#90秒で恋がしたい

空白代行

空 (『#90秒で恋がしたい』)

教室の窓際、いちばん後ろの席で、いつも君は空を眺めている。

それはもうドラマのワンシーンのようで、私は教室の真ん中の席から君に夢中だった。

なんとか視界に捉えたくて、いつもプリントを回すときは、スローモーションになった。

君は空に釘付けで、その目は、空に恋をしていた。

高く昇る夏の入道雲のように、私の頭の中は君への好きで埋まっていった。

九月の終わり、朝、教室に入ると、君が私の席に座っていた。

後ろの席の子と話をしている。

私は気づかれないように、ゆっくりと君の席に座った。

ふと、空に目が移る。

「えっ」

私の視線は、空まで届かずに窓ガラスに突き当たる。

窓ガラスには、私の席に座る君が映っていた。

君と目が合って、私の焦点は遠く空へと逃げる。

空は青く、真っ赤な私と喧嘩した。


「はい、席に着いて、席替えするよ」

突然のくじ引きの結果、君はまた同じ席だった。

窓際のいちばん後ろ、そのとなりに私は座っていた。

何度、前髪を整えても落ち着かなくて、そんな私をよそに、やっぱり君は、空を眺めていた。

その表情は見えなくて、透明で、綿菓子みたいに空のうえを漂っていた。

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