3章

1話

あれから、一年後の冬の季節を迎えていた。

私は護衛の期間を終え、一度吉備家の屋敷に2ヶ月程帰宅し、師匠との修行の日々を送っていたのだが、一条の婚約者になった事で、今年の冬にまた一条の屋敷に住むことになった。


一条の座敷にて〜


「という事で貴方に姉妹共々お願いするわね」


「………は?」


 現在、私は師匠と一条家の屋敷に招かれ、いきなり姉妹よろしくと婚約の説明を受けていた。


「師匠どういう事ですか?」


「嫌~、お前さんも特級になった事でそれを知った一部の名家から婚約話が来ていてな、相手にするのが面倒だったんで、八恵ちゃんに説明したら快く引き受けてくれた」


「面倒って言いましたよね。はぁ〜、話はわかりました。でももっと早く説明をお願いできませんかね」


「すまんすまん…俺も何かと忙しくてな」


「息子の婚約話を適当にあしらわないでください」


「暁仁は嫌だったか?」


 そう発言したのは、一条家長女桜様、学園も休暇に入り実家に帰省していた。


「嫌とは言っていません」


「じゃあ、いいんだな」


 全く、そんな笑顔で言われたら断れないじゃないですか。


「お前さんも特級だろ。特級は一夫多妻制が認められている。15歳になったんだ男なら覚悟を決めんか」


「師匠はどうなんですか?」


「俺の事はいいんだよ」


「そういう事だからよろしくね」


「…わかりました。他でもない八恵様の頼みですから引き受けます」


「それともう一つ、陰陽庁からだ」


渡されたのは手紙だった。


「今回はなんですか」


内容は…

拝啓 吉備 暁仁様


 今年より、神居学園から特級の派遣を依頼されることとなりました。現在特級を討伐できる陰陽師8名に同じ内容の手紙を送りましたが、貴方様を除き全員に断られてしまいました。

 そこでお願いがあり、貴方様に神居学園への派遣を依頼したくこの手紙を送らせていただきました。

何卒ご協力のほどお願い致します。


 尚、藤助様の許可は得ているのでご心配はありません。


「…ようするに、面倒事を私に押しつけたいと?」


「まぁ、そういう事になるな」


「師匠はダメなんですか!」


「俺も忙しいんだよ。ついでに来年の春から派遣される予定だ」


「もう、期限がないじゃないですか」


「ついでに私は神居の生徒になる」


「静華も入学させる予定よ」


「…師匠、学校行ったことがない私に神居みたいな名門に入学できるとでも?陰陽術なら楽勝ですが、5教科の試験など私が受かるとでも?」


「暁仁は学校に行っていないのか?」


「桜嬢ちゃん、こいつは適当な学校に籍は入れているが、実際行ったことはないんだよ」


「それでは、教育の方は…」


「中学一年生止まりといったとこだな」


「…暁仁、お前は」


「そうですよ。頭がそこまでよろしくありませんよ。文系ならともかく理系は無理ですよ」


「何、お前さんは指導員として派遣する予定だ」


「昔、学校に行ってもらうって言ってませんでしたっけ?」


「学生とは言っていないだろう」


「組織の仕事は?」


「お前さんの部下が「我々が貴方様が不在の間、全てやっておきますのでご心配ありません」だとよ」


「陰陽庁の仕事は?」


「学園に行きながら、やりゃいい」


「……ブラックだ〜」


「引き受ける方向で話を進めておく」


「……わかりました。断れそうにないですし…」


「ついでに期間は7年間だ」


「大学生活まで面倒を見ろと?長すぎませんか?」


「よろしく頼みます」


「よろしく頼む」


「お前さんなら大丈夫だろ」


(主は難儀よな)


「最悪だ…」


「お前さんの服はこっちで用意してやる」


「師匠絶対何か企んでますよね」


 雪が降る京の街はとても美しく、それに比べ私の気持ちは先行きが見えないほど暗くなり、不安でいっぱいになるのであった。



東京にて〜


「紫晴様、神居学園の願書をお持ちいたしました」


「えぇ、ありがとう」


 とある座敷にて美しい紫色の髪をした巫女服の少女はそう側仕えの女性に返答した。


「いよいよですね」


「そうね」


「我が土御門家の天才児が神居学園で学ばれるとは同世代の我々とってこれ以上ない栄誉な事です」


「そうかしら、私以上の人間何ていくらでもいるじゃない」


「そのような事はありません。私も貴方様と同じ学び舎で学べること光栄に思います」


「貴方は、私のことを持ち上げ過ぎなのよ」


「そうですか?」


「全く、瞳は相変わらずよね」


「紫晴様が一族から捨てられた私を拾ってくださったご恩は私の一生でお返しするつもりですので」


「あら、私は貴方が側仕えにいてくれて嬉しく思っているわよ」


「…あ、ありがとう御座います」


「フフッ…」


「神居学園…退屈しのぎにはなるかしら」


 土御門紫晴はまだ見ぬ新たな出会いを心待ちにするのであった。
















    

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