれば白すぎるあまり顔色悪く見えてしまうお肌も、健康そうなお肌に生まれ変わっている。
え? どうして私がここまで頑張ってるのかって?
そんなの簡単、『青春』のためだ。
あまり男子に興味の無かった私は、小学校を卒業した途端に色めき出したクラスメイトたちを、
『はっ、男どものために金を使うなんて、バカバカしい』
と、鼻で笑いながら中学生になった。
そして半年もの間、学校生活を続けてわかったことがある。
『全然、話についていけない……』
もちろんクラスには、一切メイクをしないような、いわゆるオタクと呼ばれるような女子もいた。
しかしながら、私は別にオタクなわけでは無かったので、そっちの話にも入ることが出来なかった。
『あ、これ……お友達作るの無理だぁ』
こうして私は3年間、孤独でボッチな、悲劇とも呼べる中学校生活を送ることとなった。
「もう、あんなボッチには成りたくない!」
過去の
この春休みの間、私はこの気持ちを胸に全力で取り組んできた。
完璧に陰キャを脱した自分の姿を見た私は、
『これ、高校生活勝ったわ。青春ってやつを楽しめますわ』
と、まるで逆行転生してきた中年おじさんのような考えを抱いていた。
しかし、聡明な私はここで気が付いた。
私が陰キャを脱した、という事実は、私の主観であって世間一般の意見ではないと。
ならば、どうすれば『私は陰キャを脱した』という事実を確認出来るのかと、私はこの3日間模索していた。
そしてついに今日、私は閃いた……
『ナンパ待ちすればいいんだ!!!』
というわけで今日は、ナンパ師が
私は鏡の前に立って、家を出る前にもう1度服装を確認する。
今日の私の服装は、チャラい男たちが好きそうな、ふんわり清楚コーデだ。
上半身は、首元のあいたオフホワイトのニットに、
そしてボトムスには、ライトグレーのフレアスカートを選んだ。
白とピンクの可愛らしいショルダーバッグには、容量が小さいためスマホと財布、ハンカチなどしか入っていない。
「よしっ、パーフェクトだ私!」
鏡に写る自分を見ながら、私はそう声を上げる。
ま、私は色々と教えてくれた、美容師さんや店員さんたちに感謝する側なんだけどね。
それじゃあ準備も出来たことだし、行ってみよー!
私は白のスニーカーを履くと、そのまま玄関から飛び出した。
「………………太陽が憎い」
どこか陰キャ精神が抜け切らない私は、ぼそっと呟いてから陽の下を歩き出した。
「ここが、
ナンパ師が多いと噂の駅に辿り着いた私は、さっそく目的の噴水を探し出す。
なんでも、けっこうな大きさの噴水らしくて、ちょっとした観光スポットにもなっているらしい。
それにしても今日は、ポカポカしてて凄くいいお天気。
せっかくだし、帰りにアイスでも買って帰ろうかな。
「うーん、なかなか見つからないなぁ……」
「お姉さん、もしかしてお困りっすか?」
私が噴水を探してうろちょろしていると、突然後ろから声をかけられる。
振り向いた先にいたのは、指輪とかネックレスとかピアスとかを豪快につけた、金髪の陽キャイケメンだった。
(こ、これは……ナンパなのでは!?)
「えと、その……ふ、噴水を探してるんだけど。み、見当たらなくて」
私は内心バクバクしながら、冷静に返事をしようとする。
「あー、噴水っすね。それなら、こっちじゃなくて反対なんすよ」
「へっ、反対!?」
こっちに噴水は無かったの!?
じゃあ私の10分くらいの頑張りは無駄に……
「お、教えてくださり、ありがとうございます!」
「いやー、全然だいじょぶっすよ。じゃ、それでは〜」
彼はそう言うと、手を振りながら街の方へと歩いていった。
それにしても、教えてもらえてよかったぁ。
このままだったら、一生噴水に辿り着けないことにーー
あれ、ナンパは?
「あったー! これが噴水かぁ、確かにおっきい」
名乗らずに立ち去った彼の説明通りに、私は駅の中を抜けて反対側にやってきた。
その瞬間視界に入ったのは、圧倒的存在感を放つ巨大噴水。
大量の水が芸術作品のように流れを生んでおり、とってもおしゃれである。
「そしたら、噴水のすぐそばのベンチに座って、適当にナンパ待ちしよっか……とりあえず写真撮ろっと」
私はバッグからスマホを取り出すと、噴水の全体が映るように引いてから『パシャッ!』と写真を撮る。
その写真を確認し終えると、私は近くにあったベンチを見つけて、そこに座り込んだ。
「えーと、今の時間が……2時48分かー。うーん、それじゃあ、5時くらいまでは待ってようかなー」
それと待ってる間は暇だし、最近ハマってるソシャゲのストーリー進めよっと。
うーん、欲しい武器が全然出ない……
課金はしたくないから、この30回で出て欲しいなぁ。
あー、また外れた。
ここのボス、久しぶりに戦おっかな。
せっかくだし防具なしで縛りプレイしよー。
やっぱり、このハラハラ感が最高だよね、ボス戦って。
あ、このキャラまだレベルマックスじゃないんだ。
それじゃあ素材集めるから周回しないと……
うわっ、このボス硬いからめっちゃダルい……
よーし、レベル上げ終わったー!
キリがいいところでゲームを辞めると、私はゆっくりと背中を伸ばす。
私がスマホで時間を確認すると、いつのまにか3時半を回っていた。
(けっきょくナンパされないなー。これじゃ来た意味ないじゃん)
私はそんなことを思いながら、ふと辺りを見渡してみる。
すると、なぜか周囲の人々の視線を集めていることに私は気が付いた。
(え、なんで私こんな視線集めてるの?)
もし私が、学校の男子全員を惚れさせるような美少女ヒロインなら、この視線の理由もわかる。
だが残念なことに、私の美少女パワーは中の上、よくて上の下である。
そう、私は街中を歩いていて10人とすれ違ったとき、6、7人くらいは振り返るほどの美少女だ。
そんなことを考えていた次の瞬間、隣から『パシャッ!』と音が聞こえてきた。
シャッター音に釣られて左を向いた瞬間、私は目を灼れたかのような衝撃を受ける。
そこにいたのは、ダウナー系金髪ギャルだった。
もう1度言おう。
そこにいたのは、ダウナー系金髪ギャルだった。
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