友との出会い

 ――電車に揺られること一時間強、美空は指定された駅へとたどり着いた。

 やや小さな駅と言うこともあってか人は少ないものの、それでも制服を着た学生やらスーツ姿の大人やらが駅の中へと吸い込まれていく。

「えっと、場所は……」

 用紙に記載された案内図を頼りに集合場所へと向かうと、歳の近そうな少女たちが二、三人すでに集まっているのが見えた。

 その中に見知った顔がないことを確認した美空はほっと安堵の息をつくが、ふと、とある事が気になった。

 彼女たちは互いに距離を開け、会話を交わしているような様子もないのだ。

 それぞれがそれぞれの世界に入り込んでいるというのだろうか、互いに干渉はしないといったその雰囲気にどこか冷たいものさえ感じられる。

 といってもそれは決して仲が悪いだとかそういうものではなく、まるで互いに警戒しあっているかのような……。

「もしかして……あなたも?」

 羽織っていたジャケットの胸ポケットからチラッと生徒手帳を見せたのは、肩まで伸ばした藍色の髪が特徴的な少女。

 その髪の先端をクルクルと指で回しながら彼女は少しばかり挙動不審になっている美空にほほ笑みかける。

「私は蒲生がもう 瑠璃るり。よろしくね!」

 そう自己紹介した彼女は、自身の頬に人差し指をポンポンと当てるとその手を美空に差し出す。

「奏 美空です。よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げ、その手を取る美空の姿を見て瑠璃は慌てた様子を見せた。

「そんな緊張しなくても大丈夫だよ。それに、今日から同級生になるみたいだし敬語もなし! わかった?」

「はい! じゃなくて、うん!」

 キョロキョロと周囲を見渡した後、瑠璃は美空の手を引いて少し離れたところへと向かう。

「やっと話せる人が来てくれて安心したよ。私もさっき着いたところなんだけどみんな話さないし自分のことに夢中だし、息苦しいっていうかなんて言うか……」

 そう言って苦笑いをうかべる瑠璃に、美空は心の中でうんうんとうなずく。

 もしもあの場に瑠璃がいなかったら……。

 そんなことを考えてしまう美空だったが、浮かぶ思いは気まずさばかり。

 瑠璃がいたことに心の中で感謝していると、彼女はキラキラと目を輝かせた。

「ところでさ、美空っちって呼んでもいい?」

「え!?」

「ほら、仲良くなれた記念っていうか、出会えた記念というか!」

 楽しそうに話す瑠璃を前に断ることもできず、美空はうなずく。

「やったぁ! それじゃあ美空っち、改めてよろしくね!」

 二人が再び手を取り合うと、一台のバスがクラクションを軽く鳴らして近づいてくるのが見えた。

 よく見る観光バスや路面バスとは違ったデザインのそれは一目で美空たちを迎えに来たものだとわかる。

 皆がそれに目を奪われる中、プシュッと言う音を立ててドアが開く。

 そこから現れたのはバスガイドの制服に身を包んだ女性だった。

「お待たせいたしました。当バスご利用のお客様はこちらへどうぞ」

 まるで自身の顔を隠すかのように深々と帽子をかぶる彼女は、手を前に合わせて丁寧なお辞儀を見せる。

 普段あまり目にしないその光景にごくりと息をのむ美空たちをよそに、待っていた他の生徒らしき人たちは、まるで吸い込まれるかのようにバスの中へと乗り込んでいく。

「美空っち、行こ?」

「う、うん……」

 本当にこれに乗っていいのか、今更そんなことを考えるのは遅いと頭では理解している美空だが、その異質な様子にどうしても警戒してしまう。

「大丈夫! 私が付いてるって!」

 そう言って、美空の腕をクイッと引いて歩き出した瑠璃だが、二人揃ってガイドに制止された。

「生徒手帳を拝見します」

 二人が生徒手帳を差し出すと、ガイドは感情のこもっていない声で歓迎の意を述べる。

「確認いたしました。それでは蒲生 瑠璃様、奏 美空様、バスの中へどうぞ。ごゆっくりおくつろぎくださいませ」

 案内されるがままにバスの中に入ると先ほどいた人たちに加えてほかにも数人座っていたのだが、その光景はどこか異常と言わざるを得ないものであった。

 会話もなく各々離れた場所に座る人たち、外の光を一切遮断するかのように締め切られたカーテン、そしてただでさえ暗いのに電気ひとつついていない車内。

「それじゃあ……またあとで」

「うん……」

 そんな異様な光景に毒されてしまったのであろう、小声でそう言うと美空と瑠璃も離れて席に着く。

「それでは出発いたします」

 学園へと出発したバスの中、美空はふと外の様子が気になり、カーテンを下から少しだけ持ち上げた。

「何、これ……?」

 よほど外とのつながりを遮断したいのか窓ガラスは真っ黒に塗られていた。

 誰かに伝えた方がいいのか、芽生えた恐怖を抑えキョロキョロと周囲を見渡す美空だったが、

「あれ……?」

 不意に強い睡魔に襲われたかと思えば、そのまま美空は気を失うように――。


「それではみなさま、素敵な夢を」

 怪しく嗤うガイドの声を聴いたものは運転手以外に居なかった。

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