母の味噌汁

椿原守

**

 

 妻に惚れたきっかけは、味噌汁の味。

 亡くなった母と同じだった。


 妻の作る味噌汁はいつも同じ味で、俺はほっとする。

 一口飲むと、「ああ、結婚してよかった」といつも思うのだ。


 もしかして、妻は母の生まれ変わりか? と思ったことすらある。

 さすがにその考えは否定したけれど……。


 キッチンに立つ妻の背中にそっと忍び寄る。後ろからぎゅっと抱きしめてみた。


「味噌汁のいい匂いがする」


 肩越しに妻の手元を見た。そこにはお椀があって、ワカメのお味噌汁が入っており、お椀の隣には開封した小さな袋が二個置いてあった。


「お味噌汁ほんっと好きだよね。インスタント味噌汁でも、まるで『世界一美味い』みたいに言うんだもん。こっちとしては助かる~」


 ……どうやら俺の母の思い出の味は、インスタントだったらしい。

 そういえば、母は料理下手だったな、と、このとき思い出したのだった。

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母の味噌汁 椿原守 @tubakihara

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