人に言えないこと③
次にやって来たのは
「平沢さんですか。ええ、優秀な人ですよ。彼女を部下に持つことができて光栄です」と臆面もなく雅恵を褒めた。
「平沢さん、ストーカー被害に遭っていたようなのですが、何かご存じありませんか?」
「彼女がストーカー被害! いいえ~僕には何も言ってくれませんでした。まあ、彼女、あんな美人ですから、僕だってストーカーしたいくらいです」と根岸が言うと、「それは、かなり不謹慎な発言ですな」と柊が空かさず釘を差した。
「すいません」と根岸が萎れる。
関係者に圧力をかけてどうする? 口が重くなるだけだ。隣で黙って聞いている茂木は渋い表情だった。
「彼女がトラブルを抱えていたとか、ありませんか?」
「平沢さんが。トラブル! まさか、あんなに良い子なのに」
皆、同じ反応だ。
「良い子と言い切れるのですか? あなた、そこまで平沢さんと親しいのですか?」
相変わらず、柊は容赦ない。
「毎日、仕事で一緒にいるのです。良い子だってことくらい、分かりますよ」
結局、雅恵の何を聞いても良い子か美人だとしか言わないので、根岸からの事情聴取は早々に切り上げた。
平沢雅恵が通っていたダイヤモンドクラブに足を運んだ。
ヨガのインストラクターをやっているという女性から話を聞いたが、顔が分かる程度で親しくないと言う話だったので、「どなかた彼女と親しい方を知りませんか?」と聞くと、「だったら南雲さんが良いと思います」と答えた。
南雲はスポーツマンを絵にかいたような人物で、色黒で、筋肉隆々、白い歯が眩しかった。惜しむらくは髭が濃くて、剃り跡が目立ち、顎が細いことから、顔が貧相に見えてしまうことだった。
平沢雅恵について尋ねると、「ええ、知っていますよ。週に一回、来るかどうかですので、もう少し真面目に通ってくれれば、美しいプロポーションにしてあげるのですけどね。まあ、今でも十分、美しいプロポーションですけど、年と共に余計な肉がついて行ってしまうものですからね」と答えた。
柊が何も聞かないので、「彼女と親しいのですか?」と茂木が尋ねた。
「トレーニングの間に、少し、話をするだけです」
「ストーカーで困っている――みたいな話を聞いたことはありませんか?」
「ありませんねえ~僕に相談してもらえば、ストーカーなんて、直ぐに追っ払ってあげるのですけどね」
「彼女とトラブルになっていた人はいませんか?」
「さあ・・・まあ、あんな美人ですから、女性には嫉妬されていたかもしれません。はは」
南雲は大笑いした後で、「ああ、すいません。一人で盛り上がっちゃいまして」と謝った。
「ジムで仲良くなった人とか、いませんでしたか?」
「さて? 僕の知る限り、いませんけど」
「そうですか」と柊の顔を見ると、相変わらずそっぽを向いている。「ありがとうございました」と南雲からの事情聴取を切り上げた。
「彼、どうかしましたか?」と柊に聞くと、「ああいうやつがストーカーになるんだ」と忌々しそうに答えた。
「偏見でしょう」
「いいや、経験談だ」と言う。
ジムのインストラクターと過去に何かあったのだろうか?
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