第2話 日本という国なんです
「えっと、違いますよ。 俺のじゃなくて、あなたを立ち上がらせたんです」
「何もしないのですか?」
俺が襲わないことを分かってくれようとしている。
襲うつもりならもう襲っているはずだから、そう判断してくれたんだろう。
「そうですよ。 決してひどい事はしません。 俺は
今の状況を説明するのに上手い言い方を考えて、試しに神隠しと言ってみたんだ。
神の力で俺は連れてこられたのだから嘘じゃないはずだ。
俺は不思議な現象で隠された、と言える状況だと思う。
隠されたのは俺の死体である可能性が高いが。
「はぁ、神隠しですか? 子供に聞かせるおとぎ話ですね」
良かった。
おとぎ話だけど、この女性に神隠しは通じたみたいだ。
「おとぎ話のように困ったことなんですよ」
「はぁ、なぜおとぎ話が困るのですか?」
「あり得ないことが起こってしまって、自分の国に帰れそうにないからです」
「本当なんですか?」
女性が思い切り疑わしそうな目で見てくる。
全力でウソつきと思っているみたいだ。
無実の罪を晴らすため、ズボンのポケットに入っていた財布の中から、俺は一万円札をサッと取り出した。
「これが証拠です。 俺の国で使われている
俺の出した財布を女性がちょっと驚いた顔で見ている。
ブランド物ではあるがこんな
誰かにもらった緑の革製だけど、誰にもらったのかを思い出せない。
女だったような気がする。
「へぇー、上等なお財布ですね。 お札も立派ですごく綺麗です。 何が書いてあるのか分かりませんが、ここら辺りの物じゃないのは良く分かりました。 見たことも無い服ですから外国の人なんでしょうね」
高度な印刷技術に女性は目を丸くしているようだ。
すごいぞ、日本。
それに俺が着ている白いポロシャツとオリーブ色のカーゴパンツも珍しいみたいだ。
「ここら辺りにはどんな国があるのですか? ここはなんて言う国なんです?」
「ここはハラパ王国で両隣りにウェリア共和国とモヘン神聖帝国があります」
なんだって。
そうでも無いか。
もう分かっていた。
あの偉そうな神様に俺は異世界へ飛ばされたたんだ。
現実の世界で女性がおっしこをしている場面に出くわすはずがない。
そんな幸運に出会うもんか。
アダルトビデオの中でしかあり得ない話だ。
ファンタジーでも無理がある展開だと思うな。
「はぁ、聞いたこともありません。 俺はとんでもなく遠い国から飛ばされて来たらしいです」
嘘みたいな嘘ではない話をして誤魔化す方が
「何という国から神隠しにあったのですか?」
「日本という国なんです。 知っていますか?」
誤魔化す知識を全く持っていないから正直に言ってみる。
嘘を吐いていると思われるよりも良いはずだ。
「聞いたこともありませんわ。 すごく遠くにあるのでしょうね」
女性は日本が異世界だとは思っていないらしい。
この世界ではそんな事は非常識なんだと思う。
日本でも非常識な事だから同じか。
「そうでしょうね。 悲しくなります」
「まぁ、お気の毒です」
んー、意外なことに同情してくれたぞ。
この女性は少し抜けているんじゃないのか。
遠い国の人間なら言葉が通じないか、なまりが強いはずだ。
この男は怪しい、と思われなかったのはラッキーでしかない。
んー、俺の方こそ抜けているぞ。
俺は聞いたこともない国の言葉がなぜ使えるんだ。
おかしいと思えよ、バカだな。
だけど神が関係しているんだ。
何でもありかも知れない。
今は考えてもしょうがない事だけは完璧にハッキリとしている。
「状況を分かっていただき、ありがとうございます」
「こんな事を聞いてすみませんが、これからどうするんです?」
「はぁ、悩みますね」
「お家へ帰れないのですから、それはそうでしょうね」
あまり意味の無い会話だな。
「ところでまた聞くんですが、この辺に水はないでしょうか? 喉がカラカラなんですよ」
「あっ、そうでした。 直ぐそこに小川が流れていますわ。 たぶん飲めると思います」
少し不安になる言い方だな。
「どっちへ行けば良いですか?」
「案内をしたいのですが。 つぅ、足が痛くて歩けません」
女性は困り顔で俺を見ている。
靴の中だから腫れているかは不明だけど、足首はかなり痛いようだ。
「背負ってあげましょう」
「でも。 濡れています」
赤く染まった顔で恥ずかしそうにモジモジしているのはかなり色っぽい。
「そのスカートを脱いで、俺のズボンをはけばどうでしょう?」
「ふぅん、そうするしかないですね。 脱ぐとこを見ないでくださいよ」
もっと赤くなってデップリとした腰をクネクネと動かさないでほしい。
動きにつられて野獣みたいに襲ってしまうだろう。
俺はズボンを脱いでいるのだが、女性はそれをじっと見ている。
アレおかしいな、と思いながらも脱いだズボンを女性に手渡した。
「後ろを向いてください。 絶対に振り返ったらダメですからね」
自分は見てたくせにどういう事だろう。
この女性のデリカシーは自分に都合が良すぎる気がする。
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