第2話 この優しさ、現実ですか?(2)

「大丈夫ですか?」

「え?」

「お怪我はないですか? 気分が悪かったりしますか?」

「い、いえ。特には……」


 私は慌てて立ち上がり書類の束を青年から受け取る。


「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」


 ぞんざいに頭を下げてから、慌てて書類の束を鞄に押し込んだ。しかし、バラバラに飛び出した書類たちは簡単には鞄に収まらない。焦って力任せに書類を鞄に押し込んでいると、そんな私を制するように、横から伸びてきた手がそっと私の鞄を押さえた。びくりとして見れば、先ほどの青年が鞄に手を掛けている。


 なに?


 思わず私は彼を凝視した。青年も私を見つめ返してくる。互いの視線が絡み合うと、彼は柔らかく微笑んだ。それはあまりにも人好きのする屈託のない笑顔だった。思わず身構えていた力が抜けてしまう。しかし、すぐに我に返った。


「な、何か?」


 慌てて鞄をかばうようにして抱え込むと、一歩後ろへと退る。彼はそんな私に少し困ったような表情を浮かべた。


「あぁ、すみません。驚かせてしまいましたね」


 そう言って頭を掻く姿からは、どこか品の良さのようなものが漂っている。


「慌てないで。落ち着いて。ここは人の通りがあるから、少し端に寄りましょう」


 私は周りを見回した。確かに人通りは多く、彼の言うことにも一理ある。このまま通行の妨げになっているわけにはいかない。


「そ、そうですね」


 私は彼の言う通りに歩道の端へと寄った。すると、何故だか彼も私と一緒に人波から外れた。


「あの、まだ何か?」


 怪訝に思って問いかける私に、彼は軽く両手を挙げた。


「いやいや。別に下心があってのことではありませんからご安心ください」


 彼の返答に私は思わず眉を顰める。その言葉が逆に怪しく聞こえた。書類を拾ってくれたことには感謝している。雑な礼ではあったが謝意は示したはずだ。それなのにまだ私に付き纏う理由とは? まさか私の荷物を狙っている? スリ?


 いや、まさかね。スリはこんなに堂々と話しかけてこないはず。彼はどう見てもただの通りすがりの人にしか見えないし。でもじゃあ、どうして彼は私に付き纏うのか。


 もしかして、私に一目惚れしたとか? ……いやいや。


 連絡先を教えて欲しいとか言い出したりする? ……いやいやいや。


 まさか今どきそんな古典的なナンパをする人はいないだろう。まぁ、いたとしても、そんないかにも遊び慣れている人は、私のような女に声をかけるわけがない。こんな地味でヲタクな私なんかに。

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