リターン

宝門清水

第1話 帰郷

 俺はシンジ異世界転生して28年。

 若いころは良かったよな~


 生まれて直ぐに魔力枯渇にいそしんで魔力を増やす。

 5歳の頃にはスキルの習熟に励み神童・天才と。

 10歳で冒険者ギルドに加入ダンジョンなどで魔物狩り三昧。

 15歳でスタンピードを制圧し街を救う、国から褒美として貴族に叙爵。


 18歳で異世界最強と言われたバハムートとの決闘に勝利し、世界最強のシンジと称えられ俺は有頂天になっていた。


 この頃が一番強かったのかもしれない。

 身長182cm、体重75㎏ 黒髪、茶目、顔の彫りはやや深い。


 最近では絡んでくる冒険者も無く、腕自慢の格闘家の挑戦もない。

 

 ダンジョン攻略も完全攻略していない場所は存在の知られているダンジョンではない。


 Sランクの魔物討伐もバハムートとの戦闘を知ってしまうと歯ごたえが無くてつまらない。


  かねに対する欲も既にない。俺の無限収納には金銀財宝が大陸にあるすべての国家予算より多いかも、魔物素材もオークションにかけるようなものだけでも数知れず。


 貴重な鉱石も大型ダンプカー何十台も多分収納されている。


 今は金欲も色欲もないあるとすれば前世日本の食事を食べてみたい。

 異世界で30歳を前にして生ける屍状態だ、何か刺激が欲しい。

 

 そんな日々を過ごしていた俺が誰かに呼ばれた?

 いや、気のせいか?


 しかし俺を呼ぶ声は日を追うごとに強く大きくなり幻聴なんかでない事がわかる。


『勇者様お助け下さい』

『日本をお助け下さい』

『私達兄弟をお助け下さい。東京でお待ち申し上げております』


 日本?東京?確かに前世に暮らしていたことがあるが、今更どうやって行くというのだ。


 地球に居るのならともかく、俺のこの世界は夜には月が二つ出て太陽系内ですらない事は宇宙音痴の俺にでも分る。


 確かに転移魔法が使えるが、地球への転移は考えた事もなかった。


 俺の転移魔法なら1度行った事がある場所ならどこでも行ける。

 なら地球にはどうだろうか?東京へは?


 東京都内に転移出来るだろうか?

 都内は人が多すぎるし、どう変わっているか分からないからなあ。


 今日も声がする


『勇者様どうか日本をお救い下さい』

『これが多分最後のお願いとなります。勇者様日本をどうかお助け下さい、これが私、神月かずきの最後のお願いで御座います』

 


 ★★ 転移 ★★


 予想と反して転移はあさっり成功した。


 俺が転移した場所は夜の東京、前世俺が勤めていた製薬会社が入っていたビルの屋上にイメージどおりの場所だった。

  

 気配を消し認識阻害の魔法を使い俺は空に舞い上がる。

 

 『 おおおお~ 』


 間違いなく地球に日本に転移できた。


 眼下には東京タワーと光で埋め尽くされた関東平野が美しい光の海が広がる。


 けど俺が死んだのは2021年4月、医薬品会社の営業をやっていた俺は、社会問題になっていたコロナに感染して、熱を上げ部屋で休んでいた。

 それっきり前世の記憶が無いので多分そこで死んだのだと思う。


 それじゃ転移したこの日本は今何年なのだろうか?


 俺を呼んだ神月かずきという女性は東京のどこで会えるのだろうか?


 俺が着ているのは黒竜の皮で作ったバトルスーツだ。


 この服装ならどこかのバイク乗りかミュージシャンに見てくれるだろうと思い渋谷の駅に向かい歩き出す。


 歩き始めると間もなく20代後半だろうか、誰もが目を奪われる綺麗な女性が俺の前に立ち道を塞いだ。


ぬしさんが勇者かえ、ご足労かけんした想像よりイケメンでなによりでありんす」

「なぜ俺の事を知っている?あなたが神月かずきか?」


わらわ神月かずきではないでありんす。わらわの名は椿つばきでありんす」


「あんた容姿は綺麗な女性だが随分と怪しいな」


わらわの事を綺麗と言ってくれて嬉しいでありんす。」


≪ 鑑定 ≫

  名前:詮子・八尾比丘尼・白比丘尼・玉椿姫・・・椿

  年齢:1,245歳

  職業:****

  種族:人間?

  能力:****


おいおい俺はかなり驚かされた


「凄いなエルフより長生きする人間を初めて見たが、まっ美人だから全て許されるのかな」


「ホホホホ、わらわの事を知ってそのように申したのはぬしさんだけでありんす」


「それじゃ俺を呼んだ神月かずきのところへ案内してもらおうか」


 俺がそう言うと俺達の横に黒塗りのリムジンが止まり黒服の男がリムジンの後部座席のドアを開けてくれた。


「お疲れ様です椿つばき様。この方が勇者様ですか」

「うん、月神かずきさんのところに参るでありんす」

「かしこまりました」


「ところで今日は西暦何年の何月だ」

「西暦2025年10月25日でありんす」


 なるほど異世界での29年は地球の4年か、どんな理屈か分からないので考える事を放棄して強そうな黒服を鑑定してみる。


  名前:武田 玄太

  年齢:49歳

  職業:青龍家執事・青龍忍軍頭領

  種族:人間

  能力:上級忍者

 

 リムジンは10分もかからずに10階建ての敷地のかなり広いビルの前に止まった。

 着いたビルは少し異様な雰囲気をもっている。


 ビルにはビル名を書いた場所がなく窓もほとんどない、少ない窓も小さく埋め込み式の明り取りの窓のようだ。


 入り口を入ると細い通路になっていてホールなんかは無い。

 通路を歩いて進むと天井や壁が気になるので鑑定してみる。


 防御壁とか防御シャッターとか、落とし穴、麻酔ガス噴出孔なんてのもある。

 何ここ、基地要塞?


 エレベーターに乗ると顔認証システムに黒服が顔を近づけると11階?の表示ボタンが現れた。


 更に黒服は1階から10階迄の表示ボタンを複雑に10回押してから11階のボタンを押すとエレベーターが降下して行く?勘違いでなく下に降りている。

 エレベーターの止まった階を鑑定すると 〈青龍ビル最下層地下50メートル〉


 通路を進んでいくと扉が現れ、扉を開けて部屋の中に進むと白衣を着た医者と看護師らしき男女5人がベットを囲んでいる病院の集中治療室のようにもみえる。


 ベットの上には動物を丸焼きしたような肉の塊があり、その肉の塊に管や線が沢山繋がっている。


 肉の塊を鑑定してみて驚いた。


≪ 鑑定 ≫ 

  名前:青龍 神月かずき

  年齢:19歳

  種族:人類(巫女)

  状態:窮奇きゅうきの呪いにより瀕死状態


「かなりやばいな」 

 俺はそう言って椿つばきさんを見る。


「下がるでありんす」

 白衣を着た5人が部屋の外へ出て行った。


 < 治癒魔法 解呪 >

 光が黒っぽい肉の塊を包んだ瞬間、光は肉の塊に弾かれ霧散した。


「想像したより強い呪いだな、それじゃこれで」


 ≪ 神聖魔法 聖光解呪 ≫

 七色の光が肉の塊を包み込み、肉の塊の中に染み込むようにはいっていく。


「よし!」


 < 再生魔法 インポッシブルヒール >

 < 回復魔法 エクストラヒール > 

 俺は三つの魔法を発動した。


 肉の塊は光に包まれながら形を人型に変えていく。


 間もなくベットの上に有った醜い肉塊は色白美少女の裸体に変った。


≪ 鑑定 ≫ 

  名前:青龍 神月かずき

  年齢:19歳

  種族:人類

  能力:日本の夜を統べる女王

  状態:異常なし(やや栄養不良)



「もう大丈夫だ、管を外して何か着せてやってくれ」


「お見事でありんす」


 この場所に案内してくれた黒服の玄太さんも


月神かずき様を助けて頂き有難うございます。

 今迄、医者も高僧も呪術師も誰に診て貰っても何も効果を得る事が出来ませんでしたので半分諦めておりました。

 神月かずき様の命を助けて頂き本当に有難うございます」


 玄太さんは深々といつまでも頭を下げていた。


  部屋には先程の5人の白衣の男女が現れて美少女の体に付いた管と線を外している。

 次の瞬間、目の前にいた白衣の女から殺気が漏れた。


 俺は女が動き出す前に女の襟首を持って後ろに放り投げる。


 瞬間の出来事で力が少し入ったようで、女は一直線で壁へ猛烈な速さで飛んでいく。


 壁に叩きつけられさらに床に落ちてうめき声を上げる女。


 鑑定 暗殺ギルド 蟲毒こどくメンバー(草) 紅玉こうぎょく青龍忍軍下忍。


 残った4人の白衣も鑑定したが問題はなかった。


「こいつは暗殺ギルド蟲毒こどくメンバーのようだけど知ってる」

 俺は黒服に尋ねた。


「まさか紅玉が蟲毒の一員とは信じられません」


「俺を疑ってもいいけど、この女をよく調べてからにして欲しい、未だこの紅玉は生きているし、問題はこの女が青龍忍軍で有りながら蟲毒のメンバーという事だろ」


「我が主君を2度も助けて頂いたシンジ様の事は信用いたしております」


「俺が一度みんなを見てやろうか、他にもスパイがいるかもしれないぞ」


「是非お願いいたします。当然報酬はお支払いいたします」


かしら、姫様が目を覚まされました」


「そうか、よかった」


 ベットに横になっていた青龍 神月かずきが体を起こしてこちらを向く。


「椿様、駆け付けて頂き有難うございます」


「うん、まだしばらくは養生するでありんす」


「武田、私は随分お前に面倒をかけたようだね。すまなかった」


「いえ面倒な事は何もございませんでした。今は姫様が元気になられて嬉しい限りでございます」


「それで、貴方様が私を闇の奥から助けて下さった勇者様でしょうか?私の声を、願いを、聞き入れてくださり本当にありがとうございました」


「いや礼はいらん俺は冒険者だからな、ただ依頼をこなすだけだ。それより今は少し休んだ方がいいぞ」


「うふふふ、勇者様がとても素敵な方でうれしいです。では後日改めてお礼をさせて頂きますね」



 俺と椿さんが二人で部屋を出ると


「主さんには面倒掛けますが実はもう一人診てもらいたい人がおるでありんす」


「いいぞ誰かしらんが診るだけなら大した手間もかからないからな、ただそれが終わったらおいしい飯をご馳走してもらうぞ」


「ふふふふ当然でありんすな」


 俺達二人はビル最下層から最上階に向かった。






 













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