お前の墓石に鉄槌を
桜居春香
6回目
18時ちょうど、定時を迎えると同時に帰り支度を始め早々に退勤。転職前の出勤最終日はもっと晴れやかな気持ちで終われるものだと思っていたし、事実最初の1回はそうだった。
18時15分、職場最寄りの駅から自宅方面へ向かう急行電車に乗る。
18時27分、急病人の影響で電車が一時停車するもすぐに再出発。
18時56分、自宅最寄り駅に到着。
寄り道をせずに最短最速で自宅へ向かう。最寄り駅から自宅へ向かうルートいくつかあるが、今回は大きな自然公園の中を突っ切る直線距離ぶち抜きルートを選んだ。よっぽど急ぐ理由がない限り、通勤時には使ってこなかったルートである。
バッグの中に忍ばせた「お守り」を意識しながら、早足で歩みを進める。ヒールが原っぱの土に食い込んで歩きづらい。走るのは難しいかもしれない。
「こっちの道なら陸橋は通らない……タイミングもずらした、大丈夫……」
確証のない「大丈夫」を自分に言い聞かせながら、歩く、早く、歩く。そして……止まる。19時を過ぎた自然公園に、昼間のような賑やかさはない。日が傾き、薄暗くなった原っぱの上で、それは心もとない明るさの街灯に照らされていた。
「…………」
居る。なんで、この時間なら陸橋の方に居るはずなのに。だって前はそうだった。前はあっちで出くわしたんだ。だから道を変えたのに。なんで、いつも、私の帰り道に先回りしているの?
それは、遠目に見ると花崗岩の彫像じみた姿をしていた。白っぽい体表に、小さな黒い点を散らしたような模様が入っている。ガーゴイル、というのだろうか。海外の家にああいう石像が飾ってあるのを見たことがある。だが、違う。あれは、石像じゃない。だってあれは、ひとりでに動いている。
「…………」
「なんでっ……いい加減にしてよ! なんで私なんだよ! 私がなにしたって言うんだよっ!」
逃げる? ダメだ、一度遭遇したらあいつはどこまでも追ってくる。
命乞いでもする? 試したことはないが、失敗したら取り返しがつかない。
じゃあ……やっぱり、返り討ちにするしかない。
「もう終わりにしてよ……っ!」
私はバッグの中から「お守り」として携帯していた金槌を取り出すと、ゆっくりと近づいてくるそいつに駆け寄って、力任せに振り下ろした。直撃と同時にそいつは、花崗岩とは思えない容易さで砕け散る。砂のように崩れ、消えていく。
これで6回目。私がこいつと遭遇し、返り討ちにした回数。そして、私が今日という1日に閉じ込められて、同じ朝を迎えた回数だ。
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