第6話「女子力改革どうすれば…」

部屋に戻り、買ってきた女性誌を机の上に広げた。

表紙には「春から変わる! 簡単女子力アップ特集」と大きな文字が踊っている。


(……さて、どっから読んだらええんや。女子力アップなんて、ワイの辞書にはなかった単語やぞ)


パラパラとページをめくると、最初に目に飛び込んできたのは――ダイエット特集。

「1日1,600kcalを目安に」「間食はナッツやフルーツで」「週3回の軽い運動を」


(カロリー管理? ワイ、前世ではビールで一日分オーバーしとったわ……。間食もスナック菓子とカップ麺のコンボやったし。これは……いきなりハードル高いで)


下っ腹を両手でつまんでみる。

ぷにっと柔らかい肉が、悲しくも現実を突きつけてきた。


(……確かに、これ放置したらアカンな。ぽっこりお腹で女子力もへったくれもない)


ページをめくると、今度はメイク特集。

「下地を塗ってファンデーション」「自然な血色感をプラスするチーク」「アイラインは目尻に細く」


(下地? ファンデ? コンシーラー? 聞いたことはあるけど、何が何に効くんや……?)


知らない単語だらけで頭がクラクラしてくる。

だが誌面に載るモデルの顔は、みんな柔らかく華やいで見えた。


(メイク、すごいな。地味な子でも、これやったら明るく見えるんやろか……?)


次に出てきたのは、春ファッションの特集。

「スカート×カーデでつくる柔らかキャンパスコーデ」

「ジーンズよりもスラックスで抜け感を」


(……無理無理。ワイのクローゼット、黒Tとジーパンしかないんやぞ。“春色スカート”なんて、未知のジャンルやんけ)


思わず苦笑いしてページをめくる。

そして、ある特集で手が止まった。


「黒縁地味メガネからの卒業! おしゃれ眼鏡&コンタクトデビュー」


誌面には、丸眼鏡や細フレームで垢抜けた印象になった学生の写真、さらにはコンタクトで一気に素顔を見せる例が並んでいた。


(……お、おお……これは……)


思わず鏡を見やる。

そこには、無造作に垂れた黒髪に、分厚い黒縁眼鏡をかけた地味な自分が映っていた。


(……メガネかけると余計冴えへんな。おしゃれメガネに替えるだけでも変わるかもやけど、いっそコンタクト? でも、目にレンズ入れるって怖ない?)


想像しただけで体がゾワッとする。


(でも……もしコンタクトにできたら、髪型や服をちょっと変えるだけで、印象だいぶ違って見えるんちゃう? 今の“地味女子大生”から、多少はマシになるんちゃう?)


頭の中で、可能性と不安がぐるぐる渦を巻く。


ダイエットは必須。

メイクも避けては通れない。

服もなんとかせなあかん。

そこに加えて眼鏡問題――。


(……どれも必要。でも、いっぺんにやるのは無理や。ワイ、容量そんなに大きないんやぞ。ほな、どっから始めればええんや?)


ページをめくるたびに、「あれも必要」「これも必要」と心が揺さぶられる。

結局、どこから手をつければいいのか分からず、雑誌を閉じてしまった。


ベッドに倒れ込み、天井を見つめる。


(……でも、このままやと絶対あかん。何か一つでも変えな、また灰色の大学生活になってまう)


拳を握る。

まだ答えは出せない。

けれど、心の奥で小さな決意が芽吹いていた。


(次は……絶対、何か始める。ほんまに変わったる!)


そう呟きながら、ワイは再び雑誌を開いた。

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