第29話: 飲み込まれた!

「ああ、お金は全部ここにあるみたいだ。これで次の国に着くまで持つだろう...ここで水晶を見つけたらね」。


そろそろ、次の水晶がどこにあるのか見当がついているはずだった。リリーを通して女神からもたらされた情報なのか、女神の使徒と呼ばれる人からの情報なのか。


リリーが寝ているベッドの脇のドレッサーを見る。エメラルドグリーンの水晶のオーブが置かれている。リリーはそれをとても近くに置いているので、分析する機会がなかった。子供なら当然だろう。僕も彼女くらいのときはそうだった。リリーが眠っている間に、この機会に手に入れておこう。


水晶を手に取り、少しいじってみる。質感も重さも、特に変わったところはない。窓から月が輝いている...。



「もしかしたら、どうなるんだろう...」


ベッドの反対側、大きなガラス窓のある方へ歩いていく。ここからの眺めがいいのは認めざるを得ない。今まで行ったどこよりも、ここには見るべきものがたくさんある。


とにかく、始めよう...


月明かりに照らされた水晶を手にする。月光は緑色に変わり、部屋を...いや、せいぜい部屋の半分を照らした。


「よし、特に変わったところはない」。


一見何の変哲もないこの宝石が、どうして女神に望まれているのか不可解だ。これにどんな価値を見出しているのだい?自分で話してみたいものだ。召喚する日、私たちは間違いなく長い話をすることになるでしょう。


「さあ、どうぞ」。


水晶を元の場所に戻す。元の場所に戻そうとしたが、もしリリーに気づかれても、僕のせいだと言えばいい。


ベッドに座り、窓の外を見つめる。ここであまりくつろぎすぎないようにしよう。必要なければ、リリーの隣で眠りたくない。床にベッドを作るには疲れすぎている。ソファの椅子も硬すぎるし。まあ、すぐに何とかするさ。


「あの女の子はどうしたんだ?彼女は僕を認識していたようだが、思い出せない。迷惑そうな口調にはかすかな見覚えがあるが、誰も思い浮かばない。」


すでに使徒の怒りを買ってしまったのだから、彼女が私たちの邪魔になるような間抜けでないことを祈るばかりだ。ナズが何を企んでいるかはわからない。異端者と決めつけ、彼女や神殿から僕を遠ざけるよう、メンバーに強制しても不思議はない。


「それでも止められない。リリーが今夜、夢の中で女神から話を聞かなかったら、寺院に行って誰かに聞いてみる。きっとナズより詳しい先輩がいるはずだ」


「?!」


突然、体の中から温かい感覚が放射された!


僕の...


...頭が...


...感じ...


...軽い。


意識が...


...消えていく...


バタン


ベックスの体がベッドにバタンと倒れ、まだ熟睡しているリリーの隣に無意識に横たわる。まばゆい光が彼の体を包む。

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ビュービュー


「...」


ビュービュー


「...?」


ビュービュー


起きたくない。


ビュービュー


目を開けたくない。


ビュービュー


でも、いつからこんなに風が強くなったんだろう?昨夜、間違えて窓を開けっ放しにしたのかもしれない。まあいいや、目覚ましが鳴るまで起きない。この風なら耐えられる!


ポタリ


ザブン


「?!」


どこからともなく、何かの液体に包まれ、ずぶ濡れになるのを感じる。やれやれ、今度は雨か?


「どうしたんだ?苛められているのだろうか?」


この不幸が安らかに眠らせてくれないので、ようやく目を開けた。


「うわっ!」


「風」と「雨」の発生源は、巨人の口だった。


いや、巨人の顔だ......!


「リリー!?」


リリーは巨人になれたのか?それは...


「...」


いや、もし巨人だったら、きっとこのホテルを破壊し、大パニックを引き起こしているはずだ。変身したのは僕の可能性が高い。


周りを見渡して確認すると、巨人なのはリリーだけではない。窓は巨大だし、ベッドの枕は巨大な雲のようだし、カバーは高波のように私の上にそびえ立っている。確定だ。


つまり、縮んでしまったのだ。より正確には、別の力によって縮んでしまったのだ。


「幸いなことに、靴を除いて、服も身の回りのものもすべて一緒に縮んだ。完全な危機を回避できたのは嬉しいが、早く元に戻らなければならない。」


チッ、何が起こったんだ?昨夜、こんな風に目覚める前に、なんとなく変な感じがしたのを覚えている。これは間違いなく僕にかけられた呪いだ。ガネットで出会った人、すれ違った人をすべてチェックする時間も能力もない。だから、犯人の可能性が高い人物に焦点を当て、そこから順に調べていく必要がある。


「一番の容疑者はわかっている。あの詐欺師の使徒ナズだ。彼女の呪いに違いない!」


確かに彼女は僕を直視すると目を紅く染めた。どういうことなのかよくわからなかったが、何の効果もないように見えたので、すぐには何も疑わなかった。今にして思えば、それは明らかに愚かな思い込みだった。


「水晶は後回しだ。最初の仕事は、ナズにこのことを突きつけて、元に戻してもらうことだ。でも......」


まだ眠っている巨大な女の子を見渡した。計画では、彼女が先頭に立つ必要がある。この状態では身動きもできないし、何かを成し遂げることもできない。はぁ、本当にこんなことになってしまった...。


「ねえ、リリー、早く目を覚まして。緊急事態だよ!」


「グーグー...」


そうか、声も小さいんだ。じゃあ、叫んでみる。


深呼吸をする。


「リリー、起きて!」


ビュービュー


「アッ!」。


巨大な吐息が台風の風のように感じられ、バランスを崩しそうになる。反応しないので、耳元で直接叫ぶことにする。


「よし、じっとしてろ!」


リリーが水平に横たわっているので、よじ登るのは簡単だ。鼻にしがみつき、それを足場にして頬に乗る。


「ふぅ、次はもっと簡単なところだ。」


バランスを保つため、髪に向かって顔を這い上がる。髪は伸び放題の草の葉のようで、耳は洞窟の入り口のようだ。中に落ちないように気をつけなければならない。中に何があるかは誰にもわからない。

もう一度やってみよう。


「リリー、ベックスだ!起きて! お願いだから目を覚まして!」


「グーグー...」


まさか耳をピクピクさせるのが精一杯か?


「眠りが浅いのか?! 」


頭から飛び降りた。声が効かないのなら、少し力を入れれば効くかもしれない。


リリーの左目に近づくと、完全に閉じている。無理やり目を開けさせれば、目を覚ますはずだ。誰も眠れないはずだ。


「ふぁああ! 」


ありったけの力を振り絞ったのに、まぶたは1センチも動かなかった。縮んだ人間だから、巨大なものを持ち上げるのが重くなるのはわかるが、ここまで弱くなるとは思わなかった。この呪いによって、力も最小限に抑えられたのだろうか。


この少女が目を覚ますのを待つしかないのかな? どこへも行けるわけでもないし、このベッドから離れるつもりもない。


「はぁ......もう一眠りして、この子が起こしてくれるのを待つしかないのか......?


すぅー


リリーは深呼吸をしていて、たまたま彼女の口の至近距離にいた!


「リリー!リリー!口を閉じろ!口を閉じないと......ああ!」


必死にしがみついていたベッドのグリップを失った。リリーの口は真空のように私を引き込む。それを止める力がない。


「嫌、もう体の冒険は嫌!」

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リリーの喉に運ばれる前に、口蓋垂につかまった。唾液と口の中の水分でヌルヌルしているが、命からがらしがみつく!


「アッ!ゲホゲホ!」


「!!!」


リリーの口が振動している。咳に違いない!


グリップが緩む...今、喉に落ちている...


「くそっ」


「べえええ! 」


「!!!」


突然、大きな力が喉から押し出し、外の世界へと戻った。


「自由だ!本当に自由だ!」


ガシャン!

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「リリーが悪かった、ベックス!食べるつもりはなかったの...」


「リリーのせいじゃない。言ったように、これは誰かが引き起こした呪いだ。」


「でも、これからどうすればいいの?リリーは一人で外に出たがらない」。


「そんなことはない。一緒にいて、道案内をするから。指示に正確に従えば大丈夫。一人では旅に出られないから、僕を運ばなきゃいけないんだ。」


「どうやって?ポケットに?」


「絶対にダメだ。窒息するだけでなく、指示が聞こえなくなる。手を開いてここに置いてください」。


「わかった。」


指を目の前のベッドの上に向ける。リリーは何が起こるかわからないまま、ゆっくりと手を下ろしていく。


「さあ、頭の方に持ち上げて。」


「こう?」


リリーが私を持ち上げると、私はバランスを崩して落ちる可能性を減らすために体勢を変えた。この 「エレベーターの乗り心地 」は少し吐き気がするが、耐えられないほどではない。


「完璧だ。


リリーの手から、頭の上に飛び乗った。髪が衝撃を和らげた。


「こうやって頭のてっぺん、耳の横に乗るよ。あなたが頭を大きく動かさない限り、生き残る」。


「すごい、ベックスはもうリリーのペットみたい!」


「いいえ、そうじゃなくて......とにかく。いいから早く服を着て、お寺に行きましょう」。


「はい!」


リリーは興奮気味に更衣室に向かおうとした。僕はずり落ちないように彼女の耳を無理やり掴んだ。


「ちょっと待って!先に降ろして、まだ上にいるから。」


「あ、そう。ごめんね」。

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「リリーはこの角を左に曲がるべき?」


「いや、次だ。お寺はその通りにある。どう見えるか覚えてる?」


「うーん、そうだね...」


「大丈夫。まったく平気。考えるのは僕に任せて。」


ベックスが自分より小さくなるとは思わなかったけど、リリーの気持ちは少し楽になった。声が小さくてかわいくて、耳がくすぐったい!ベックスにはいつまでもちっちゃいままでいてほしくないけど、リリーこの瞬間を少しでも楽しみたいのだ。


また夜が明けたが、女神はまだ私に話しかけてこない。ナズさんの言う通り、女神はもうリリーが好きじゃないのかもしれない。


「リリー!リリー、聞こえる?お寺を通り過ぎるところよ!」


「おっと!リリーそんなつもりじゃ...」


「何か気になることでもあるのか、リリー?ちょっとボーッとしてたから。」


「リリーは大丈夫!」


「まだナズが言ったことを考えてるんでしょ?」


どうして知ってるの?! ベックスは心が読めるの?私は満面の笑みを浮かべたりして...。


「うーん、まあ...」。


「あの子が言ったことは忘れて。自分が何を言っているのかわかっていない。自分が経験したことを知っていることを、他の誰にも否定させないこと。たとえ世界中がそれを疑っているとしても、彼らに自分自身をも疑わせてはいけない」。


そんなこと考えたこともなかった。女神がリリーに話しかけなかったなんて、他の人に言わせられない。リリーそれが真実だと知っている!


リリーが疑えば、母は決して救われない。リリーはそんなことはさせない!


「ベックス、いまリリーはわかったわ!」


「それが聞けてよかった。この状況を解決したら、アイスクリームか何か甘いものを買いに行こう。ここから数ブロック先にパン屋があるんだ」。


「本当に?ありがとう、ありがとう!」


リリーのあまりの嬉しさに、飛び上がらずにはいられない!すでにデザートの味を確かめている...。


「おっとっと、ジャンプは気をつけて!落ちてほしいのか?」


「うわぁ。ごめんなさい。」


「今お寺に着いた。ドアベルを鳴らして、ナズ、つまりナズ使徒を呼んでくれ。」


「よし!」


ピンポーン


リリーが呼び鈴を鳴らして数秒後、一人の男がドアを開け、私を見下ろした。ベックスと同じ大人だが、年上に見える。ベックスの父親と同じ年かもしれない!


「こんにちは、私はエルム長老です。お嬢さん、どうされましたか?」


見た目はちょっと怖いけど、声は優しそう。


「リリーです。私たちはナズ使徒を探しています。ここにいますか?」


「私たち?あなたと他に誰がいるんですか?」


「彼です!」


エルム氏にベックスが見えるように頭を指差した。彼を見逃す人がいるわけがない。


「ああ、小さい奴が一緒か。小さい呪いを持っている人を見るのは初めてだ。お祈りしましょうか?」


「違います、これは僕の呪いではありません!あなたの使徒が呪いをかけたから、この大きさになったん です!早く呪いを解いてほしいんです!」


「え? 何を言っているのかよくわかりません。」


「チッ!」


ベックスが私の耳に近づいてくるのを感じる。何を伝えたいのかしら?


「リリー、エルムに言うことをすべて繰り返してください。マイクになってほしい。いいかい?」


「いいよ!」


ベックスがリリーに言ったように、前に言ったことをそのまま繰り返した。


「お嬢さん、私たちのコミュニケーションを助けてくれてありがとうございます!ナズ使徒から聞いた男だね。申し訳ないが、私にできることは何もない。」


「じゃあ...ナズは...どこに...いるん ですか?彼女は...私が...話したい人です。」


「あなたが彼女の呪いにかけられていることを考えると、彼女が再びあなたに会うことを許すとは思えません。たとえ会えたとしても、今はここにいません。お気をつけて、女神の慈悲がお二人の上にありますように。」


エルムさんは頭を下げ、ドアを閉めようとする。


「待って......せめて......ナズの居場所を......教えて.....」


クリック


ドアを開けようと手を伸ばす。リリーは動けない。


「ベックス、ドアはロックされているようだ...」。


「ああ、あいつが締め出したんだ。チッ!」。


「どうする?」


「わからない。お菓子でも食べながら考えよう」。


「やったー、行こう!」


「迷子にならないように、よく聞いて。まず、右に曲がって、それから行って......」。


グチャ


「?!」


今のは何だったの?! リリーは頭に何か粘着性のものを感じる...。


「ベックス 大丈夫?何か感じた?」


バキッ


「!!!」


小さなネバネバした玉が頭から地面に落ちた。リリーの頭が軽くなった気がする。そんな、もしかして?


「ベックス?あなたなの?このスライムの中にいるの?!」


「それを持っていけ!」


「?!」


オレンジ色の髪の女の子が突然、私の手からスライムボールを奪い取った。あっという間の出来事で、リリーはついていけなかった!


「おい、戻れ!泥棒!」


泥棒を追いかけ、路地に入った。路地には、リリーの知らない男と、あのおばさんだ!


「やあ、リリーちゃん。また会えて嬉しいわ!会いたかった?」


「ごめん、でもリリーは今、泥棒の女の子に集中しなくちゃいけないの。誘拐犯、捕まえたわよ!私の友達を返しなさい!」


爪を見せれば、リリーが怖がるかもしれない。自分を強く見せるんだ!


シュンッ


「ああ、君は気が強いんだね。アイシャはそういう一面について話してくれなかったけど、私は好きよ!」


なぜ彼女は笑っているの?怖いのでは?


「リリーは真剣だ!彼を返すか...それとも...」


わかった!


「それともアイシャにあなたを倒すのを手伝ってもらうわ。リリーは前に彼女に会った。彼女に手を出したくないでしょう!」


「あら、あたしはそんな強い印象を残したかしら?お世辞でも嬉しいわ!」


どうして泥棒娘はニコニコしているんだ?いや、笑っている!


「そうか?心配しないで、私がアイシャを呼ぶから。お姉ちゃん、おやつの時間だよ!」


怪盗少女はスライムボールを空中に、アイシャに向かって投げた。アイシャはボールをキャッチする...口で?!



「ジュルジュル! ごっくん! ああ、ごちそうさま、シーナ。やっと彼の味を知ることができたわ!あなたのスライムは彼の味のほとんどを隠してしまうけど、それでも多少は引き立ててくれるわ。」


いや.


いや!


いや!!


いや!!!


ベックス...その女性はベックスを飲み込んだ!


「どうしてそんなに悲しそうなんだい?あのかわいい男性は死んでないわ!ただ胃の中で休んでるだけ。今まで食べたお菓子の中で一番美味しかったわ!」


「リリーをバカにするなんて!信じられると思ったのに!返してって言ったの。今すぐ!」


泥棒少女とアイシャは同じチームだ...リリーはこれを信じることができない! どうしたらアイシャは...


「残念だが、このパーティのリーダーは偉大なるシーナである私だ。お姉ちゃんに彼を飲み込むように言ったのは私よ。だから、返せというなら、文句は私に直接言ってちょうだい!」


泥棒娘はリリーを愚弄し続けている。リリーはベックスを奪って逃がすわけにはいかない!本能に任せなければ...。


ベックスが私に言ったように。


「にゃあ!」

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