ナビダイヤル
てると
ナビダイヤル
『こちらは、東京都水道局ナビダイヤルです。ご用件のある方は、次のご案内に従って、番号を押してください。なお、この電話は、お客様サービス向上のため、録音させていただきます。』
僕は、この、水道料金を払わなかったための後始末の時間が、なんとも好きなのだ。だから、部屋の机に座って、コップに香りを入れた水を用意して、ゆったりと音声案内を聴く。どこか、この時間こそが、確かに自分が生活をしているという実感になっているのだ。
そうして、『ナビダイヤルでお繋ぎします』の声とともに、電話が繋がり始める。
そうして僕は、淡々と遣り取りをこなす。この「こなす」ということが、どこか普段の読書や執筆にはない生の充実感を齎す。もちろん、ニーチェを読んでも映画を観ても、それはそれとした充実感があるのだが、生活を確かに「こなす」充実感には、他には代えがたいものがある。
一通り遣り取りを終えて、電話を切る。ほっと一息つき、水を飲む。その香りが鼻の奥から鼻腔を撫ぜるとき、僕はまだこれが飲める暮らしが続いていくのだという安堵と幸せで、感謝の捧げ物の祈りをしたい気になってくる。
そもそも水道料金を最初から払えばよいことだ、確かにそうだ、次からはそうする、と思う。
ふと思う。最初から払うとすれば、水源に舞うトンボと花びらに光を見よう、と。
ナビダイヤル てると @aichi_the_east
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