第5話 購買
委員会を手伝った次の日の昼休み。
俺は長い購買の列に並んでいた。
昼休みの購買は混むから普段は使わないようにしているのだが、今日の朝、朱里が突然12:××に購買で並び順が来たら人気の"幻のカレーパン"が買えると言ってきたので並んでみることにしたのだ。
幻のカレーパンはその名の通り購買に並んだ側から売り切れていくという超人気メニューで、授業が終わってすぐ飛び出しても売り切れ、ということもしばしばだ。
なんで朱里がパンの入荷時間まで分かるのかという疑問はあるが、あいつの言ったことは大体正しいから、一か八かで並んでみることにした。
とはいえ言われた時間ぐらいに自分の番が来ないといけないから、そこそこの賭けではある。
だから、幻のカレーパンも欲しいが、それ以外にも朱里の情報がどこまで正確なのかを確かめてみたいという思いもあった。
―――
12:××の5分前―
「焼きそばパンの補充入りまーす」
購買のおばちゃんの声と共に売り切れていた幻のカレーパンが一気に補充された。
周りの並んでいた人が歓声をあげる中、俺は一人呆然としていた。
(当たった⋯)
朱里が言っていた時間からわずか5分の誤差。
「はい、カレーパン。300円ね〜」
購買のおばちゃんから幻のカレーパンを受け取りながらもなお、俺は朱里の情報の精度に驚いていた。
人間関係だけでなく、購買の入荷情報まで⋯
朱里の情報の限界はどこにあるのだろうか。
―――
「ね、買えたでしょ。"幻のカレーパン"」
教室に戻ると朱里が自分の席で笑いながら声をかけてきた。
「あぁ、買えたよ」
「どう?私の情報、役立つでしょ?」
「まぁ、確かに⋯」
「だからさ⋯」
朱里は満面の笑みでこう言った
「これからも、私の情報聞いてね!」
「押し売りはいらねーよ!」
そんなこんなでこの日の昼休みは終わっていった。
―――
その日の放課後、今日は悠真が部活だから、朱里と二人で帰ることになった。
「しかし凄いな、購買の入荷時間まで調べるなんて、どうやってわかったんだ?」
「それはー、企業秘密だよ」
「んー、そっか。情報屋も大変なんだな」
「まあ、そうだよ、でも今のを教えないって言うのは冗談。勝手に情報渡したんだし、たまにはサービスしてあげないとね」
「今まで情報を無料で渡してくれてたのはサービスじゃないのか?」
「まぁ⋯、そう、それで、今日の入荷情報については簡単。私、購買のおばちゃんと仲良いからね、特別に教えて貰ったんだ」
「なんだよそれ、反則かよ」
ツッコミを入れてみたが、朱里は案外真面目な顔で、
「でもね、情報屋やってくにはコネも大切なんだよ」
と、俺の顔を真っ直ぐに言ってきた。
俺が直ぐに返事を返せないでいると、
「あ、もう家だ、また明日ね!」
「あ、ああ、じゃあな」
朱里の家の前まで着いてしまい、結局話は尻切れ蜻蛉になってしまった。
―――
一人になってから、俺は改めて今日の出来事を振り返っていた。
いつも通りの情報の垂れ流し、正確な購買の情報、そして別れ際の真剣な表情。
いつもは振り回されてばっかりだが、真剣な朱里の顔を見て、俺は素直に感心せざるを得なかった。
(朱里は生半可に情報屋をしている訳じゃないんだ)
そう感心している一方で、やはり俺の心には疑問が残っていた。
(じゃあどうして朱里は情報屋なんてやっているんだろう)
朱里とは幼馴染として長く付き合っているが、まだまだ俺の知らないことばかりだ。
いつか聞いてみようと思いながら俺は家へと帰っていった。
---
あと3,4話ほどはほのぼのとした話(そこそこ)がつづきます。
もっと多くの人に読んでもらうためにも☆を頂けると嬉しいです!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます